朝日大学病院で行われた膝関節の鏡視下手術(筆者提供)

整形外科医 今泉佳宣氏

 現在、多くの医療分野において、診断や治療の目的で当たり前のように内視鏡が用いられています。内視鏡というと皆さんの中には消化器内科の胃・大腸内視鏡、呼吸器内科における気管支鏡を思い浮かべる人が多いと思います。

 消化器内科において胃カメラが初めて臨床応用されたのは1955年ですが、整形外科では22年に日本で世界初の内視鏡による膝関節の観察が行われました。その後日本では内視鏡(関節鏡)の試作が繰り返された後、62年に世界初の関節鏡視下での膝関節半月板切除手術が行われています。そして70年代になり膝関節の診断・治療に関節鏡が本格的に実用化されました。

 膝関節疾患の診断・治療において早くから内視鏡が使われるようになったのは、膝関節内部に内視鏡を入れることのできる広い空間があることや、膝関節内部には骨以外に半月板と呼ばれる軟骨や靭帯(じんたい)などエックス線写真に写らない組織があり、内視鏡で直接膝関節内部を観察することで半月板損傷や靭帯損傷をより正確に診断することが可能になったからです。そして正確に診断するだけでなく、内視鏡で観察しながら断裂した半月板を切除または縫合したり、損傷した靭帯を再建する手術を行ったりすることができるようになりました。

 こうした内視鏡を用いた整形外科手術は鏡視下手術と呼ばれ、スポーツ選手の膝関節のけがに対する治療法として広く行われています。皮膚を大きく切開しないので手術後の回復が早く、プロからアマチュアまで競技レベルを問わず多くのアスリートの膝関節のけがに対して標準的手術となっています。

 長い間、膝関節だけの内視鏡手術でしたが、遅れて90年代になり肩関節の分野で鏡視下手術が行われるようになりました。2000年以降急速に肩関節の鏡視下手術は発展し、現在では反復性肩関節脱臼、肩腱板(けんばん)断裂および投球障害肩などの治療に鏡視下手術が行われています。膝関節と同様に小さい皮膚切開で行うことでスポーツ復帰や社会復帰が早くなりました。そのほか肘関節や手関節、股関節や足関節にも内視鏡が応用されています。また関節の手術だけでなく脊椎の分野でも内視鏡手術が行われています。

(朝日大学保健医療学部教授)