地方通算1000勝を達成した馬渕繁治騎手。セレモニーで祝福を受けた

 「やっと勝ったなあ」。4月に笠松競馬へ移籍してきた馬渕繁治騎手(57)が地方競馬通算1000勝の大台に到達し、ホッとした笑顔を浮かべた。

 廃止になった上山競馬(山形)、騎乗機会が減っていた道営ホッカイドウ競馬を経て今春、10代新人とともに笠松競馬デビューを果たしたベテランジョッキー。荒波を乗り越えてきた苦労人が金字塔を打ち立てた。1000勝は笠松現役では向山牧騎手、藤原幹生騎手に続いて3人目。

メイショウヒエイに騎乗し、1000勝のゴールを決めた馬渕騎手(笠松競馬提供)

 ■メイショウヒエイで突き放してゴールイン

 10月13日6R、馬渕騎手は自厩舎の3歳馬メイショウヒエイ(森山英雄厩舎)に騎乗。2番人気で2番手につけて、3コーナーで先頭を奪うと、最後は後続を4馬身突き放してゴールイン。馬場の真ん中を堂々と、2着・岡部誠騎手、3着・渡辺竜也騎手と名古屋、笠松のリーディングを従えての価値ある1勝となった。9月1日の997勝目から1カ月余り勝てなかったが、10月11日から3日連続の勝利で大台に到達した。初騎乗から11974戦目だった。

 馬渕騎手は北海道出身で、1984年に上山競馬でデビューした。97年に地方通算500勝を達成。重賞タイトルをタイヨウカガヤキ、イチヤなどで数多く獲得。2003年の上山競馬の廃止に伴い、04年にホッカイドウ競馬に移籍した。08年には華月賞を勝ったダイバクフでJRA初勝利も飾った。真夏の札幌競馬場での500万下(現1勝クラス)のレースで、9番人気だったがハナ差で鮮やかに差し切った。

 騎手時代の田口輝彦調教師とは同期でもある。ここ3年間は道営が休業になる冬場に、笠松で期間限定騎乗。1、2年目は田口厩舎で、3年目は森山厩舎に所属した。笠松競馬では、一連の不祥事やコロナ集団感染による開催自粛もあったが、短期騎乗の3年間に3勝、12勝、9勝と勝利を積み重ねた。門別では騎乗機会が減って3年で8勝どまりだった。

大台到達、祝福を受けて笑顔の馬渕騎手

 ■「感謝しかないですね。森山先生らに」

 馬渕騎手に喜びの声や思い出のレース&騎乗馬などについて聞いた。
 
 ―1000勝を達成されて、いかがですか。

 「感謝しかないですね。森山先生、厩舎のスタッフの皆さん、馬主さんにですね。あと、競馬場の方々も努力してくださって」

 ―ゴールの瞬間はどうでしたか、ここで決めてやろうと狙っていましたか。

 「やっと勝ったなあという感じでしたね。たまたま走ってくれましたね。ここで決めてやろうとかは特になかったですが。その日のオープンで乗ったストームドッグで勝つのかなあと思っていたけど、負けたから(1番人気で2着)。他に自信のある馬はいなかったからね」

オータムカップでストームドッグに騎乗した馬渕騎手

 ―デビューからちょうど40年目。田口さんとは同期ですが、笠松移籍の決め手になったのは。

 「森山先生が『来てもいいよ』ということだったんで、それで来させてもらったんです。面倒を見てもらって。前に来たとき、お世話になった田口さんから『森山さんに頼んでやるよ』と言われていたんです。森山先生の息子さんが厩務員をやっていて、厩舎の馬に乗って勝たせてもらっていた頃からの縁で、ありがたいことです」

 ―笠松では一人暮らしで、ご家族は。

 「家族は子どももみんな仕事をしていて、ばらばらになっちゃって。北海道と東京にいます。こっちでは森山先生にアパートを借りてもらって、一人で気楽になっちゃってますが、厩舎みたいなものです」

 ■「思い出の馬はイチヤ、レースはダイバクフでの中央勝利」

 ―1000勝のうち、一番の思い出の馬は。

 「イチヤですね。アラブのオープン馬でした。月山大賞典などを勝たせてもらいました。取りたいレースはみんな取って、重賞は三つほど勝ちましたね」

 ―一番の思い出のレースは。

 「ダイバクフでは中央のレース(札幌)も勝たせてもらって。その関係で、佐藤英明厩舎に移ったんです。思い出のレースは、そのダイバクフでの中央勝利になるのかな。道営が札幌競馬場を借りていたから、その分プラスになったんだと思います。同じ所で競馬をしているような感じでしたね」

