YJS笠松ラウンドでの勝利を喜ぶ兵庫の田村直也騎手(左)とJRAの三津谷隼人騎手

 秋晴れの下、田園風景に包まれた笠松競馬場に西日本地区若手ジョッキーのエネルギーが充満。地方、中央の垣根を越えたナイスファイトで、向正面の坂や3~4コーナーを巡る激しい攻防が繰り広げられた。

 25日に行われた「2019ヤングジョッキーズシリーズ(YJS)」のトライアルラウンド笠松。第1戦は兵庫の田村直也騎手がウッドカービング(栗本陽一厩舎)で、第2戦はJRAの三津谷隼人騎手がノスケアマゾン(柴田高志厩舎)で差し切り勝ち。ともにYJS初勝利を挙げ、年末のファイナルラウンド(大井、中山)初進出へ夢をつないだ。地元・笠松勢は今春デビューした東川慎騎手が負傷療養中で欠場したが、「あ~、まじで勝ちたい」と復活へ意欲。深澤杏花騎手候補生とともに、来年のYJS挑戦に闘志を燃やしていた。

YJS第1戦、兵庫の田村騎手がウッドカービングで差し切り勝ち

 勝った2人は苦労人で、これまで田村騎手が4年間で18勝、三津谷騎手が5年間で22勝。騎乗機会と勝利に恵まれてこなかったが、笠松の地では神懸かり的な騎乗を見せて、会心の勝利となった。2人にとってYJS初Vは、ジョッキー人生でも大きな1勝になったはず。この感触を今後のレースに生かして、飛躍につなげてほしい。

 勝利騎手インタビューでは「ここ笠松で勝てて良かった」と喜びがはじけた。35歳の田村騎手は、笠松の山下雅之騎手と似た経歴の持ち主で、教養センターを経由せずに兵庫競馬の厩務員から転身した遅咲きジョッキー。「YJSは今年限りですが、うれしいです。『勝ったぞ』と胸を張って帰りたかった。坂の下りから仕掛けて、4コーナーでは手応え十分で、長谷部騎手の馬をかわせると思った。しまいは伸びて突き抜けてくれて、何とか一つ勝てて良かったです。ファイナルに出られるように頑張ります」と闘志。

第2戦はJRAの三津谷騎手がノスケアマゾンで完勝した

 22歳の三津谷騎手もYJS出場は今年で最後。「勝利で30ポイント取れてホッとしています。しっかりと結果を出せて良かったです。2番手から4コーナーを回って勝てると思った。ファイナル進出も近づいたかなあと。笠松では通算2勝目ですが、また交流レースとかで来ることがあったら頑張りたいです」と意欲を示した。2レースとも長谷部駿弥騎手が2着に食い込んみ、兵庫勢の活躍が目立った。

 3年目を迎えたYJS。地方競馬の若手もJRA勢と腕を競い合い、大井、中山でのレースに挑むチャンスがあるだけにモチベーションは高い。地元開催だが、今年は笠松・名古屋勢の姿が見られず残念だった。2年連続でファイナルに進出した渡辺竜也騎手と、昨年の笠松、金沢ラウンドに挑んだ水野翔騎手は、ともに地方通算100勝ラインを突破し、見習騎手とYJSを卒業。負担重量減の恩恵はなくなり、先輩騎手と同条件で戦い、一人前のジョッキーとして全国、海外へと活躍の場を広げている。

来年のYJS挑戦へ意欲を見せる笠松若手の東川慎騎手と深澤杏花騎手候補生

 ヤングジョッキーが集まった装鞍所前には、「今の体重は53キロで、4キロ増かな」と、ややふっくらとした慎騎手の姿があった。地元での祭典に出場できない、つらい思いは胸にしまい込んで、深澤候補生とともに、レースを終えたジョッキーたちの鞍磨きなど馬具の手入れに励んでいた。

 慎騎手といえば、デビュー初日のメインレースをバレンティーノで豪快に勝ち、華々しいスタートを切った。笠松で5勝、名古屋でも1勝を挙げる活躍を見せていたが、7月のレース中、3コーナーでの落馬事故で肘など数カ所を骨折する大けがを負った。まだ攻め馬なども行っていないが、「地元のYJSには乗りたかったが、まだ左肘や背中が痛いし、鉄棒では懸垂もできなくて...。JRAの藤田菜七子騎手みたいに体幹が強かったらいいですが、僕も鍛えて早く騎乗したいです」と悔しそう。

