産婦人科医 今井篤志氏

 女性のみならず男性も、一度は経験したことがある体の不調に「陰部のかゆみ」があります。なんとなく気になるかゆみから、夜中に目が覚めてしまい、かきむしってしまう程のかゆみまで、程度はさまざまです。

通常、健康な成人女性の腟(ちつ)には、乳酸菌という善玉菌が存在しており、粘液に含まれる糖分を乳酸に分解して弱酸性に保ち、外部からの細菌やウイルスの侵入を防ぎます。この乳酸菌は細菌の仲間ですので、風邪薬や抗生剤を飲むと乳酸菌が弱り、腟に潜んでいるカビや悪玉の細菌が増えます。また、疲労や糖尿病などで体の抵抗力が落ちても、外部から細菌が侵入しやすくなります。

 カンジダというカビは体中にすんでいます。乳酸菌が減ってカンジダが腟内で異常に増殖すると、外陰部が赤く腫れ、強い痛がゆさを感じます。これを「外陰・腟カンジダ症」と言います。性行為がきっかけとなることもあります。特徴は白いボロボロとしたおりものを伴うことです。男性の場合は症状がでないことが多いのですが、性器にかゆみを感じることがあります。

 雑菌が腟内で増殖すると、「細菌性腟炎」に陥ります。外陰部のかゆみとともに、臭いの強い膿(うみ)のようなおりものが現れます。トリコモナスという微生物が侵入しても、我慢できないかゆみ、悪臭のある泡状のおりものの増加が見られます(トリコモナス腟炎)。

 激しいかゆみが生じる病気には、インキンタムシとも呼ばれる「陰部白癬(はくせん)」もあります。カビの一種である白癬菌が原因です。このカビは湿った部位で繁殖しますので、汗むれになりやすい股やお尻の部分に感染します。男性に多く、夏場に発症します。最初はコイン程度の円盤状で、だんだん外側に広がっていきます。正常な皮膚との境目がはっきりと分かります。原因のほとんどが人から人への感染ルートですので、患っている人とのタオルの共有、トイレの便座などに注意することも重要です。治療には、塗り薬が有効です。

 毛ジラミが陰毛に付着すると、激しいかゆみが現れます。これを「毛ジラミ症」と言います。主に陰毛に付きますが、肛門周囲、わき毛、胸毛などにも付着します。毛ジラミは陰毛の毛根にがっちりとしがみ付き、ヒトの血液を吸います。ヒトから離れたシラミは吸血できないので2~3日で死んでしまいます。1ミリほどの大きさですので、目を凝らすと陰毛に強固に付いた白い粒状に見えます。性交渉では陰毛がじかに接触するので簡単に感染します。感染が疑われるパートナーとの接触を避けることが重要です。また、家族間では毛布やタオルを介した感染もあります。一番確実な治療は感染している部位の毛をそることですが、専用のシャンプーやパウダー、シラミをそぎ落とすくしもあります。

 微生物以外にも、下着やせっけんの刺激が原因となる「接触性皮膚炎」もかゆみを生じます。更年期以降に、女性ホルモンが減ることでかゆみを感じる「外陰萎縮症」もあります。陰部のかゆみは、部位が部位だけに様子を見てしまいがちですが、専門家に相談することをお勧めします。

(松波総合病院腫瘍内分泌センター長、羽島郡笠松町田代)