ミスターメロディで高松宮記念を制覇した福永祐一騎手

 平成最後となった中京競馬場でのGⅠレース「高松宮記念」(3月24日)。ファンの熱気はすごく、開門ダッシュをする人であふれ、午前8時半には一般席も満席となった。中京では数々の名勝負が繰り広げられてきたが、伝説の大逃げ・サイレンススズカの金鯱賞は、強烈にファンの心に焼き付いている。

 かつては東海公営・名古屋競馬の中京開催があり、芝コースで笠松の馬が走っていたこともあった。まだGⅡだった「高松宮杯」時代の1988年には、オグリキャップが古馬勢を圧倒して勝利。GⅠ昇格後の2003年には、アンカツさん(安藤勝己元騎手)がビリーヴでうれしいGⅠ初制覇を達成。笠松育ちの名馬、名手にとっても、その後の飛躍へ大きなステップになったレースだった。 

先頭でゴールに入るミスターメロディ

 今年は戦国ムード漂う中、福永祐一騎手が騎乗した3番人気ミスターメロディ(牡4歳、藤原英昭厩舎)が最後の直線で抜け出し、GⅠ初勝利。1200メートルの電撃戦で、新たな短距離王に輝いた。福永騎手は3度目の高松宮記念Vとなり、「やりたいレースができました。リズム良く運べ、直線では内を突いて馬が頑張ってくれた。短距離界を引っ張ってくれる存在に」と今後の成長に期待を込めた。内枠を生かした位置取り、立ち回りとも素晴らしく、福永騎手の好騎乗が光ったレースだった。

 6日前の3月18日には、福永騎手が1998年に日本ダービーで騎乗したキングヘイローが老衰のため亡くなっており、ゴール板を過ぎて、その雄姿が頭をよぎったという。「このタイミングだったので、(勝利を)後押ししてくれたのかな」と、かつての愛馬への感謝を忘れなかった。キングヘイローとのコンビでは、皐月賞2着から日本ダービーに挑んだが14着に完敗し、自らの手綱ではGⅠ馬にできなかった。2000年の高松宮記念ではディヴァインライトに騎乗し、キングヘイロー(柴田善臣騎手)からクビ差の2着に敗れた悔しさもあって、当時のことが鮮明に思い出されたようだ。

ラストランとなったスノードラゴン(右)には、2度目のGⅠ挑戦となった藤田菜七子騎手が騎乗した

 2着には一昨年の覇者で12番人気セイウンコウセイ、3着には17番人気ショウナンアンセムが入り、3連単は449万7470円の大波乱となった。1番人気のダノンスマッシュは4着に敗れ、GⅠ挑戦2度目となった藤田菜七子騎手が騎乗したスノードラゴンは17着に終わった。

 14年スプリンターズS覇者で、11歳になったスノードラゴンはラストランとなり、引退後は種牡馬入りする。菜七子騎手は「3コーナーで(他馬に)前に入られてリズムを崩し、危ないシーンもありました。この経験を次に生かして頑張りたい」と意欲。3月からの女性騎手減量ルール適用後は、6日の笠松参戦を挟んで4週連続で勝利。23日の中京では2連勝するなど好調ぶりをアピールし、先行する人気に自らの騎乗技術も追い付きつつある。

 平成の開催を終えた中京競馬場だが、これまで多くの名馬が誕生。開設60周年(2013年)を記念したファンが選ぶ「思い出のベストホース大賞」の1位には、1998年の金鯱賞(GⅡ)を11馬身差で華麗に逃げ切ったサイレンススズカが選ばれている。2位は高松宮杯を勝ったオグリキャップ。3位にタップダンスシチー、4位にハイセイコー、5位にはロードカナロアが入っている。

GⅠデーを迎えた中京競馬場の入場門前

 GⅠ昇格前、7月に距離2000メートルで行われていた高松宮杯は、夏の中京の名物レースだった。中央に移籍後、ペガサスSからNZT4歳Sまで重賞4連勝を飾っていたオグリキャップにとっては初めての古馬戦。前年覇者で日本ダービー4着馬のランドヒリュウ(南井克巳騎手)との一騎打ちになった。オグリキャップ(河内洋騎手)は単勝1.2倍と圧倒的人気。京都4歳特別で1度乗ったことがあり、その強さを知っていた南井騎手はランドヒリュウを先行させ、オグリキャップの末脚を封じ込める作戦に出た。

