YJS高知に参戦した長江慶悟騎手。佐々木朗希投手のそっくりさんで、レース前には投球ポーズを披露した 

 「あー、2頭ともオール無印だ」。笠松競馬の長江慶悟騎手(23)=後藤佑耶厩舎=がNARのポスターでは「センター」に起用されたが、騎乗馬に恵まれず、専門紙の予想通り厳しい戦いとなった。

 地方・中央の若手騎手による17日の「2023ヤングジョッキーズシリーズ(YJS)」高知ラウンド。昨年は3着もあった長江騎手だが、今年は12着、7着で地方騎手(西日本地区)総合12位。名古屋の浅野皓大騎手(22)=今津博之厩舎=は8着、6着で総合8位。東海勢2人は奮闘したが5着以内の「掲示板」を逃し、やや出遅れた。それでも笠松、名古屋で計3戦ずつを残しており、上位進出へ巻き返しに燃えている。

「かつおのたたき」などの高知グルメ

 ■「かつおのたたき」など高知グルメ満喫

 長江騎手は、夜中から午前6時まで約20頭の攻め馬をこなした後、小牧空港から付き添いの広報さんと高知入り。騎手不足の笠松では、ハードスケジュール&ハードワークは当たり前。長期のレース休止を経験してきただけに「騎乗できるだけ、ありがたい」のかも。本番レースを控えてやや緊張気味だったが、海の日の祝日で超満員の「ひろめ市場」で、高知グルメ「かつおのたたき」などを味わい、エネルギーを補給した。

 2Rと4Rの騎乗馬は事前にスマホで出馬表を見て、脚質や持ちタイム、展開などを入念にチェック。抽選のくじ運には見放されたのか、競馬専門紙「福ちゃん」でも騎乗馬は低評価。長江騎手も「2頭とも無印かあ。2Rは12番人気だ」と苦戦を覚悟。ポスターではセンターでも、もちろん抽選で優遇されることはない。

 出場する若手騎手たちの力量差はあまりなく、くじ運が明暗を分ける。それでも与えられた馬で思い切ってやるしかない。長江騎手は高知競馬場入りすると、厩舎奥の騎手待機所で体を少し休めた後、調整ルームに移動。笠松やJRAでも問題になったように、持ち込み不可のスマホは保管してもらい、レース本番に備えた。

検量所前で行われた出場騎手の写真撮影

 ■「笠松競馬の佐々木朗希…アッ、長江慶悟です」

 高知競馬はナイター開催で、2Rは15時30分発走。地方競馬から8人、JRAから5人で、まず検量所前で写真撮影が行われた。プロ野球・ロッテの佐々木朗希投手のそっくりさんとしてテレビ出演も相次いだ長江騎手。NAR公式チャンネルによる地方騎手の動画撮影もあり、まず「笠松競馬の佐々木朗希です…アッ、笠松競馬の長江慶悟です」と期待通りの一言でピッチングフォームも披露してくれた。

 笠松での不祥事の余波で一昨年はYJSに出場できず、昨年はわずかな差でファイナリストの座をつかみ損ねた。今回に懸ける思いは非常に強く「ファイナル進出を目指して全力で頑張ります」と闘志を燃やした。

 浅野騎手は岐阜県羽島市出身で3度目のYJS挑戦。4月1日時点では通算100勝以下(減量騎手)だったため、今年も参戦できた。その後、勝利を積み重ねて減量騎手は卒業。「今年がラストになるので、必ず優勝を目指します」と力強い言葉。昨年は大逆転で進出を果たしており、中京・芝コースも経験し、総合5位と大健闘。ラストチャンスで表彰台を狙う。

