JRA初勝利を飾った田口貫太騎手の阪神競馬場でのセレモニー。阪神JFでGⅠに初騎乗する

 「乗れてる、持ってる」。JRAルーキーの田口貫太騎手(栗東、大橋勇樹厩舎)が阪神ジュベナイルフィリーズ(10日・阪神)でGⅠレースに初騎乗する。9分の4の抽選を突破した1勝馬ニュージェネラル(牝2歳、武英智厩舎)とのコンビで、20歳の誕生日に夢のステージへチャレンジする。

 貫太騎手は「1年目の僕にチャンスを与えてくださったオーナーさんや武英智調教師、厩舎関係者の皆さんに感謝の気持ちでいっぱいです。GⅠは憧れの舞台で乗りたいし、勝ちたいです。今できる全力の騎乗で、一つでも上の着順を目指して頑張ります」と闘志に点火。騎乗馬が第一関門の抽選をくぐり抜ける幸運で、早くも大きなチャンスをつかんだ。

 ニュージェネラルには6日、最終追い切りに騎乗した貫太騎手。キャリアは1戦のみだが「自分からハミを取って、しまいの反応も良かったです。気性もおとなしくて従順な馬ですね」と手応えを感じていた。

 2年先輩の永島まなみ騎手もスウィープフィートでGⅠに初騎乗する。今年3月に開業した小栗実調教師(岐阜市出身)はナナオとプシプシーナの2頭出しでGⅠ初挑戦。ともに京都で逃げ切り勝ちがあり、意外性もある西村淳也騎手と浜中俊騎手の先行策が注目される。

笠松でも癒やし系の貫太スマイル。ヤングジョッキーズで勝利を飾った

 ■笑顔キラキラ 乗り鞍多くなった

 笑顔キラキラ、どこか昭和モードの郷愁を誘う「愛されキャラ」で、乗り鞍も多くなった貫太騎手。本人は「笑顔については特に意識していないですが、元々が明るい性格なんで自然に出る感じですね」と照れ笑い。

 岐阜県岐南町出身で、両親が笠松競馬の元ジョッキーという「良血」の遺伝子を受け継いだ。デビュー後の3月8日、笠松での地方交流戦で初勝利を飾った。26日には阪神でJRA初勝利もゲット。4月に県庁を訪れ、古田肇知事に喜びを報告。「1年目は30勝以上したいです。一番の目標は、日本ダービーで勝つこと」と飛躍を誓った。古田知事からは「凱旋門賞」の声も飛んだ。

岐阜県庁を訪問し、古田肇知事に騎手デビューと初勝利を報告した田口騎手(右)

 ■武豊、川田ら一流ジョッキーと競う日々

 「競馬の世界では、入ったばかりでもいきなり武豊さんや川田さんら一流ジョッキーと、一緒のレースで競うことができます。そういう面では学べることが多いです。こういった環境に感謝しています」と憧れのジョッキー生活は充実。岐阜県ただ一人のJRAジョッキーとして「トップトレーナー国枝栄先生の厩舎の馬に乗せてもらえたら光栄です」と岐阜つながりでの夢も広げていた。

 乗馬経験があるという古田知事。馬は賢く乗り手の力量を見抜いているとの見方も示しながら「田口騎手は岐阜県の宝。騎手はけががつきものなので、健康に留意して頑張って」とエールを送っていた。

騎手バスを降り、今村聖奈騎手と楽しそうにパドックに向かう田口騎手

 ■今村聖奈騎手に続き、1年目GⅠ騎乗

 座右の銘として「明日の自分は今日の自分より強く」を挙げており、向上心が強い貫太騎手。笠松での騎乗も多く、父の管理馬で既に勝っている。それでも「レースでは僕がちょっと焦っちゃうことがあります。父がジョッキーだったことから、感じることをアドバイスしてくれます」と騎乗技術向上へ日々精進を続けている。

 1年先輩の今村聖奈騎手は昨年末のホープフルSでGⅠ初騎乗。スカパラダイスで18着に終わった。貫太騎手と聖奈騎手は2003年生まれで誕生日が近く、歓談する姿も多い。パドックが内馬場にある笠松競馬場では、騎手バスで到着すると、にこやかな2人の姿も見られた。

卒業式の記念写真。武豊騎手の隣に田口騎手(左)

 ■30勝クリア「最多勝利新人騎手賞」ほぼ手中に

 デビュー前、JRA競馬学校の模擬レースでは、小林勝太候補生らの背中を追って2着が多かった。2月に騎手免許試験合格が決まると、卒業式のお祝いに駆け付けた日本騎手クラブ会長・武豊騎手の隣に寄り添い、記念写真の撮影でもしっかりと好位をキープ。憧れのレジェンドのオーラを浴びてうれしそうだった。

 卒業の日から目標として掲げていた「1年目30勝以上」。11月末までに勝利数を「27」とし、あと3勝に迫っていた。自分や厩舎も表彰対象となる数字で、達成に闘志を燃やしてきた。

