YJS名古屋ラウンドに参戦した浜尚美騎手(右)と、他のレースで騎乗した深沢杏花騎手(左)、木之前葵騎手(笠松競馬提供)

 高知の浜尚美騎手がトップ通過で、地方競馬女性ジョッキーでは初めてのファイナル進出へ。仲良しの深沢杏花騎手は「笠松で2勝すれば」とひそかに闘志。後方集団の笠松トリオをはじめ、JRAの 田口貫太騎手、今村聖奈騎手らも頂上決戦を目指して、笠松ラウンドでの勝利に燃えている。

 地方、中央競馬の若手騎手が腕を競うヤングジョッキーズシリーズ(YJS)。西日本地区トライアルラウンドは10月11日、笠松競馬場で最終戦が行われ、ファイナルラウンドに進出する8人(地方、中央各4人)が決まる。残り2戦。着順に応じた総合ポイントの計算でジョッキーや関係者、ファンたちも一喜一憂。年末決戦となる川崎、中山への「ファイナル切符」をゲットするのは誰だ。

YJS名古屋の紹介式で闘志を燃やす騎手たち

 地元の笠松勢はルーキーの松本一心騎手、「笠松の佐々木朗希」こと長江慶悟騎手、今年でYJS参戦が最後になる深沢杏花騎手の3人。いずれもポイントを伸ばせず、総合15~17位と後方を追走しているが、まだ上位進出の可能性は残っている。地の利を生かして勝利を飾り、ラストチャンスで後方一気の大逆転。ファイナリストの座を奪取したい。

ドナレイラニの返し馬に向かう長江慶悟騎手(笠松競馬提供)

 ■長江慶悟騎手、名古屋ラウンドは9着撃沈

 9月21日の名古屋ラウンドには長江慶悟騎手が1レースのみ参戦。騎手紹介式では「1鞍ですが、精いっぱい騎乗します」とあいさつ。 YJSのポスターでは全国の若手騎手の「センター」に起用されており、注目される存在となった。グリーンチャンネル「アタック!地方競馬」の西日本注目騎手にも取り上げられ、「佐々木朗希投手そっくり」とユニホーム姿を全国に披露した。東日本注目騎手で特集された大井の菅原涼太騎手はファイナル進出を決めており、長江騎手の「ファイナル登板」も期待されている。

 名古屋競馬場での騎乗は意外にも初めての長江騎手。弥富は笠松に比べて直線が長くなり、先行タイプには、きつい流れになった。10Rで2番人気のドナレイラニ(牝5歳、藤ケ崎一男厩舎)に騎乗。先行馬で「外枠は好材料なので2、3番手を取れたら」と。専門紙には◎印も並び「現状は最下位なんで、ここで勝って、次の笠松で可能性があるようにしたい」と挑んだ。

1周目のゴール前、好位につけたドナレイラニと長江騎手(笠松競馬提供)

 騎乗馬はここ3走、先行して2勝、3着1回と好調。作戦通りに先団に食らいつき、2コーナーから2番手につけたが、3~4コーナーで伸びず。最後の直線では馬群に沈み、9着に終わった。

 JRAの松本大輝騎手が7番人気・サノプリで差し切り勝ち。高知の浜尚美騎手が9番人気馬を2着に押し上げ、波乱を呼んだ。浜騎手は今シリーズ、12番人気で1着(金沢)、10番人気では2着(高知)と人気薄の馬でも好成績。大ブレークで西日本地方騎手のトップを快走。初めてのファイナル進出を手中にした。

 ■ラストチャンスの笠松で巻き返す覚悟

 検量室前に戻ってきた長江騎手は「何も言うことはないです」と思い描いていたレースができず、無念の表情だった。

 常に勝利を求められるジョッキーは大変な職業だ。1レースごとに着順が決まり、思った結果を出せないことが多い。それでも陣営が懸命になって仕上げた騎乗馬の調子を悪くは言えないのだ。

