産婦人科医 今井篤志氏

 皆さんはクラミジアという言葉を、一度は耳にしたことがあると思います。クラミジアは細菌の一つで、性行為で広がる性感染症の中で最も流行しているものの一つです。性行為経験のある女子高校生の1~2割がクラミジアに感染しているという報告があるほど、若い女性に急増しています。その背景には性行為の若年化、多様化、そして性行為感染症に対する無関心があります。クラミジア感染は放置すると不妊症の原因となります。今回はクラミジア感染症について考えてみましょう。

 女性がクラミジアに感染すると、まず子宮頸(けい)管炎となり、黄色の帯下(おりもの)、性行為の後の軽い出血、下腹部痛のような症状が現れます。しかし、90㌫前後の人は自覚症状がほとんどないことから、気付かないうちに感染しています。なので、少し違和感があったとしても、検査にまでは至らず、長い間感染を放置してしまいます。

 無治療のままでは、クラミジアは子宮、卵管を通じて腹腔(ふくくう)内に広がっていきます=図=。卵巣や卵管に感染が及ぶと「子宮付属器炎」と言い、骨盤全体に広がると「骨盤腹膜炎」と言います。下腹部に激痛が走り、ひどい場合には救急車で搬送される人もいます。子宮付属器炎が長引いたり何回も繰り返すと、卵管の働きが失われたり卵管が詰まったりして子宮外妊娠や卵管性不妊の原因となります。自然妊娠が非常に困難となります。

 骨盤内から上腹部までに炎症が及ぶと、肝臓周囲に炎症を起こすことがあります。下腹部痛に続いて右上腹部痛が生じます。激しい上腹部痛が突然起こることも多いため、内科や外科などの他科を受診することもよくあります。なかなかクラミジア感染症とは気付かれず、診断・治療が遅れ、さらに症状が悪化することも起こりえます。

 クラミジア感染症はクラミジア菌の遺伝子の有無で診断します。これは非常に鋭敏で有用な検査法です。多くの細菌は抗菌薬に抵抗性を示すことがありますが、抗菌薬が効かないクラミジアは今のところ知られていないので、適切な抗菌薬の使用で治ります。

 クラミジア感染症と診断された場合は、パートナーの治療も併せて行う必要があります。パートナーに症状がなくても、症状が出ないクラミジア感染症の可能性がありますので、パートナーの十分な検査・治療が必要です。また、予防には正確な知識を持つことと、コンドームの使用が重要です。

 性行為の経験を持つ女性が、黄色帯下、性行為後の出血、下腹部痛、右上腹部痛を訴えた場合は、クラミジア感染を念頭に置く必要があります。また、繰り返しますが、クラミジア感染症の9割は症状を認めません。

 米国では特に症状を認めなくても、25歳以下の性行為経験のある女性、25~30歳でパートナーが変わった人、複数のパートナーがいる人はクラミジアのスクリーニングが推奨されているほどです。子宮頸がん検診を含めた定期的な検診を受けることが大切です。

(松波総合病院腫瘍内分泌センター長、羽島郡笠松町田代)