 11月第4週は勝ち星がなく足踏みしたが、プレッシャーを感じることなく、12月第1週は猛ダッシュ。2日間で計4勝を挙げ、坂井瑠星騎手とトップタイ。JRA「最多勝利新人騎手賞」の表彰対象となる30勝ラインをあっさりとクリアし、31勝目を飾った。これに続くのが小林勝太騎手の11勝で、「新人賞」のタイトルをほぼ手中にした。厩舎部門(優秀厩舎賞)では、30勝以上の新人騎手が所属する厩舎が「新人騎手育成賞」の表彰を受ける。

 JRA競馬学校へは3年前の春、応募者125人のうち合格者は8人という難関を、2回目の受験で見事に突破。1回目は不合格だったため、滋賀県長浜市の三田馬事公苑で訓練。住み込みで馬の世話をしながら厩舎仕事を体験したことから、レースに馬を送り出す厩舎スタッフの熱意を肌で感じ、感謝の気持ちが強く植え込まれた。  

阪神競馬場で、父が管理していたビルボードクィーンに騎乗した田口騎手

 ■全12レース騎乗、初のオープン・特別勝利も達成

 12月、乗り鞍がトップジョッキー並みに増えている貫太騎手。中京開催では、昨年の今村聖奈騎手に続いて新人では史上5人目となる全12レース騎乗を達成した。見習騎手(地方交流を含め100勝以下)として、負担重量は現在△印の2キロ減。特別レースなどでは減量の恩恵はないのに、騎乗機会に恵まれている。

 阪神メイン・ギャラクシーSでは、マルモリスペシャルで初のオープン・特別勝ち。チャンピオンズカップを制覇した坂井瑠星騎手に続く「いま乗れてる若手」の一人としてブレークしている。

 父とは飲み仲間でもあるアンカツさんも「今年の新人騎手のうちでは結構うまい」と注目していたが、自ら掲げた目標30勝を難なく突破。小さい頃から厩舎エリアで馬にまたがったりしながら、父の管理馬に親しんできた貫太騎手。「故郷」のような笠松競馬場での騎乗も多く、初勝利と2勝目は笠松でのJRA・地方交流戦だった。

 7日の笠松・ジュニアキングを管理馬で制覇した父の輝彦調教師。GⅠ参戦が決まった貫太騎手について「良かったです。出るだけでもすごいこと」と喜んでいた。

笠松競馬場ではサンマルパトロールに騎乗。地方、JRAを含めて初勝利を飾った

 重賞初騎乗は8月の小倉・北九州記念(GⅢ)だった。クリノマジン(牡4歳、高橋義忠厩舎)で挑み12着だったが「パドックからお客さんの反応がすごかった。ゲート裏での雰囲気やレースでのタイトさも違って、いい経験をさせていただきました。これからも乗り続けられるよう頑張ります」と意欲。GⅠ騎乗につなげることができた。

 10月には阪神12Rで快挙。11歳セン馬マイネルプロンプトでJRA平地最高齢勝利記録を10年ぶりに更新した。現役10年目の「敬老馬」に騎乗し、12番人気で差し切りVを決めた。武豊騎手も達成していなかった驚きの記録となった。

 阪神JFでは、自らの手綱でバースデープレゼントを引き寄せることができるかどうか。武豊騎手のGⅠ初騎乗はデビューした年の菊花賞。6番人気レオテンザンで6着だった。人気薄のニュージェネラルに乗る貫太騎手。GⅠ初騎乗で人気を上回る着順なら合格点だろう。若武者らしく、思い切った騎乗で完全燃焼するだけだ。

ジュニアキングを制覇したブルーチースと今井貴大騎手(右)ら喜びの関係者

 ■笠松・ジュニアキング、ブルーチース制覇

 JRA認定競走で準重賞のジュニアキングが7日、笠松競馬場で行われ、4番人気ブルーチース(牡2歳、田口輝彦厩舎)が逃げ切りVを飾った。デビュー以来5連勝中だった期待馬ワラシベチョウジャ(牝2歳、笹野博司厩舎)は5着に終わった。

 笠松所属馬限定戦で、ブルーチースには今井貴大騎手が騎乗。快調に逃げ、ゴール前ではミノコクシュタルク(友森翔太郎騎手)の追撃をクビ差かわしてゴール。3着にはリボリュウション(東川慎騎手)が突っ込んだ。

 金星を挙げた今井騎手は表彰式で「おめでとう」とファンの大きな声援に迎えられた。「いいスタートを切って逃げた。ゆったりしたペースで3コーナーから引き離し、何とか押し切れて良かった」と笑顔を見せた。「やっと期待に応えられホッとしています。初めてハナを切って、砂をかぶらずに行けて理想的な流れでした」と会心のレースを振り返った。

