ルーチェドーロで笠松グランプリした藤原幹生騎手(中央)

 決めた、ロングスパート! 「ミッキー」の愛称で知られる笠松競馬の藤原幹生騎手が好騎乗。地方全国交流重賞で地元騎手が1着でゴールし、スタンドやゴール前のファンらは熱狂。初登場した「藤原幹生」の横断幕も勝利を後押しした。

 秋のビッグレース「笠松グランプリ」(SPⅠ、1400メートル、1着賞金1000万円)が21日行われ、3番人気の川崎・ルーチェドーロ(牡5歳、池田孝厩舎)が連覇を達成した。2着は1番人気エアアルマス=笹川翼騎手=、3着は2番人気ベストマッチョ=岡部誠騎手=で川崎勢3頭が上位を独占した。
 

高らかと響き渡った名鉄ブラスバンド部のファンファーレ

 ■名鉄ブラスバンド部のファンファーレ高らか

 笠松グランプリのレース発走時のファンファーレは、昨年に続いて名鉄ブラスバンド部の精鋭が生演奏。東スタンドのキャロットシートに指揮者と演奏者13人が並び、晴れ間がのぞく大空に向かって美しいメロディーを高らかに奏でた。迫力ある響きとともに、ファンの大きな拍手に包まれゲートオープン。全国交流の熱戦を盛り上げた。

ゴールインするルーチェドーロと藤原幹生騎手(笠松競馬提供)

 ■残り800メートル過ぎ、インから猛スパート

 各馬そろったきれいなスタートから、400㍍ほどある最初の直線の先陣争いが激化。道営の快速馬クーファアチャラ=落合玄太騎手=が逃げ、2コーナーではベストマッチョが2番手。昨年の勝ち馬ルーチェドーロは中団を追走していたが、藤原騎手がゴーサインを出して一気の仕掛け。向正面の残り800メートルを過ぎて、前が開いたインコースからスルスルと猛スパートを開始した。

 3~4コーナーを2馬身ほどリードして回ると、豪腕・藤原騎手のパワフルな追いに応えて、ルーチェドーロは豪脚を繰り出した。最後の直線では後続を突き放し、持ったままでエアアルマスに3馬身差の完勝。藤原騎手が笠松の800メートル戦のようなレース展開に持ち込み、突き抜けた。前走「習志野きらっと」12着から4カ月ぶり実戦。放牧明けで乗り込み不足だったが、夏場を挟んで一変した走りを見せた。

 馬場は「内もモコモコせず、やや砂が薄い感じ」で、時計が出やすいコンディション。他馬が内ラチからやや離れて進む中、ルーチェドーロは1頭だけ違う脚色でインをロングスパート。「行っちゃえ」という藤原騎手の好判断が光った。

 ハイペースの厳しい流れの中、勝ったルーチェドーロの圧倒的なパフォーマンスに付いていけず、逃げたクーファアチャラは10着、2番手のレイジーウォリアーは12着は沈んだ。勝ちタイムは1分26秒0と高水準。名古屋のメルト=今井貴大騎手=が追い込んで4着、笠松・サマーカップ逃げ切りVの園田・パールプレミア=笹田知宏騎手=は5着に粘り込んだ。笠松・森山英雄厩舎のストームドッグ=馬渕繁治騎手=は9番人気で6着と健闘した。
            

優勝馬ルーチェドーロと喜びの(左から)藤原幹生騎手、池田隆調教師ら

 ■全国交流重賞で会心の勝利、藤原騎手うれし泣き

 交流重賞Vでウイナーズサークルに笠松のジョッキーが登場するのは、昨夏のクイーンカップをドミニクで勝った向山牧騎手以来。やはりベテランの力は大きく、ここ一番で頼りになる存在だ。

 晩秋の笠松競馬場。ゴール前では優勝馬をたたえ、口取り写真を撮影。ルーチェドーロの栗毛の馬体が西日を浴びてピカピカに輝き、雄姿を披露してくれた。

 素晴らしい勝利に「すごいね」「おめでとう」と関係者や地元ファンが祝福。大きな拍手に迎えられた藤原騎手は、全国交流重賞での会心の勝利に感極まってうれし泣き。顔をぐしゃぐしゃにしながら、インタビューを受けた。

優勝インタビューを受け、うれし涙の藤原幹生騎手

 ■「前が開いていたんで、思い切り動かした」

 馬場状態は逃げ有利で、1~9Rは先行3番手までの馬が全て勝っていた。藤原騎手は「前が止まらない馬場でしたし、結構前が開いていたんで、思い切り動かしてみたら、割と素直な馬で自分から行ってくれました」と早めにスイッチオンになって、動いてくれた。馬場もフラットな感じで、インからでもめちゃ伸びた。昨年の東海ダービーで、タニノタビト(名古屋)が向正面のインから急伸し、完勝したレースに似た展開となった。

