ジャパンCで奮闘したクリノメガミエース。昨夏の笠松競馬「ぎふ清流カップ」では初重賞Vを飾った。左から吉原寬人騎手、石橋満調教師ら

 地方馬の挑戦、ジャパンカップ「もう一つのワンツー」。兵庫競馬から参戦したクリノメガミエース(牝4歳、石橋満厩舎)が18着、チェスナットコート(牡9歳、田中一巧厩舎)は17着でゴールイン。最後方でのワンツーとなったが、笠松、園田など地方競馬ファンの夢を広げる果敢なチャレンジだった。

 世界王者イクイノックスと3冠牝馬リバティアイランドの頂上決戦に対して、兵庫勢は厳しい戦いになったが、堂々とした走りで無事完走した。イクイノックスから5~6秒、クリノメガミエースは約30馬身引き離されたが、2400メートルをともに2分27秒台で走り抜けて大健闘。チェスナットコートは引退レースとなった。2頭の奮闘に拍手を送りたい。

 ■まさかジャパンCに挑戦し、力強くゴールインするとは

 クリノメガミエースはJRA1勝馬で兵庫に移籍。昨年6月の笠松「ぎふ清流カップ」(SPⅠ、1400メートル)が唯一の重賞勝利。吉原寬人騎手(金沢)が「重賞V請負人」として騎乗し、1番人気に応えてスイスイと逃げ切った。口取り写真の撮影で「勝利の女神」と共にスマイル全開だった吉原騎手。「先行して自分の競馬をして、よく勝ってくれた。石橋満調教師にとって初重賞Vで、とてもうれしく思います」と喜びを語った。

ぎふ清流カップ、1着でゴールするクリノメガミエースと吉原寬人騎手

 笠松重賞に強く、Vをさらうことが多い兵庫勢。クリノメガミエースは続く笠松・クイーンカップで断トツ人気となったが、向山牧騎手騎乗の地元・ドミニク(後藤正義厩舎)に差し切られ3着。距離延長が課題で、失速気味となって6馬身差で完敗した。その馬が、まさかジャパンカップに挑戦し、力強くゴールインするとは。笠松重賞勝ち馬の「ジャパンCドリーム」となった。

 クリノメガミエースのジャパンC挑戦は、ぎふ清流C制覇が自信になった。中央の新馬戦を勝ったほどの期待馬で「兵庫所属のまま、中央でもう一度走らせたい」というオーナーと、「夢のある大きな舞台に地方馬をチャレンジさせたい」という陣営の思いが一つになっての参戦。当初は8~9カ国と参加国も多く、国際色豊かなオリンピックのような一戦だったジャパンC。「勝つことではなく、参加することに意義がある」というオリンピック精神にも近い兵庫勢の挑戦となった。

 ■吉村智洋騎手の騎乗でしっかりと追走

 エヒトの出走回避で、水曜日の朝にクリノメガミエースのジャパンC参戦が決定。石橋満調教師は「以前、中央に在籍していた頃より気性が成長しているし、今の感じなら芝にも対応してくれると思う。出るからにはファンの記憶に残るレースにしたい」と健闘を誓った。

 芝レース挑戦は、21年の札幌2歳S(9着)以来で約2年ぶり。吉村智洋騎手の騎乗で好スタート。道中は中団やや後ろにつけ、3~4コーナーでもしっかりと追走。最後の直線では力尽きたが、2分27秒9の好タイムでゴールインした。チェスナットコートは田中学騎手が負傷のため、田辺裕信騎手に騎乗変更。通算61戦目、ラストランを懸命に駆け抜けた。

今年300勝以上を挙げて全国リーディングのトップを快走している兵庫の吉村智洋騎手(右)=園田競馬場

 ■「チャレンジすることが大事。今後の糧に」

 クリノメガミエース(18着)の吉村智洋騎手「出たなりのポジションで競馬をした。相手がかなり格上だったので、結果としては仕方がないですが、チャレンジすることが大事だと思います。土俵に立たないと何があるか分からない。しっかりと競馬には参加できましたし、今後の糧になると思います」

 チェスナットコート(17着)の田辺裕信騎手「勝った馬は世界一ですからね。9歳までよく頑張って走ってくれたと思います」

 チェスナットコートを管理した田中一巧厩舎は笠松競馬でもおなじみ。3年前、マイフォルテ(大山真吾騎手)でオグリキャップ記念を制覇。昨夏には、ゼットパール(岡部誠騎手)で飛山濃水杯を勝っている。

