甲子園出場を目指し、高校最後の夏に挑む山口恵悟選手

 8日開幕した第105回全国高校野球選手権記念岐阜大会に出場する昨年優勝校の県岐阜商で、背番号10を任された3年生右腕山口恵悟投手(18)は両耳に難聴の障害がある。甲子園に憧れ、岐阜聾学校(岐阜市加納西丸町)から県内屈指の強豪校に進学。仲間の支えもあり、ベンチ入りをつかんだ。夏3連覇が懸かる今大会は15日に初戦を迎える。「仲間のおかげでここまで来られた」。最高の仲間と高校生活最後の夏に挑む。

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 山口投手は、2歳半の時に両耳に障害があることが分かった。補聴器を着けて日常生活を送る。野球は、4歳上の兄の影響で、小学2年の時に始めた。中学では岐阜中濃ボーイズに入り、主に投手で三塁手としても活躍した。

 中学校までは、岐阜聾学校で過ごした。大きな決断をしたのは、中学3年の秋。補聴器なしではほとんど音は聞こえず、そのまま岐阜聾学校の高等部に進む選択肢もあったが、幼い頃から抱く「甲子園で投げたい」という夢をかなえるため、名門・県岐阜商に進学することを決めた。山口投手は「甲子園に行ける強い高校で挑戦してみたかった」と振り返る。

 ただ、苦労も多かった。入学後は新型コロナウイルス禍でマスク生活になり、主に口の動きでコミュニケーションを取る山口投手にとっては大きな障壁となった。

 支えとなったのは、硬式野球部の仲間たちだった。「自分が分からなかったら身ぶり手ぶりを交えてコミュニケーションを取ってくれた。みんな耳のことをとても理解してくれた」と感謝する。

 鍛治舎巧監督も良き理解者の一人だ。練習の時のコミュニケーションに加え、毎日LINE(ライン)でやりとりしたり、その日の練習の良かった点や悪かった点を書いた交換ノートで信頼関係を築いた。鍛治舎監督は「紆余(うよ)曲折あったが、それを乗り越えて本当にたくましくなった。今は最後の夏に懸ける熱い思いが伝わってくる」と目を細める。

 昨夏の甲子園では、初めてマウンドに立ったが、先発として試合をつくれず大敗を喫した。「次は甲子園で勝ちたい。そのためには(岐阜大会で)これまでで一番良い投球をして優勝したい」と目を輝かせた。