笠松ラウンドに向けて「頑張ります」と意欲を示す長江騎手

 名古屋初騎乗で戸惑いもあったのか。いいペースで2番手につけられたが、1500メートル戦で「直線が長いとは思わなかったが、手応えがなくなって残念です。こんな騎乗していたら、馬に申し訳ないです。全ては僕の責任です。勝って当然の馬だったのに…。勉強になりました」と猛反省。他の厩舎の関係者には「うちの馬じゃなかったけど、いい勉強になったな。たまには名古屋で乗せたらないかんな」と励まされ、「また名古屋に来ます。よろしくお願いします」と意欲を示し、ラストチャンスとなる次の笠松で巻き返す覚悟だ。

アークストーンに騎乗し、パドックを周回する浅野皓大騎手

 ■浅野皓大騎手は4着と9着、笠松でも騎乗

 羽島市出身の浅野皓大騎手は昨年、地元・名古屋で1着、2着。最下位から17人抜きで一気にファイナリスト圏内に突入。地元・名古屋でのファイナルラウンドでも2着があり、総合5位に食い込んだ。

 紹介式では「今年が最後なので、悔いのないように騎乗します」とあいさつ。第1戦、6番人気のアークストーンに騎乗し、4コーナーで先頭を奪うとゴールでは4着に粘り込んだ。2戦目は7番人気のサノワンで、最後方から伸びずに9着に終わった。今年デビューした大畑慧悟騎手(名古屋)は2レースとも8着だったが、金沢での1着、3着が大きく、総合2位をキープしている。

 浅野騎手は1戦目「人気もなかったので、早めにスパートし残ればと。最後は止まったが、ポイントは稼げたんで、諦めずに頑張りたい」と意欲。次の笠松ラウンドでは1戦のみ騎乗。現在26Pで11位だが、上位10人のうち9人は既にトライアルラウンドを終えている。笠松で2着以上ならファイナル進出の可能性が残っている。

YJS金沢ラウンドに参戦した松本一心騎手(左)と深沢杏花騎手(笠松競馬提供)

 ■松本一心騎手、深沢杏花騎手も地の利を生かして

 YJSトライアルラウンドの戦いは、東西を通じて笠松が最終決戦の地。長江騎手は、昨年勝利を挙げた笠松でまだ2レース残っており「また頑張ります」と次へと気持ちを切り替えていた。昨年は笠松1戦目を勝ち、2戦目で7着以内ならファイナル進出となったが、10番人気馬でしんがり負けの悔しい思いを味わった。

 後方を追走する笠松の若手3人だが、全員にファイナル進出の可能性が残されている。総合4位以内を確保するためには、①1勝&5着以内または②2着2回が突破の最低条件になる。あとはくじ運もあるが、3人は日頃から調教などでB級、C級の馬に乗ったり、動きを見たりして出走予定馬の癖や脚質がよく分かっているはず。コースの状態や勝負どころも熟知しており、好勝負が期待できる。思い切った騎乗で、笠松勢では2017、18年の渡辺竜也騎手以来となるファイナル進出を決めたい。

笠松競馬でのJRA交流戦に参戦し、パドックに向かう田口貫太騎手(左)と今村聖奈騎手

 ■田口貫太騎手と今村聖奈騎手も笠松で逆転狙う

 名古屋ラウンドを終えて、地方勢(西日本)は浜尚美騎手が85P(ポイント)で大きくリード。続いて②大畑慧悟(名古屋)53P③岡遼太郎(高知)50P④山本屋太三(兵庫)45Pで、この3騎手もファイナル進出圏内。兵庫の長尾翼玖騎手は39Pで現在5位。笠松であと2戦残っており、くじ運にも期待し、ポイント上積みを狙っている。

 JRA勢は3勝の松本大輝騎手が100Pで断トツ。小沢大仁騎手(81P)、角田大和騎手(80P)も当確で、4位の河原田菜々騎手(57P)が進出圏内。笠松ラウンドで注目されるJRA勢は田口貫太騎手(18P)と今村聖奈騎手(22P)で、2人ともまだ2戦を残している。笠松では今年、JRA交流戦などで田口騎手が6勝、今村騎手は3勝を飾っている得意コース。逆転でファイナリストの座を奪取する可能性は十分にある。