1000勝を達成直後の馬渕騎手(中央)を囲んで祝福する騎手仲間(笠松競馬提供)

 ■「笠松は気候もいいし、みんな優しい」

 ―4月に完全移籍されて、笠松の雰囲気はどうですか。

 「いいですね。なんかゆったりしていて。気候もいいですし、暖かいですね。笠松は体にはいいのかなあと。みんな優しいですし。仲がいいのは、幹生君(藤原騎手)とかとは一緒に飲みに行きますね。まあ同じぐらいの年?で、(実際は)10歳以上違いますが。牧さん(向山騎手)とも飲みに行きますし、一緒にパチンコをしたりします」

 ―年上の騎手がいるとやりやすいですよね。向山さんは「年金ジョッキー」を目指していますが。

 「そうですね。やりやすいですね。目標がそっちに向いちゃうし。牧さんは昔から知っているから。新潟で乗っていたときからね」

 ―笠松では新人だから、まだ10年ぐらいできるのでは。

 「どうですかね。60代まで、まあやれるところまで。減量が結構きついですから。乗り役になったころから重かったから。岐阜は暑いですね。桁が違いますね。山形も暑かったが、笠松はもっと暑いですね。実家は門別なんで」

 ■「重賞、ストームドッグでチャンスあるか」

 ―これからの大きな目標は。重賞勝ちとか。

 「それはいつでもありますけど。(重賞3着が2回の)ストームドッグでは勝ちたかったですね。まだチャンスはありますかねえ。こういう重い馬場になるときついかなあと」
 
 ―騎乗が道営に比べて増えていいですね。

 「そうですね。攻め馬をした馬も乗せてもらえるんで、本当にありがたいですね。森山先生、馬主さん、スタッフさんも本当にいい人ばかりで。(好位づけで勝つレースが目立ち)そういう競馬をしていきたいです」

ファンにクリアファイルをプレゼントする馬渕騎手

 ■「祝1000勝!」ファンに記念品プレゼントも

 1000勝達成セレモニーがは10月23日、笠松競馬場内で行われた。同じ森山厩舎の大原浩司騎手が「祝1000勝!」のプラカードを持ち、若手の騎手仲間も馬渕騎手と同じ勝負服姿などで並び、ファンたちが祝福した。

 大きな区切りを達成し「とにかくうれしかったですね。森山先生に感謝です。冷静に乗っていける騎手になりたいし、与えられた馬をより一層走らせられるように頑張りたいです。やれるところまでやるので、これからもよろしくお願いします」と意欲を語った。

 スタンド前は温かい拍手に包まれ、節目の勝利を祝った。詰め掛けた多くのファンには、馬渕騎手と森山厩舎から1000勝達成の記念品として、ゴールシーンのクリアファイルがプレゼントされた。馬渕騎手は色紙にサインをしたり、記念写真にも笑顔で応えてファンとの交流を深めていた。
 
 笠松移籍を快く受け入れてもらい、すごく感謝されていた馬渕騎手。謙虚な姿勢とともに、闘志を秘められた勇姿が印象的だった。
 

秋まつりでトークショーに参加した馬渕騎手(笠松競馬提供)

 ■秋まつりで「笠松競馬では新人ですから」

 達成翌日の笠松競馬秋まつりでは「今年笠松でデビューしたジョッキー」としてルーキーの松本一心騎手(18)と一緒にトークショーやサイン会にも出席。司会の古谷剛彦さんに「馬渕騎手はデビューじゃないですね」と冷やかされると「笠松競馬では新人ですから」と照れ笑い。ファンからは「馬渕さん1000勝、あした誕生日」と声援も飛び、うれしそうだった。
 
 キッチンカーなどが並んだスタンド一帯では、新天地での秋まつりを満喫。藤原騎手や岡部騎手らと喉を潤しながら、ファンとふれあう楽しい一日を過ごされていた。
 
 10月後半戦、25日には2Rに続いて最終11Rでも好スタートからハナを切り、最後の直線では大きく突き放す力強い競馬。ともに逃げ切り勝ちで1日2勝の「マルチ勝利」を決めて今年26勝目。若々しい騎乗で健在ぶりをアピールした。今後はやはり、ストームドッグとのコンビで重賞勝ちを見せてもらいたい。


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