 初騎乗だったが「気難しい馬だとも聞いていたが、最後まで頑張って走ってくれました」。地元のビッグレースを制して「初めて勝ったのでとてもうれしいです」と歓喜に浸った。「今年も残り少なくなりましたが、頑張っていきますので、今まで以上に足を運んでください」とファンに呼び掛け。色紙などへのサインや記念写真でも交流を深めた。地元ジョッキーがゴールを真っ先に駆け抜け、優勝のインタビューを受けたことで、ウイナーズサークルは大いに盛り上がった。

スタンドには「推しの騎手」らを応援する多くの横断幕が掲げられた

 ■スタンドに落合、笹川騎手らの応援の横断幕も

 ハイレベルな戦いで、各地のリーディングジョッキーも3人参戦。中央の重賞V(東海S)があるエアアルマスには全国リーディング2位の笹川翼騎手(大井)、金沢スプリントCを制したクーファアチャラには落合玄太騎手(北海道)、昨年3着のベストマッチョには岡部誠騎手(愛知)が騎乗した。

 笠松はパドックが内馬場にあるため、横断幕はゴール前のスタンド内の手すりに掲示。この日は珍しく10枚ほど並んで壮観だった。各地から応援団が来場し、横断幕を掲げて声援を送ったのだ。返し馬から「玄太、頑張れー」とお母さんらの声援が響き渡り、熱気に包まれた。

藤原幹生騎手に花束を贈るアンカツさん(左)

 ■「珍しくうまく乗ったなあ」アンカツスマイル

 レース展開にはアンカツさんもびっくり。表彰式でプレゼンターとして藤原騎手に花束を渡すと「きょうは珍しくうまく乗ったなあ」とジョークを交えてアンカツスマイルで祝福。笠松時代には一緒に戦った仲でもあり、アンカツさんは覚えていたようで、ミッキー(2001年デビュー)も本当にうれしそうだった。

 笠松グランプリは04年まで「全日本サラブレッドカップ」として行われ、第1回はウマ娘キャラで人気のイナリワン(大井)も走り2着、フェートノーザンが圧勝した。騎乗したアンカツさんはこのレース最多の4勝を挙げており、プレゼンターとしては最高のレジェンドだ。

優勝馬のルーチェドーロ。返し馬から軽快な走りを見せていた

 ■馬場状態を知る地元騎手の強み生かした

 池田孝調教師は昨年の御神本騎手に続いて、今年は藤原騎手で笠松グランプリを制覇した。ルーチェドーロにはここ4走、桜井光輔騎手(川崎)が騎乗し東海桜花賞を制していたが、10月末に騎乗停止処分(業務エリア内での携帯電話の使用)を受けており、その後は騎乗がなかった。

 笠松ではリーディングの渡辺竜也騎手が負傷で離脱。大一番での乗り役を藤原騎手に依頼。地の利を生かし、インからでも伸びる馬場状態を読み切った藤原騎手の好判断が奏功した。池田調教師は「あそこから動けるなら」とルーチェドーロの復調ぶりを喜んだ。連覇はエーシンクールディ(笠松)、ラブバレット(岩手、3連覇)に続く快挙となった。次走は順調なら地元・川崎の1600メートル戦「神奈川記念」(12月14日)を予定している。

藤原幹生騎手を応援する横断幕がデビュー。優勝を後押しした

 ■「藤原幹生」横断幕デビュー日に、ビッグレース制覇

 盛り上がった笠松競馬場。開催初日で火曜日だったのに華やかなスタンド。ミッキーの勝負服をイメージした「藤原幹生」の横断幕は、笠松グランプリがデビュー戦となった。競馬場近くに住むミッキーファンの女性がデザインし掲示したもので「全国交流重賞V」という最高の結果に結びつき、勝利の女神となった。
     
 藤原騎手が向正面でインを強襲した辺りから大興奮。レース直後はうれしくて号泣してしまったそうだ。「勝った馬は笠松でなくても、笠松の騎手が重賞で勝てて良かったです。横断幕はきょう初めて出したばかりで、びっくりしています」とにっこり。2年余り前から「ミッキー推し」のファンで「まさか横断幕デビューしたその日に大きいところを勝ってくれるとは」と感激していた。