ブルーチースが1着ゴール。ワラシベチョウジャ(右)は完敗した

 ■ワラシベチョウジャ6連勝ならず

 ネクストスター笠松を勝ったワラシベチョウジャを完封。いい流れで逃げて展開にも恵まれ、田口輝彦調教師も今井騎手の好騎乗をたたえていた。

 連勝街道を突っ走っていたが、6戦目で初めて敗れたワラシベチョウジャ。主戦の渡辺竜也騎手が負傷療養中で、名古屋の名手・丸野勝虎騎手が初騎乗。前走同様、4番手からの競馬になった。3コーナーから一気に動く脚はなく、4コーナーを回って一瞬2番手に上がったが、最後は失速気味になった。距離が1600メートルに延びた影響があったのか、いつもの切れ味を発揮できなかった。

 2歳重賞のライデンリーダー記念(12月30日)には向かわず、年明けから渡辺騎手とともに復活を目指すことになりそうだ。

オグリキャップの10走目、ハクリュウボーイとも対戦した1987年12月7日の笠松10R出走表と予想記事など(以下いずれも競馬エース)

 ■オグリキャップ、ハクリュウボーイと師走特別で芦毛対決(1987年12月7日)

 笠松時代のオグリキャップのレースを専門紙「エース」で振り返るコーナー。Jクラウンから中9日で挑んだ芝1200メートルの中京盃(中京)で滑らかなフットワークを見せて、キャップは芝レースへの適性を発揮。続く中日スポーツ杯(名古屋)でもハロープリンセスなど名古屋勢を圧倒。3歳(現2歳)の暮れには早くも古馬勢と対戦した。現在では地方・JRAを含めてもあり得ない一戦だった。

 

 デビュー10戦目は笠松での師走特別(1600メートル)で、笠松のレジェンド誘導馬「パクじぃ」ことハクリュウボーイとの芦毛対決となった。師走特別は今開催も11日にあり、A4クラスの1400メートル戦で1着賞金70万円。36年前にはB2クラスの1600メートル戦として行われ、1着150万円で今年の2倍超だった。笠松競馬の盛衰も感じられる数字だが、昭和当時の物価を考えると、レース賞金はもっとアップしてもいいのでは。

2005年4月、オグリキャップ(左)は笠松競馬場に里帰りし、ハクリュウボーイと再会した

 ■3番人気のハクリュウボーイにハマちゃん

 秋風ジュニア以降のキャップのレース映像は、ユーチューブ動画でも見ることができる。典型的な逃げ馬の5歳(現4歳)ハクリュウボーイは▲印で3番人気。ここまで24戦9勝で全て逃げ切り勝ち。3走前に勝ったハマちゃん(浜口楠彦騎手)の手綱で3コーナーまで快調にハナに立っていたが、ヤングオージャ(樋口富男騎手)が仕掛けると、向正面5番手を進んでいたキャップのエンジンも全開。3~4コーナーで大まくり。後続を一気に突き放すと、先行集団は次々と脱落。ゴールでは6馬馬身差の圧勝。タイムは1分44秒4で古馬勢を1秒3もちぎった。

 

 中央入り後のマイルCSや安田記念も含めて7戦7勝と最も得意とした距離で、マイルは無敵だった。2着は単勝9番人気で✕印のヤングオージャ、3着は○印のテイオースター(伊藤強一騎手=現調教師)。ハクリュウボーイは5着で掲示板を確保した。キャップの単勝は中日スポーツ杯の120円からやや上がって170円。枠連7―8は830円とキャップ笠松時代では最高額となった。

 

 ■「古馬もまっ青!三歳オグリキャップの豪脚」

 特筆すべきは、現2歳の段階で既に古馬勢の現4~8歳馬と対戦し、圧倒していたこと。「胸のすくレースぶり。前代未聞のスピード出世。まさしく個性派スターの出現を告げる」「古馬もまっ青!三歳オグリキャップの豪脚」と見出しも躍り、次世代スターホースの出現を歓迎した。

 アンカツさんの手綱さばきとともに、自分からレースをつくり出すキャップ。ハクリュウボーイら古馬との対戦はデビューから既に10戦目。この経験でキャップ自身も古馬の風格を漂わせて、中央入り後は同世代のエリート馬を子ども扱いにした。「勝負どころの3~4角で大外の専用コースを進出し始めると場内がドッとくる」。キャップの聖地・笠松。ライブ観戦で、こんなスターホースがまた出現したら、ウマ娘ファンも熱狂することだろう。


 ※「オグリの里 聖地編」好評発売中、ふるさと納税・返礼品に

 「オグリの里 笠松競馬場から愛を込めて 1 聖地編」が好評発売中。ウマ娘シンデレラグレイ賞でのファンの熱狂ぶりやオグリキャップ、ラブミーチャンが生まれた牧場も登場。笠松競馬の光と影にスポットを当て、オグリキャップがデビューした聖地の歴史と魅了が詰まった1冊。林秀行著、A5判カラー、200ページ、1300円。岐阜新聞社発行。岐阜新聞情報センター出版室をはじめ岐阜市などの書店、笠松競馬場内・丸金食堂、名鉄笠松駅構内・ふらっと笠松、ホース・ファクトリーやアマゾンなどネットショップで発売。岐阜県笠松町のふるさと納税・返礼品にも加わった。