岐阜大学皮膚科医 高橋智子

 マダニ刺咬症(しこうしょう)のことは、皆さんご存じですか。マダニは蛛形綱(ちゅうけいこう)、マダニ亜目に属する吸血性ダニの一種です。マダニの多くは、春から秋にかけて活動が活発になります。山林だけでなく民家の庭、畑などにも生息し、主に野生動物に寄生して、生涯で3回、幼虫、若虫、成虫へと成長する各ステージで吸血し、成虫は2~5ミリの大きさになります。

 その過程で、偶然われわれ人間が遭遇すると、かまれて、吸血されることになります。筆者も、昔飼っていたビーグル犬のお尻に、あるとき大きなトウモロコシの粒のような形をした虫がくっついていたのを覚えています。あれがマダニだったのだな、と今になって思っています。

 マダニは、ときに、病原体を保有していることがあり、マダニにかまれると、その病原体に感染する可能性があり、注意が必要です。例えば、ライム病、日本紅斑熱、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)といったような病気で、いずれも強い全身症状を伴い、死に至る可能性もある危険な感染症です。

 特にSFTSは、マダニが媒介したウイルス(ブニヤウイルス科フレボウイルス属)による感染症で、致死率の高い大変怖い病気です。国立感染症研究所が報告している情報では、2017年6月の時点で、私たちの住む岐阜県では、SFTSにかかった人はいないようですが、隣接する三重県や石川県では報告されています。

 山林で仕事をする人、アウトドアが趣味という人も多くいるかと思います。そのような方々は、まずは、マダニにかまれないような予防策が大切です。野外で作業する場合には、肌の露出をできるだけ少なく、そして、首、手首、足首などは、タオル、軍手、靴下、長靴などでしっかり覆いましょう。

 虫よけに効果のあるディートの成分を含む虫よけスプレーも、付着を防ぐのにはある程度効果的といわれています。また、野外での作業後は、屋内へ持ち込まないように、上着などについていないかを確認してから、家の中へ入るようにしましょう。

 それでもかまれた場合には、吸血しているマダニは、皮膚に強く食い込んでいるので、無理に取ろうとすると、口器が残ってしまい、後で炎症を起こす場合があります。無理に取らず、早めに皮膚科など医療機関を受診し、適切な処置を受けてください。

 また、マダニにかまれたら、数週間程度は体調の変化に注意して、発熱など異常を認めた場合には、感染症を起こしている可能性もありますので、医療機関を受診してください。

(岐阜大学医学部付属病院皮膚科臨床講師)