 表彰式では藤原騎手に優勝記念のサインを幕に書いてもらい大喜び。「すごく持っている」ファンが人馬の背中を押して、応援幕デビュー戦でのビッグな勝利につなげてくれた。

優勝馬のゼッケンを手に歓喜に浸る藤原幹生騎手

 ■思わぬ応援に藤原騎手も「おーっ」と

 最終レース後、「優勝請負人」となった藤原騎手に改めて聞いてみた。

 スタンドの横断幕は騎手バスの車内や返し馬などで見ることもでき、藤原騎手は初登場した応援幕に気付いていた。「分かりました。珍しいなあと。『おーっ』という感じでしたね」と語り、ファンの応援を背に奮闘した。

 ビッグレースを制覇し「勝ったことがないレースだったんで良かったです」。展開的には「内にスペースがあって、前に行けたんで良かったです」。3~4コーナーでは「勢いに任せて、止まったらしょうがないという気持ちで行きました」。最後の直線では「誰も来ないなあと思って、止まる気配もなかったんで。馬が頑張ってくれて、これは勝ったなあ」と。最後は手綱を押さえて余裕のゴールを決めた。

 ■「DVDを見ながら、ひっそりと飲むだけです」

 まだ初日ということで、レース後は調整ルームに缶詰めで祝勝会はお預け。「食堂の弁当を食べて、いつも通りDVDを見ながらひっそりと飲むだけです。みんな開催中なんで、あまり食べられないんでね」と。深夜からは攻め馬もあり、本当に大変なお仕事だ。            

アンカツさんのトークショー&予想会も開かれ、ファンを楽しませた

 昨年は大井の名手・御神本騎手だったが、今年は藤原騎手が騎乗。地元のみんなが注目していたが「良かったです。期待に応えることができ、喜んでもらえて」とにっこり。

 ルーチェドーロは3番人気で、トークショーでのアンカツさんの予想は○印だった。本命◎はベストマッチョで「○×◎」は3連複が的中となった(配当500円)。アンカツさんには「珍しくうまく乗った」と言われたが、ミッキーさんは笠松では現役唯一の東海ダービージョッキーであり、「鍛えた体で、迫力ある追いっぷりはナンバーワン」というファンの声は多い。

 年内の目標は「けがをせず、頑張ることです」。渡辺竜也騎手が負傷療養中でもあり、ミッキーさんにかかる期待は倍増。今年はまだ1カ月あり、年末には笠松の重賞レースも二つあり、出番が増えそうだ。全国交流重賞を制覇し、笠松の騎手の実力を全国にアピールできたことは大きい。藤原騎手は23日6Rでロジェ(牝3歳、田口輝彦厩舎)に騎乗し、地方競馬通算1200勝も達成した。 

1番人気エアアルマスには笹川翼騎手が騎乗し2着

 ■「地元騎手が重賞を勝つとうれしい」

 笠松ファンも「前年の優勝馬でプレッシャーもあったでしょうが、よく勝ってくれたし、すごいこと。やっぱり地元の騎手が重賞を勝つとうれしいです。これだけのチャンスがあったら頑張れるので、結果を残していけば笠松競馬も盛り上がりますね」と藤原騎手の勝利を祝福。「向山さんの次に通算勝利数があり、騎乗技術はすごい。ファンを大事にする人柄もあって、応援する人は多いです」とも。一昨年の笠松所属騎手リーディングで、地方競馬ジョッキーズチャンピオンシップでは総合準Vを飾っている。

 笠松競馬は一連の不祥事後のレース再開から2年余りが経過したが、国やNARの指導による取材規制は相変わらず厳しい。遠征してくれた2着の笹川翼騎手や愛知県岩倉市出身の落合玄太騎手らに、レース後のコメントや笠松競馬の印象を聞きたかったが、現状では時間的にも難しい。笠松所属馬の地元重賞Vからも遠ざかっており、笠松競馬再生へはまだ道半ばといえる。

 笠松勢が全国交流など重賞を勝つには、エーシンクールディのようにJRAから移籍してきた強豪に頼るのが近道だろう。それでもワラシベチョウジャのような生え抜き馬には期待したいし、藤原騎手には笠松所属馬で地元重賞Vも飾っていただきたい。


 ※「オグリの里 聖地編」好評発売中、ふるさと納税・返礼品に

 「オグリの里 笠松競馬場から愛を込めて 1 聖地編」が好評発売中。ウマ娘シンデレラグレイ賞でのファンの熱狂ぶりやオグリキャップ、ラブミーチャンが生まれた牧場も登場。笠松競馬の光と影にスポットを当て、オグリキャップがデビューした聖地の歴史と魅了が詰まった1冊。林秀行著、A5判カラー、200ページ、1300円。岐阜新聞社発行。岐阜新聞情報センター出版室をはじめ岐阜市などの書店、笠松競馬場内・丸金食堂、名鉄笠松駅構内・ふらっと笠松、ホース・ファクトリーやアマゾンなどネットショップで発売。岐阜県笠松町のふるさと納税・返礼品にも加わった。