スタンド前ステージでの出場騎手紹介式

 ■ファンや家族らに花束プレゼント

 1R終了後にはスタンド前ステージで出場騎手紹介式が、ファンの熱い視線を浴びて華やかに行われた。JRAからは岐阜県岐南町出身の田口貫太騎手(19=栗東・大橋勇樹厩舎)らが参戦。長江騎手については「令和の怪物・佐々木朗希投手に負けない圧巻の騎乗を見せる」と、笠松のレース実況でもおなじみの西田茂弘アナが紹介。どうやら「佐々木投手そっくりの長江騎手」は鉄板ネタとして全国的にも定着してきたようだ。

ファンに花束を手渡す田口貫太騎手(左)と長江慶悟騎手(中央)

出場騎手から花束を受け取った家族やファンら

 ステージ前には長江騎手のご両親の姿もあり、優しく見守りながら応援。各ジョッキーには花束が贈られていたが、家族の姿を見つけた長江騎手はアイコンタクトで素早く花束を手渡してプレゼント。コロナ禍による規制も緩和され、笠松などと同じようにファンサービスとして行われ、浅野騎手や田口騎手らも駆け付けたファンを喜ばせた。

2Rでパドックを周回する長江騎手(右)と田口騎手

 ■第1戦はJRA・松本大輝騎手が差し切り、浜尚美騎手2着

 佐賀に続く第2戦の高知ラウンド。1周1100メートルで、ゴールまでの直線距離は200メートル。スタート地点も4コーナー奥のポケットからで笠松と同じコース形態。馬場の良い所を走れる外枠が有利とされる。出走馬のパドック周回ではミストが大量に噴射され、カメラやスマホを手にしたファンらは「ミスト、邪魔なんだけど」などと暑さの中での撮影に苦労。場内では新遊具広場「バババパーク」も4月にオープンし、親子らの憩いの場として人気を集めている。

 YJS高知・第1戦の2R(1400メートル)は波乱ムード。3番人気・グランチェイサー騎乗の松本大輝騎手(栗東・森秀行厩舎)が3番手から追い上げ、きっちり差し切って1着ゴール。逃げた地元・高知の浜尚美騎手が10番人気で2着に粘り込んだ。3着には兵庫・長尾翼玖(たすく)騎手が7番人気で突っ込み、3連単は22万円近い高配当になった。

2Rでエムテイオーに騎乗し、ゴールした長江騎手

 ■深い砂と暑さ…長江騎手は大差負けで苦笑い

 長江騎手は先行タイプのエムテイオーに騎乗。「逃げられればチャンスはある」と期待したが、スタートから後方のままでしんがり負けに終わった。すんなり先行したかったが、ただ一頭だけ大きく引き離され「全然駄目でした。馬が死にそうなぐらいでした」と大差負けに苦笑い。笠松の軽い馬場と違って砂が深くて、暑さにも苦しめられた。

 浅野騎手の騎乗馬・アーヴィンドには◎印もあって2番人気だった。4、5番手を進み、最後の直線に懸けたが伸び切れずに8着。「駄目でしたね。『そんなに外を回る必要はない』と指示があり、いいポジションを取れました。3~4コーナーでは『(1着も)あるかなあ』と思ったが、仕掛けがちょっと早かったのか、最後は止まっちゃいましたね」と残念そうだった。

4R、長江騎手(左)は7着、浅野騎手は6着でゴールした(笠松競馬提供)

 ■第2戦は浅野騎手6着、長江騎手7着

 第2戦の4Rも1400メートル。この日、最もくじ運が良かったのは松本大輝騎手。第1戦の3番人気に続いて、第2戦は1番人気のデロリスに騎乗しハナを切って逃げ切り勝ち。スタート直後から前3頭の競馬で、2着に金沢で今年デビューした加藤翔馬騎手、3着には高知の岡遼太郎騎手が入った。

 長江騎手は名古屋にも在籍していたコーヒーソフトに10番人気で騎乗。未勝利馬だが、ひと脚は使えるタイプ。中団やや後ろからの競馬で、最後の直線ではインを突いて懸命に追い上げたが7着。レース内容はまずまずだったが「良くないですよ。ゲートで馬がもがいていたんで駄目でした」と振り返り、掲示板には3馬身届かなかった。