 最後の直線に入って河内騎手がムチを入れると、オグリキャップはぐっと馬体を沈めて、逃げ込みを図るランドヒリュウを追撃。一瞬「ああ、届かないかも」と思わせるランドヒリュウの脚色だったが、オグリキャップはじわじわと追い上げ、ゴール前では一瞬の切れ味が勝り、豪快な差し切りVを決めた。レコードタイムで、地方出身馬としてはハイセイコーを超える破竹の重賞5連勝を達成。笠松から中央に乗り込んできた「芦毛の怪物」の快進撃に、地方のファンも中央のファンも胸を躍らせた。テレビの実況アナは「歴史に残る名勝負でしたね」と感嘆し、オグリキャップ時代の到来を予感させた。

 デビューして4カ月、「どこまで強くなるんだ」と、オグリキャップの魅力に取りつかれたファンは急増していった。有馬記念やジャパンカップなど、その後の激闘では「彼のレースを見ると、不思議と頑張ろうという気持ちが湧いてくるんだ」という声もあり、その勝負根性、魂の走りに勇気づけられたファンは多かった。

ビリーヴで高松宮記念を勝ち、悲願のGⅠ初制覇を達成したアンカツさん(2003年3月31日付・岐阜新聞)

 2003年3月には、アンカツさんがJRAへ移籍し、最初に挑んだGⅠが高松宮記念だった。ライデンリーダー、レジェンドハンターで悔しさを味わってきた男は、GⅠを勝つために笠松から移籍を決意。デビュー後、重賞3勝の勢いそのままに夢舞台でも3番人気ビリーヴ(牝5歳)をゴールに導いて、悲願のGⅠ初制覇を成し遂げた。場内のゴール前に駆け付け、アンカツさんの栄冠奪取を観戦できて、こちらも最高の気分になった。

 レースでは、圧倒的1番人気のショウナンカンプが逃げて最終コーナーを先頭で回ったが、好位を追走していたビリーヴは一気にスパートし、鮮やかに差し切った。猛然と2着に追い込んだサニングデールには福永騎手が騎乗し、オグリキャップが所属した瀬戸口勉厩舎の馬だったことも、今となっては、ほほ笑ましく感じられる。ショウナンカンプは7着に敗れ、馬単は7340円と高配当になった。

 「歓声が多く、とても気持ちが良かった。こんなに早くGⅠを勝てるとは思わなかった。スタートから行きっぷりが良く、最後の直線に向いてからの手応えもすごかった」とアンカツさん。笠松時代にはあと一歩届かなかったGⅠ制覇をついに達成。地元ファンの一人として、興奮して「武豊よりうまいぞ。アンカツ、日本一」と叫んでいた。

 当時の岐阜新聞も快挙を熱く伝えている。「レースが終わった瞬間、ジーンときた」とアンカツさん。「地方競馬のヒーローは、名実ともに中央競馬の主役に躍り出た。移籍を惜しむファンの声も聞きつつ、『上のステージを目指したい』と移籍を決め、高松宮記念は最高の晴れ舞台となった。『次は桜花賞を狙います』とクラシック制覇を誓った」という。

 中央の競馬場での自らの騎乗技術の未熟さから、ライデンリーダーで敗れた桜花賞への思いは強く、06年にキストゥヘヴンで初制覇。ダイワスカーレット、ブエナビスタ、マルセリーナと計4勝を挙げて「桜花賞男」ぶりを発揮した。

女性感謝デーのレース表彰式で、にぎわう笠松競馬場内

 笠松競馬の新年度開催は2日から4日間。18年度の馬券販売額(2月現在)は、約218億3100万円(前年同期比13.8%増)と好調で、実質単年度収支は6年連続で黒字となる見込み。「販売額全体の76%を占めるインターネットによる馬券販売が伸びている」というが、ネット販売では手数料が高く、ファンには競馬場へ足を運んでもらうことが一番。春分の日には女性感謝デーとして開催され、入場者1862人のうち425人が女性だった。男性アイドルによる冠レースやトークショーなどもあり、場内は華やいだ雰囲気に包まれた。

 4月開催からは東川慎騎手がデビューし、父・公則騎手との直接対決も見られそうだ。園田からは、これまで期間限定騎乗だった松本剛志騎手の笠松移籍も決まった。一時13人まで減少していた笠松競馬のジョッキー数は、17人に増えることになる。4日には3歳重賞「新緑賞」が開催され、白熱したレースとともに、堤防沿いでは桜見物も楽しめそうだ。