 ■格下でも地方競馬の選定馬として堂々と

 JRAの重賞勝ちがない馬が8頭も出走。イクイノックスなどGⅠ馬8頭との力量差は大きく、「格下出走」を疑問視するファンらの声もあった。ただゲートは18頭分あり、外国馬も地方馬も参戦し、にぎやかなフルゲートの方がジャパンカップらしい。地方競馬にも門戸を開放している国際競走であり、賞金面で出走権利を満たせば、選定馬として堂々とチャレンジすればいい。

 18頭中9頭が単勝万馬券で、うち7頭は500倍超。地方競馬で行われるダートグレード競走(JRAとの交流重賞)のように実力差がはっきりし、クリノメガミエースは単勝878倍。勝負を度外視した「頑張れ馬券」を記念に買い求めたファンもいたことだろう。

ぎふ清流カップⅤのクリノメガミエース。ジャパンCに挑戦した

 ■「吉村騎手がルメール騎手と握手、泣きそうに」

 ジャパンCのレース直後は「ナイス完走」と兵庫勢2頭の健闘をたたえるファンの温かい声がネット上にあふれた。

 クリノメガミエースのファン「吉村騎手がルメール騎手と握手していて、まじで泣きそうに」「しんがり負けだけど、素晴らしい挑戦ですごく頑張った」「大きな意義のある参戦で、地方競馬ファンたちを喜ばせてくれた」「あのGⅠファンファーレの中に、吉村騎手がいると思うとゾクゾクしました」「勇気をもらえた。ありがとう」

 チェスナットコートのファン「ジャパンCで引退レースなんて感無量」「お疲れさまでした。応援馬券は記念に取っておきます」

 ■オグリキャップ、笠松所属でジャパンCに挑戦したかも

 オグリキャップは中央に移籍したが、もし「笠松からジャパンCに挑戦していたら」と考えただけでもワキワクする。35年前(1988年)、オグリキャップが中央に移籍せず笠松に在籍していたら、どういう道を歩んだだろうか。東海ダービーを圧勝した後、「地方競馬招待競走」の中山・オールカマーに参戦したことだろう。地方馬として86年に愛知のジュサブロー、91年には大井のジョージモナークがオールカマーを勝利。ジャパンCではそれぞれ7着、15着だった。

 オグリキャップにはもちろんアンカツさんが騎乗しオールカマーを勝って、ジャパンCに挑戦したことだろう。88年のジャパンCは河内洋騎手の騎乗で3着だったが、アンカツさんの手綱ではどうだったのか。ジュサブローは笠松の東海クラウンなども勝っていたスターホース。ジャパンCでも5番人気に推され、芦毛馬が素晴らしいパフォーマンスを見せてくれた。94年には笠松のトミシノポルンガがオールカマーに挑み4着という記録が残っている。ビワハヤヒデ1着、ウイニングチケット2着というハイレベルなレースで3番人気に推された。

「ルドルフ6冠、地方代表ロッキータイガー2着」を伝える新聞記事(1985年11月25日付・岐阜新聞)

 ■船橋のロッキータイガー激走2着

 地方馬のジャパンC挑戦では85年のロッキータイガー(船橋)が激走した。外国馬が優勢だった時代に、地方馬も強くなったと驚かされた。桑島孝春騎手が騎乗し、重馬場で3冠馬シンボリルドルフから1馬身4分の3差の2着。最後方を追走していたが、最後の直線、大外から豪快に追い込んだ。枠連2790円を「特券(1000円券)」でゲットできたので印象深い。当時、連勝馬券は枠連しかなく、ファンの間ではまだ「特券」という言葉も残っていた。

 道営のコスモバルクも2004年にジャパンC2着と好走。09年まで6年連続で参戦し、盛り上げた。アーモンドアイが勝った18年には道営・ハッピーグリンが14番人気で7着。2分22秒2という1989年のオグリキャップと同じタイムで疾走した。

 今年の兵庫馬2頭の挑戦は有意義だった。華やかな夢の祭典はホースマン憧れのステージであり、来年以降も地方馬の挑戦は続きそうだ。

 ■ダートグレード競走、笠松馬も多く挑戦

 ダートグレード競走には、笠松の馬もラブミーチャンやエレーヌの時代からよく挑戦している。最近では厳しい戦いになっているが、松本剛志騎手や深沢杏花騎手らがGⅠ級のビッグレースの晴れ舞台に立ち、大きな経験にもなっている。