 厩務員さんには「お前、出なあかんやろう」と声を掛けられていたが、5月にトップインパクト(後藤佑耶厩舎)というディープインパクト産駒の馬で勝ったことを思い出し、「慌てても仕方がないです。次の名古屋ラウンド(10月16日)も無理でしょうけど、11月には復帰したいです。これまで6勝ですが、また乗れるようになって勝ちたいです」と前を向いていた。

高知から笠松に戻った東川公則騎手と、レース復帰を目指す慎騎手。年内には再び親子対決も見られそうだ

 3カ月間の高知遠征を終えて笠松に復帰したのは、慎騎手の父である東川公則騎手。9月6日に50歳の誕生日を迎えたが、「高知では、いい刺激を受けて良かったです。結果(7勝)には納得できませんが、同期生(西川敏弘騎手、嬉勝則騎手)とも再会できたし、楽しくやれました」。9月16日の高知ファイナルレースでは、9番人気のレイカバドで2着と好走。「(笠松の元騎手だった)目迫大輔厩舎が乗り馬を用意してくれていた」と、笠松時代の後輩の熱い思いに感謝していた。

 復帰した笠松では「変わりないですが、乗り馬を探すのが大変かな」。療養中の慎騎手に対しては「無理はできない。じっくり、ゆっくり、焦らずにちゃんと治してから」と父親のまなざしを見せていた。27日には、オルオル(尾島徹厩舎)で笠松復帰後初勝利を飾ったが、再び親子一緒に同じレースで騎乗できる日を待ち望んでいることだろう。

YJSに参戦した高知の浜尚美騎手(右)と、来春の笠松デビューを目指している深澤候補生

 慎騎手の負傷に伴う騎手変更で、笠松ラウンドには地方競馬西日本トップの兵庫・松木大地騎手と、女性ジョッキーとして今春高知でデビューした浜尚美騎手が参戦。初めての笠松競馬場の印象について浜騎手は「ジョッキーの皆さんがすごく明るいですね。東川さん、池田さん、大塚さんら多くの方から、笠松での乗り方を教えてもらいました。坂がある馬場の特徴を生かして3コーナーから仕掛けたいです」と闘志を燃やしていたが、結果は7着。「駄目でした。もっと勉強ですね」と悔しそうだったが、地方競馬教養センターで一緒に学んだ慎騎手や深澤候補生らと再会でき、笑顔を見せていた。

 来年4月の笠松デビューを目指しているのは深澤候補生。毎日の調教には約20頭に乗っており、先輩のアドバイスを受けながら騎乗技術を磨き、レース開催中は騎乗を終えたジョッキーのサポートに励んでいる。YJSでは、教養センターでの先輩たちがレースに挑む姿に刺激を受けたようで、「レースに早く出たいです。いろいろな競馬場で乗りたいです」と夢いっぱい。来年のYJSには、晴れて「深澤騎手」として、慎騎手とともに出場を果たしたい。

 また、地方競馬の女性ジョッキーによる「レディスヴィクトリーラウンド」が開催されたら、浜騎手や木之前葵騎手らとの熱い戦いで地方競馬を盛り上げたい。いつか笠松でも開催されるかもしれない。今年1~2月、笠松での競馬場実習に励んだ関本玲花さんは、岩手競馬の騎手としてデビュー間近だ(10月)。地方の女性ジョッキーは今後も増える傾向にあり、アイドル的存在として競馬場を華やかに彩ってくれそうだ。

ゴール後の落馬で左肩甲骨を骨折した佐藤友則騎手。不屈の闘志で笑顔も見せていた

 今回、慎騎手は悔しい思いをしたが、ジョッキーという職業は、いつも体を張って命懸けのレースに挑んでおり、落馬事故によるけがとの闘いでもある。この日の3Rでは、リーディングの佐藤友則騎手が1着入線後に落馬。後続馬と接触し、左肩甲骨を骨折。全治約1カ月半ということだが、本人は「あんまり痛くないし、あしたも乗りたいくらい。脅威の回復力を見せますよ。京都のジムでもトレーニングに励んで、南関東遠征(10月14日から2カ月間)には間に合わせます」と、どんなピンチにも持ち前のポジティブさは変わらず。ドクターストップで、周囲からの心配する声にも、慌てず騒がず不屈の闘志で笑顔も見せていた。さすがは頼もしい地方競馬のトップジョッキー。この気迫があれば、今年は南関東でも大暴れしてくれることだろう。