ここは毎度お騒がせの笠松競馬場。大揺れした2021年。岐阜新聞の県内十大ニュースではコロナ猛威、知事選、東京五輪、衆院選に次いで「笠松競馬、不祥事で開催自粛」が第5位にランクイン。一般市民からも厳しい視線が注がれた。オグリの里としては「不祥事のデパート」とも呼んで、一連の事件について検証。「立ち上がれ、あしたのために」と浄化・再生を求め、レース再開を呼び掛けてきた。所属騎手は9人に半減してしまったが、苦難の末に何とかゲートを開いて再スタートを切った。

 長~いトンネルの先に「希望の光」を求めて迷走したこの1年を「オグリの里2021十大ニュース」として振り返るとともに、舞台裏や復興への道を探った。

 

 ①調教師・騎手の馬券不正購入と所得税申告漏れ発覚、8カ月間の開催自粛(1月18日~)

 「激震が走った、騎手は何人残れるのか」 笠松競馬に名古屋国税局のメスが入った。騎手や調教師ら約20人による計3億円超の所得税申告漏れが発覚。うち約2億円は、騎手や調教師が他人名義で笠松競馬の馬券を不正購入し、所得隠しと認定された。19日からのレース開催は自粛となり、「黒い霧」が立ち込めた競馬場は8カ月間も閉鎖となった。

 ★前年、厩舎関係者による内部告発から明るみになった一連の事件。競馬法違反の疑い(馬券購入)で県警の事情聴取、家宅捜索を受けた調教師1人と騎手3人が引退。競馬組合による現役騎手らへの聞き取り調査で「違法な馬券購入の事実は確認されず」と幕引きが図られたが、この対応が甘かった。水面下では「他にも不正に関わった騎手、調教師がいる」とネット上の動画などで騒がしくなり、「脱税」という形で年明けに表面化。警察の捜査だけでなく、国税局の摘発で巨額不正事件へと発展した。

 騎手や厩務員らは攻め馬だけの期間が長引き「このまま競馬場がつぶれたらどうしよう」と不安な日々。ファンらは「レースが再開できても、騎手は何人残れるのか」と注目。3月、県警捜査がようやく終結。元調教師1人と元騎手3人を競馬法違反の疑いで書類送検。4月に罰金30万~40万円の略式命令を受けた。

 

 ②馬券不正購入、所得隠しの実態を第三者委が報告(4月1日)

 「黒いカネ1億4000万円」 第三者委員会の「不適切事案検討委」が調査報告書を発表。騎手、調教師らの馬券不正購入グループが暗躍。内部情報を悪用し、判明した4年間だけでも約1億4000万円の収益を得ており、「黒いカネ」の実態を解明。中心的存在だった元調教師1人と元騎手3人のほか、現役の騎手2人と調教師2人の計8人が馬券の不正購入に関与。ほかにも騎手3人と調教師1人が、「騎乗馬は体調不良で勝負にならない」といった情報提供の見返りに現金を受け取っていた。調教師によるセクハラも判明した。

 ★競馬組合は警察の捜査が終わるまで動けず、自粛期間は長期化した。昭和の時代(1975年)に八百長事件はあったが、当時の教訓は風化。馬券購入の悪質行為を繰り返していた。コロナ禍で無観客が続き、唯一の購入手段となったネット履歴があぶり出された。笠松競馬という小さな「村社会」で、不正は昭和、平成、令和と断続的に行われていたとみられる。経営難による廃止のピンチを乗り越えてきたが、騎手らへの賞金・手当は大幅カットが続き、厳しい生活を強いられた。三者委は待遇改善も求めた。

 騎手自らが騎乗レースの馬券を購入していた前代未聞の事件。ほかの地方競馬でも八百長などのうわさはあったが、国やNARも「笠松競馬は特別」と不正を見逃さなかった。「八百長」とは認定されなかったが、8年前には放馬による死亡事故もあって、存廃問題では「赤信号」が点滅状態。もし今回の事件で「八百長」と断定されていれば、笠松競馬は廃止になっていただろう。

 

 ③処分発表で新たに騎手5人、調教師3人引退(4月21日)

 「歴代リーディング次々と退場」 競馬組合は対象者の行政処分と再発防止策を発表。馬券の不正購入で得た「黒いカネ」に群がった騎手、調教師たち計12人に「レッドカード」を突き付けた。歴代のリーディング騎手も多く含まれ、次々と退場した。「競馬関与禁止」が引退済みの元調教師1人、元騎手3人。「競馬関与停止」(6カ月~5年)は現役の騎手5人と調教師3人で、NARから免許を取り消され、引退となった。このほか調教師1人がセクハラ行為で調教停止(90日)の処分を受けた=8月に引退。

 組合管理者だった古田聖人笠松町長や組合職員も管理監督責任を問われ、新たに河合孝憲副知事が管理者に就いた。組合幹部は不祥事を謝罪。再発防止策として、不正購入の温床となった調整ルームに監視カメラを増設するなど監視体制を強化した。

 ★競馬場刷新への決意の表れで「厳しい処分」「当然でしょう」といった声が聞かれた。この時点で組合は6月再開を目指していたが、県サイドとの足並みはそろわず。厩舎関係者の所得申告漏れ再調査や、SNS上の懸賞金受領問題で自粛を延長した。

 不正防止策は強化されたが、調整ルームなど装鞍所エリア内でなければ、監視の目は届かない。ルーム入り前の情報収集による馬券の購入依頼や「ノミ行為」への関与など、抜け道はいくらでもありそうだ。関係者一人一人が高いモラルを持って「公正競馬の徹底によるクリーン度100%」に努めていきたい。