 11月29日の船橋・クイーン賞。エイシンレミー(伊藤勝好厩舎)に松本剛志騎手が騎乗したが11着。力量的にはレース賞金よりも「出走手当」などが目当てにもなるが、他地区の馬にも開かれたゲートを埋めることは素晴らしい挑戦である。最近ではナラなどの人気馬もいたし、騎手や厩務員の勇姿はパドックでもファンの熱い視線を浴びている。今後はかつてのトウホクビジンのように、何とか勝負になる馬での参戦を期待したい。

笠松・Jクラウンでミスキャサリンと今井貴大騎手。JRAのレースにも挑んだ

 ■田口厩舎のミスキャサリン、貫太騎手でJRA参戦

 JRA認定勝ちがある笠松・田口輝彦厩舎のミスキャサリン(牝2歳)は11月26日、京都・白菊賞に挑戦。ルーキーの田口貫太騎手が騎乗し、10頭立てで8着だった。オーナーは吉田勝利さんで、笠松発のJRAチャレンジとなった。貫太騎手はこの日の「先生」である父・輝彦さんのアドバイスも受け、果敢な騎乗を見せた。

 このレースを勝ったのはプシプシーナ(牝2歳)で後続の追い上げを振り切り、デビュー2連勝。岐阜市生まれで岐阜農林高校出身の小栗実調教師の管理馬。今年3月、デビュー初戦を迎えた小栗調教師は通算12勝目で、順調に白星を積み重ねている。「オンオフはしっかりしていますが、体のある馬ではないですから」と阪神ジュベナイルフィリーズ(12月10日) にも登録しているが、中1週での出走は様子を見て決める。

 ■貫太騎手27勝「最多勝利新人騎手賞」へあと3勝

 貫太騎手は3月にJRAデビューを果たし、3月26日にレッツゴーローズでうれしいJRA初勝利。11月までに勝利数を「27」まで積み上げ、最多勝利新人騎手賞の表彰対象となる「30勝以上で最多勝」まであと3勝。2着は31回で連対率11%超。笠松など地方競馬でのJRA交流戦でも10勝を挙げている。

 1年目は「自分や厩舎も表彰対象となる30勝以上できたらいい」と意欲を見せていたが、残り1ヵ月、けがなどなく順調なら十分にクリア可能な数字。昨年、JRAで51勝を挙げて最多勝利新人騎手賞を受賞した今村聖奈騎手(栗東・寺島良厩舎)に続きたい。これまでの最多勝記録は三浦皇成騎手の91勝(08年)。該当者なしの年も多く、2000年以降では10人が受賞している。 

 貫太騎手はヤングジョッキーズシリーズ(YJS)では笠松ラウンドで勝利を挙げ、ファイナルラウンド進出を決めた。地方でのJRA交流戦を含めれば37勝で、GⅠレース騎乗が可能となる31勝を既にクリアしている。

 今年のルーキーで貫太騎手に続くのは小林勝太騎手(美浦)の11勝。女性の小林美駒騎手(美浦)と河原田菜々騎手(栗東)が9勝。12月は川崎(14日)、中山(16日)でYJSファイナルラウンドが行われ、貫太騎手もチャレンジする。

アンカツさんのトークショーで盛り上がった笠松競馬場内特設ステージ

 ■アンカツさん「顔の輪郭はお母さん似」

 笠松グランプリが行われた11月21日、特設ステージではアンカツさんのトークショーも開かれ、司会の長谷川満さんと軽妙なトークで盛り上げた。

 ファンからは「貫太騎手はお父さんと、お母さんのどちらに似ていますか」と質問(事前募集)。アンカツさんは「顔の輪郭はお母さん(広美さん)に似ている。髪の感じはお父さん(輝彦さん)かな」。乗り方については「(身長170センチだった)田口はスラッとした感じの騎乗だったから、どちらかというと広美に似ているかな」と笠松での2人の現役時代を思い出しながら?答えていた。

JRAデビューを果たし、30勝以上を目指す田口貫太騎手(中央)と父の輝彦さん(左)、母の広美さん(右)

 ■「どういう髪形になるのか」「スムーズに伸びていってほしい」

 貫太騎手の騎乗ぶりを見て「今年の新人騎手のうちでは結構うまい。いっぱい乗せてもらっているからね。数多く乗った方が上達も早い。それと、かわいがられる顔をしている。いじられキャラでかわいい」とも。今後、貫太騎手に期待することは「どういう髪形になるのか。どういうのが合うのだろうか」と外見に注目し、ファンは大爆笑。貫太騎手は100勝以下の見習騎手の間は丸刈りを続けるそうだが、1~2年後、長髪になる姿はなかなかイメージできない。