 ■東日本は大木天翔騎手(大井)と横山琉人騎手(JRA)トップ通過

 東日本地区は9月26日の船橋ラウンドでファイナリスト8人が決まった。地方勢は①大木天翔(大井)②菅原涼太(大井)③新原周馬(川崎)④野原凌(川崎)の4騎手で南関東勢が独占した。JRA勢(美浦)は①横山琉人②佐々木大輔③永野猛蔵④秋山稔樹の4騎手に決まった。

 ここ2年間に笠松で期間限定騎乗を経験した若手では、昨年ファイナルに進出した及川烈騎手(浦和)はトライアル総合11位。若杉朝飛騎手(北海道)は14位、田中洸多騎手(大井)は19位に終わり、ファイナル進出を逃した。    
     
 熱戦が期待できる笠松ラウンド。ジョッキーたちはファンの力強い声援を受けて「よし、頑張ろう」モードにスイッチが入るそうだ。競馬場に足を運べない人もネット上で応援するなどして背中を押してあげたい。

豪脚を発揮し、オータムカップを制覇した金沢のトランスナショナル(10)と松戸政也騎手

 ■オータムカップ、金沢の松戸騎手がトランスナショナルで制覇

 9月28日に行われた笠松重賞「第50回オータムカップ」(SPⅡ、1900㍍)は5番人気の金沢・トランスナショナル(セン馬7歳、井樋一也厩舎)が、松戸政也騎手(36)の騎乗で豪快な差し切りVを決めた。

 出入りの激しい競馬で、1周目は馬渕繁治騎手が騎乗した笠松・ストームドッグ(セン馬6歳、森山英雄厩舎)が先手を奪って、場内が沸いた。3コーナーでは兵庫のフィアットルクス(牡8歳)が先頭に立って直線を向いた。後方2番手だったトランスナショナルはとても届きそうもいない位置から大外一気の猛追。4コーナーでも6番手だったが、ラスト100メートルを切って突き抜けた。クビ差でフィアットルクスが2着。名古屋のアンタンスルフレ(セン馬5歳)が3着。

オータムカップ優勝馬のトランスナショナルに騎乗し、歓喜に浸る松戸騎手

 ■11年ぶり2度目の重賞Vで喜び爆発

 松戸騎手は11年ぶり2度目の重賞Vで喜びが爆発した。ゴールの瞬間には雄たけびを上げ、トランスナショナルの激走をたたえた。装鞍所から優勝馬に騎乗して、西日を浴びながらゴール板に向かって、厩務員らとガッツポーズをして王者の行進。「期待に応えられて、うれしいです。もまれない競馬をしたいと、この馬の末脚を生かした。直線を向いて届かないかと思ったが、久しぶりの重賞勝ちで、表彰台に立てるとは。いいですねえ」とファンの声援に応えながら歓喜に浸っていた。

 笠松勢は2頭だけの出走で、見せ場をつくったストームドッグが6着、スマイル(牡7歳)は9着だった。これで笠松勢は昨年6月のクイーンカップでドミニクが勝って以来、地元での重賞勝ちがなく21連敗となった。


 ※「オグリの里 聖地編」好評発売中、ふるさと納税・返礼品に

 「オグリの里 笠松競馬場から愛を込めて 1 聖地編」が好評発売中。ウマ娘シンデレラグレイ賞でのファンの熱狂ぶりやオグリキャップ、ラブミーチャンが生まれた牧場も登場。笠松競馬の光と影にスポットを当て、オグリキャップがデビューした聖地の歴史と魅了が詰まった1冊。林秀行著、A5判カラー、200ページ、1300円。岐阜新聞社発行。岐阜新聞情報センター出版室をはじめ岐阜市などの書店、笠松競馬場内・丸金食堂、名鉄笠松駅構内・ふらっと笠松、ホース・ファクトリーやアマゾンなどネットショップで発売。岐阜県笠松町のふるさと納税・返礼品にも加わった。