1戦目、8着だった浅野皓大騎手

 ■浅野騎手「昨年勝った名古屋でまた1着を」

 浅野騎手は9番人気のハコダテジョーに騎乗したが、中団から6着どまり。それでも昨年の高知では、10着2回で2ポイントしか挙げられたかったが、今年は8着、6着で12ポイントにアップした。「1戦目は意外と駄目でしたが、名古屋でもう1回、昨年のように1着を目指して巻き返します。名古屋(2戦)と笠松(1戦)であと三つあるんで、まあ次だなあ」と意欲。昨年は地元の名古屋で1着、2着と50ポイントを上積み。総合3位でファイナルへ進出した。「昨年はたまたまですよ」と言うが、1、3番人気で騎乗した強運と勝負強さで、今年もまくっちゃうかも。 6月の笠松・クイーンカップではペップセで自身初となる重賞制覇。20日の笠松では準重賞の第1回ブルームカップを再びペップセで勝っており、波に乗っている。

YJS初参戦でJRA西地区の総合5位につけた田口騎手

 ■田口騎手は7着、4着で笠松ラウンドにも参戦

 両親が笠松競馬元騎手で、古里への参戦も多い田口貫太騎手の騎乗ぶりにも注目した。「一鞍一鞍大切に騎乗し、ファイナルへ進出できるよう頑張ります」と挑んだYJS初戦は5番人気で7着、2戦目は5番人気で4着という結果。「高知コースは初めてでしたが、これまで乗せてもらった競馬場より『馬場が深いな』という印象で、馬の走りが違っていて、返し馬からしんどそうに走っていました」とのことだ。

 1Rのエキストラ騎乗では、800メートル戦で1番人気に応えて2番手から一気の「貫勝」。高知初騎乗Vを飾った。3RのJRA交流戦「よさこい盃」でもシゲルミライで1番人気だったが、ゴール前でかわされて惜しくも2着。「最後に止まっちゃいましたね。もっと攻めなければ。後ろから来てるのは分かっていましたが、追い出したら自分でやめる感じでした。次があったら頑張りたいです」と。地方競馬ジョッキーズチャンピオンシップ王者となった高知・宮川実騎手の猛追に屈した。

 YJS初参戦を終えて「普段から乗せてもらっている感じで、YJSも変わらず乗ることができました。(2戦目の4着は)小柄な牝馬でしたが、しまいに脚を使える馬なんで、そこを生かした。前が止まっていない展開の中、よく脚を伸ばしてくれました」と振り返り、2戦で18ポイントを獲得し、JRA勢の5位につけた。残りは笠松ラウンド(10月11日)の2戦で、楽しみが膨らむ。既に6勝を挙げている相性の良い「地元コース」でファイナルを目指す。

1戦目、しんがり負けで苦笑いの長江騎手

 ■「まだ三つ残っているんで、気持ちを切り替えて」

 レース後、重そうな足取りで調整ルームに戻ってきた長江騎手だったが、シャワーを浴びて着替えてからはスッキリとした表情で、2戦を振り返った。馬の力不足もあったが、冷静さを取り戻して「きょうは僕のせいですよ。馬の最大限の力を出す前に、僕が技術不足でした。(2戦目は)スタート前にゲートで馬がもがいていた時点で駄目ですね。そこは反省しています」と乗り役の責任を果たせなかったことを悔やんでいた。

 「でもまだ名古屋と笠松で三つ残っているんで、気持ちを切り替えていきます」とキッパリ。「反省しつつ、また次に生かして、最後の笠松でまた勝てるようにしたい。きょうもJRA勢が二つ勝っているんで、(地方勢は接戦で)チャンスはゼロではないので必死に頑張ります」とファイナル進出へ意欲を示した。 