 ジョッキーとしては「このままスムーズに伸びていってほしい」と今後の成長を期待。笠松時代には父・輝彦騎手とも同じレースで騎乗しているアンカツさん。貫太騎手の騎乗ぶりにも注目しており、顔を合わせる機会があればアドバイスを送ってくれることだろう。

昨年3月、名古屋競馬場で行われた閉場式のイベント

 ■贈収賄事件や消灯事故、気を引き締めて

 11月の東海・北陸地区の競馬場では、アクシデントや不祥事がいろいろとあった。笠松ではリーディングを快走していた渡辺竜也騎手が落馬負傷。松本一心騎手も調教中のけがで療養中。所属騎手11人のうち2人を欠く厳しい状況になっている。

 名古屋競馬では弥富移転に伴うイベント業務の契約を巡る贈収賄事件。金沢競馬では人為的ミスによるレース中の消灯事故で競走馬1頭が亡くなり、騎手2人が負傷する事故が発生した。

金沢競馬場のゴール前。11月19日にはレース中に照明が消える事故があった

 ジョッキーや競走馬の交流が笠松競馬とも頻繁にある両場で相次いだ不祥事。これが笠松なら「即開催自粛」となるような重大な事件事故で、名古屋、金沢競馬の対応は残念である。照明の停電などは日常的にも発生する可能性があり、あらゆるアクシデントを想定した再発防止策を明示するべきだ。

 笠松では騎手らの馬券不正購入による8カ月のレース自粛以降、浄化・再生を進めているが、他場より不祥事への対応が厳しく「クリーンな競馬場」に生まれ変わった。競馬場運営は、スピーディーな対応で人馬の命を守る「安全確保」が大前提。各場ともファンの信用を失わないよう、レース開催に関わる全てのホースマンが気を引き締めて再生に努めていただきたい。

人気馬オマタセシマシタのレースも開かれ、盛り上がった笠松競馬場。宮下瞳騎手(右から2人目)の騎乗で2勝目を飾った

 ■笠松競馬の馬券販売9.9%増、伸び率全国トップ(4~10月)

 NAR発表の地方競馬開催成績によると、V字回復を果たしている笠松競馬の馬券販売は本年度も好調をキープ。4~10月(開催53日間)の総売得金は244億7400万円で、前年比で9.9%の増加(開催日2日増)。全国の地方競馬(13主催者)ではトップの伸び率となっている。笠松に続いて金沢、高知、大井の計4場がプラス。この他の9場はマイナスで、名古屋が8%減(開催日3日減)、兵庫は5%減と伸び悩んでいる。

 1日平均でも笠松は4億6100万円で前年比5.7%の増加。金沢、佐賀に続き全国3位の伸び率となっている。名古屋は3.5%減、園田は5%減。コロナ禍による巣ごもり需要で、インターネットによる馬券販売が急伸していたが、全国的にはやや陰りが出てきた。都市部を中心に、外出による飲食やレジャーの多様化もあって、馬券販売は全国平均で横ばいとなった。

 ■445億円の過去最高額更新の可能性も

 そんな中で笠松の健闘が光っている。ウマ娘コラボレースの実施や2勝を挙げたオマタセシマシタ効果もあって、全国のファンに明るさをアピール。2012年度には馬券販売が過去最低の106億7000万円まで減少し、厳しい経営状況が続いていたが、ここ10年は全国的に「V字回復」。笠松では一連の不祥事による巨額赤字を乗り越えて黒字化。馬券販売は好調だ。1980年度に記録した445億円の過去最高額を更新する可能性もある。


 ※「オグリの里 聖地編」好評発売中、ふるさと納税・返礼品に

 「オグリの里 笠松競馬場から愛を込めて 1 聖地編」が好評発売中。ウマ娘シンデレラグレイ賞でのファンの熱狂ぶりやオグリキャップ、ラブミーチャンが生まれた牧場も登場。笠松競馬の光と影にスポットを当て、オグリキャップがデビューした聖地の歴史と魅了が詰まった1冊。林秀行著、A5判カラー、200ページ、1300円。岐阜新聞社発行。岐阜新聞情報センター出版室をはじめ岐阜市などの書店、笠松競馬場内・丸金食堂、名鉄笠松駅構内・ふらっと笠松、ホース・ファクトリーやアマゾンなどネットショップで発売。岐阜県笠松町のふるさと納税・返礼品にも加わった。