岐阜大学精神科医 塩入俊樹氏

 幼児期は、前期(1歳半~3歳)と後期(3~6歳)に分けます。幼児期前期の心の発達課題は、"自律性の獲得"と"言語の習得"です。自律性の獲得とは、自分で食事を取り、自分で排せつをコントロールすることです。食事や排せつなどの基本的な生活習慣のしつけは、通常1歳ごろから始められますが、これらの能力が獲得されるのが、幼児期前期ごろだとされています。

 しかし、最も重要なことは、幼児の自律性は個人差がとても大きいことです。例えば、皆さんの中には、おむつが取れたのが1歳の人もいれば、4歳でやっと取れたと、親に聞かされたことのある方もいるでしょう。でも、現在大人になった皆さんには、おむつがいつ取れたかなんて、どうでもいい話のはずです。ですから、両親はしつけに対して焦らず、あまり完璧志向に陥らず、適度を心掛けてください。時がたてば、必ず獲得できると子どもを信じる心が大切です。

 さらに、幼児期前期は、言語能力が著しく発達します。具体的には、知っている単語数が増え、構文も複雑になり、言語によるコミュニケーションが可能となります。また、乳児期後半に始まった外界への探索行動は、幼児期にはさらに活発となり、新しいものを見ることや経験することで能動性が育まれます。その結果、幼児は自律的行動へと向かうのです。

 幼児期後期になると、自我が芽生え始めます。「自分には独自の意見や感情があり、親とは異なる存在であること」を意識するようになるのです。その結果、幼児は自分の意見を主張するようになり、親に逆らうようになります。これが"第一反抗期"です。

 また、この時期をもって前回述べた「愛着(アタッチメント)」が完成します。そしてこれ以降、目の前に親がいなくても親のイメージを抱くことができるため、幼児はしばらく親と離れることが可能です。つまり、親から離れて社会的な経験を積むことができるのです。

 この時期の幼児は独立心も旺盛となり、さまざまなことを自分でやろうとします。うまく達成できると自発性や冒険心が育まれ、失敗する状況が重なると自分自身の行動に自信が持てなくなることもあります。ここで注意が必要なのが、自信がある子どもは反抗などの形で自己主張を行うので「素直でない」という否定的な評価を、逆に自分に自信のない子どもは従順なので「よい子」という肯定的な捉え方を周囲から受けることです。個々の子どもの自我の芽生えや独立心を尊重してあげましょう。心の発達のスピードは人それぞれです。

 さらに、幼児期後期では、他人の心の状態(目的、意図、信念、思考など)を類推し、理解する能力(心の理論)を獲得します。3歳ごろまではとても自己中心的であった幼児が、4歳半~5歳ぐらいまでには、他者の心を推測するようになるのです。このようなさまざまな能力を獲得し、子どもたちに社会性が始まります。

(岐阜大学医学部付属病院教授)