1戦目2着を悔しがった浜尚美騎手。地方騎手西日本地区のトップに立った

 ■松本騎手が連勝、浜騎手は地方勢トップ

 開幕戦の佐賀で2勝を飾った小沢大仁騎手に続いて、高知でもJRA勢の松本大輝騎手が連勝。ともに60ポイントでトップタイ。松本騎手は身長176センチと長身で滋賀県出身の20歳。第1戦は「最後でかわそうと馬の気持ちを大事に乗りました」、第2戦は「YJSでは前が速くなって共倒れになる展開が多いので、ペースを落として最後まで持たせる競馬ができた」と喜びを語った。騎乗馬にも恵まれ、展開の読みがピタリと当たり、最高の結果を引き出した。

 地方勢では浜尚美騎手が30ポイントでトップ。現在は兵庫で期間限定騎乗中だが、地元・高知で好騎乗を見せた。それでも1戦目はゴール寸前で差し切られてアタマ差の2着。「ああ、悔しい」を連発し「勝てたよ、今の絶対。自分が駄目で失敗でしたね」と悔やんだ。それでも10番人気での上位入線は素晴らしく、長江騎手らも見習うべきだろう。

 金沢の加藤翔馬騎手が2ポイント差の2位で続き、高知の岡遼太郎騎手が3位で追っている。地方勢は大接戦の様相で、浅野騎手や長江騎手も昨年のように地元で勝てば、ファイナル進出の可能性が高くなる。

レースでは不完全燃焼だったが、リクエストに応えて再び投球フォームを披露した長江騎手

 ■長江騎手、笠松で勝ってファイナルへ

 昨年のYJSでは長江騎手、浅野騎手ともに計4戦だったが、今年は1戦多い計5戦でのチャレンジとなった。ポイント計算は成績上位の4戦が対象となる。このため、長江騎手の場合、この日の1戦目(12着)はカウントせずに、2戦目(7着)の6ポイントから上積みしていければ、ファイナルへとつながる。

 長江騎手は佐々木投手のように勝ってヒーローインタビューを受けたかったが、しんがり負けでKOパンチを食らった展開。さすがに野球のユニホームは持参しなかったが、「抑えのエースとして、待っていたよ」と声を掛けると、笑顔を取り戻した。NARのインタビューは5着以内が基本で、「朗希、きょうは『意気込み』にしか出ていない。(「アタック地方競馬」でも)特集されているんだから、このままでは終われないよ」とカメラマンさんにも励まされ、ようやく出番。佐々木投手になりきって、再びピッチングフォームを披露してくれた。

 ■悔しさをバネに、1日3勝の固め打ち

 高知空港から笠松競馬場に戻った長江騎手。深夜12時から再び調教がスタート。寝る時間は前日からほとんどなく、笠松開催に向けて攻め馬を続けた。小牧空港では「馬の上で寝てますよ」と冗談も言っていたが、日増しに成長した姿を見せており、頼もしくなってきた。所属している後藤佑耶厩舎では騎手候補生を迎え入れており、来春には兄弟子となる長江騎手。19日の笠松競馬初日には3、7、12Rで勝利を収め、自身最多となる1日3勝の固め打ちを見せてくれた。

 特に最終レースでは、逃げ込みを図ったルーキーの松本一心騎手を差し切ったハナ差勝ちは鮮やかだった。「YJS高知での悔しさをバネに、一つ一つの勝利を積み重ねていきたい」と意欲。この調子で馬主さんや各厩舎からもより信頼されるジョッキーへともう一回り成長し、YJS名古屋、笠松ラウンドでも勝利につなげたい。また、この日の夜、名古屋・バンテリンドームでのオールスター戦では、先発した佐々木投手が勝利投手にもなった。野球少年でもあった長江騎手は、いつかプロ野球の始球式でマウンドに立つ日も夢見ている。


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