消化器内科医 加藤則廣

 今回は、近年欧米で増えていて、近い将来に日本でも増加が危惧されている、バレット食道がんを取り上げます。

 日本における食道がんは、食道の中部に多くみられ、喫煙と飲酒が二大危険因子として知られています。食道粘膜は組織学的に重層扁平(へんぺい)上皮で、そこから発生する扁平上皮がんが、現在の日本の食道がんの90%を占めます。

 実は欧米でも、以前は扁平上皮がんが多かったのですが、1980年ごろより食道下端にできる腺がんが増加してきて、最近は扁平上皮がんより、腺がんの患者数が多くなっています。その成因は、逆流性食道炎の患者の増加と関連しているとされています。

 欧米ではピロリ菌感染率が低いため、胃酸分泌が保たれている人が多いのですが、高脂肪食と肥満や高齢に伴う食道裂孔ヘルニアによって、胸焼けなどの症状を訴える逆流性食道炎の患者が多い状況です。食道粘膜の重層扁平上皮は胃酸に弱く、食道に逆流する胃酸は下部食道に常に慢性の炎症状態を生じます。そのため中には、食道下端の粘膜が扁平上皮から、胃酸に強い胃粘膜と同じ腺上皮に変化してしまう患者がみられます。

 発見した医師の名前をつけてバレット上皮と呼ばれます。日本人は白人と比べてバレット上皮が短い患者の比率が高く、人種による差もあるようです。このバレット上皮から、胆汁の逆流をはじめとした多くの要因によって、発がんを来すことが明らかになっています。

 肥満は腹圧の上昇を来して逆流性食道炎を悪化させるだけでなく、アディポネクチンを低下させ、レプチンが増加して食道胃接合部の炎症を増強すると報告されています。ただ肥満は女性よりも男性との関連性が高いようです。さらに肥料に使用されて野菜などに多く含まれる硝酸塩が、胃酸と接触して一酸化窒素(NO)を発生し、下部食道粘膜に障害を及ぼしていることが報告されています。また、食道内の細菌叢(そう)の変化の関与も推測されています。しかし発がんの機序に関しては、いまだ一定の見解には至っていません。

 日本でも、若年者のピロリ菌感染の低下やピロリ菌の除菌治療により胃酸分泌が回復しましたが、欧米と同様に高脂肪食の摂取や肥満の増加によって逆流性食道炎の患者数が増えています。今後は欧米と同じように、バレット食道がんが増加することが推測されています。バレット上皮を有する逆流性食道炎の患者は、定期的に内視鏡検査を受けることをお勧めします。

(岐阜市民病院消化器内科部長)