人口尿道括約筋の仕組み

泌尿器科医 三輪好生氏

 日本人男性で最も罹患(りかん)率の高いがんは前立腺がんです。一方で、前立腺がんによる死亡率はがん全体の中で6位と低くなります。これは、前立腺がんは比較的ゆっくりと進行するものが多いことと、早期に発見すれば治せることが影響しています。

 前立腺がんの根治治療で最も多く行われているのは手術によって前立腺を取り除く前立腺全摘除術です。前立腺は膀胱(ぼうこう)のすぐ下にあり、尿道が真ん中を通っています。手術では前立腺を取り除いた後に膀胱と尿道をつなぎ合わせます。前立腺全摘除術の代表的な合併症として尿漏れが知られています。

 私たちは普段、尿が漏れないように尿道括約筋によって尿道が締められていますが、この尿道括約筋は前立腺のすぐ下にあるため手術の時には多少の損傷を受けることになります。手術の直後には約80%の人が尿漏れを自覚するといわれています。ほとんどの患者さんは術後1カ月から6カ月で回復しますが、ごく一部の患者さんは6カ月以上たっても重症の尿漏れが残ることがあります。

 寝ている時は大丈夫でも立ち上がっただけで漏れてしまうようになると趣味のゴルフなどにも出かけることができず、外出を控えるようになってしまいます。紙パンツをはいて仕事に出かけないといけないようになると生活の質を著しく低下させます。このようなタイプの尿漏れに対する有効な薬はありません。

 まずは尿道を支えている骨盤底筋の強化と尿道括約筋の収縮力を高めるための骨盤底筋体操が勧められます。骨盤底筋体操を続けることで尿漏れからの回復を早めることが期待できますが、半年以上たっても改善がない場合には他の方法を考える必要があります。

 重症の尿漏れに対する治療法としては人工尿道括約筋埋め込み術があります。この手術は、尿道括約筋の代わりとなる器具を体の中に埋め込み、患者さん自身が括約筋の働きをコントロールすることで尿漏れの改善を実現する方法です=図=。

 手術では合成樹脂製の器具を陰のうの中などに埋め込みますが、器具は全て体内に埋め込むので外見上は目立ちません。尿道に巻かれたカフの中には生理食塩水が入っており、それが膨らむことで尿道を軽く締め付け、尿の漏れを防ぎます。尿意を感じたら、陰のうの中に埋め込まれているコントロールポンプを押すことでカフが開いて尿道が緩み、尿を出すことができます。

 重症の患者さんの場合は手術によって完全に尿漏れが消失することは難しいかもしれませんが、9割以上の人で尿漏れは軽くなり1日1枚程度の尿取りパッドで済むようになるといわれています。手術は泌尿器科で受けることができますが、実際に行っている病院は全国的にも限られています。手術後の尿漏れが重症で半年以上長引いている患者さんは手術を受けた病院で相談し、人工尿道括約筋埋め込み術を専門的に行っている施設を紹介してもらうことをお勧めします。