泌尿器科医 三輪好生氏
中高年男性に多く見られる尿の悩みの一つに前立腺肥大症があります。前立腺は男性にしかない臓器です。通常はクルミぐらいの大きさで、膀胱(ぼうこう)のすぐ下に尿道を取り巻くように存在しています。前立腺は精液の一部を産生する働きをしていますが、加齢に伴い徐々に腫大することで尿に関するさまざまな症状を引き起こすようになります。
前立腺が大きくなり外から尿道を圧迫すると尿の勢いが悪くなり、排尿に時間がかかるようになります。さらに、尿を出し切れず、残尿が多くなると何度もトイレへ行くようになります。残尿が多くない場合でも急な尿意でこらえることが難しくなり、間に合わずに漏れる過活動膀胱を合併することも多いです。
排尿は毎日欠かさず行う行為であるため、尿の勢いが少しずつ弱くなってきても気付かないでいることも多く、ある日突然尿が全く出せなくなり下腹部の痛みで病院へ行くことがあります。尿が出せなくなる状態を尿閉といいますが、前立腺肥大症のある人に時々見られ、お酒を飲み過ぎた時や、風邪薬を飲んだ時などに突然発症することもあります。
前立腺肥大症の症状を和らげるためにはまず内服薬で治療を行います。作用機序の異なる薬剤が多くあり患者さんの状態に応じて使い分けます。最初に使われることが多いのは前立腺の緊張を取ることで尿を出やすくする薬剤で、α1遮断薬とPDE5阻害薬の2種類があります。前立腺の体積が30ミリリットルを超えて大きい患者さんに対しては前立腺を縮小させる効果のある5α還元酵素阻害薬を使用しますが、男性機能を低下させる副作用があるので注意が必要です。また過活動膀胱の治療薬は前立腺の大きな患者さんが内服すると排尿困難がかえって悪化することがあるので慎重に使用する必要があります。
前立腺の体積が50ミリリットルを超えて内服薬の効果が不十分な患者さんには手術をお勧めします。手術といってもおなかを切るわけではなく、尿道から内視鏡を挿入して行う経尿道手術になります。内視鏡下に電気メスを用いて尿道の内側から肥大した前立腺を切除する経尿道前立腺切除術(TUR-P)が一般的ですが、80ミリリットルを超えるような大きな前立腺だと手術時間が長くなり出血も多くなってしまいます。このような大きな前立腺に対して最近ではレーザーを用いて肥大した部分の前立腺を核出する手術(HoLEP)や蒸散する手術(PVP)が行われるようになりました。レーザーを用いる手術の方が、手術時間は長くかかるような大きい前立腺に対しても少ない出血で行うことが可能であり、体への負担が軽いと言えます。
前立腺肥大症は直接命に関わる病気ではないので、多少つらい症状があっても我慢して過ごすことはできますが、多量の残尿がある状態を気付かないまま放置すると腎臓に負担がかかって腎機能を悪化させたり、重い尿路感染症を引き起こしたりする原因となります。長期間放置していると膀胱の筋力も衰えてしまうため手術を受けても尿をうまく出すことができず、尿を出すのにカテーテルが必要になる場合もあります。また、前立腺がんが原因の場合もあるので、最近尿の出が悪くなってきたなと感じたら、一度かかりつけの医師に相談して前立腺がんのスクリーニングのための採血(前立腺特異抗原=PSA)とともに腹部超音波で前立腺の大きさと残尿の有無を調べてもらうといいでしょう。
(岐阜赤十字病院泌尿器科部長、ウロギネセンター長)