泌尿器科医 三輪好生氏

 前回は血尿に関するお話でしたが、今回は血尿で見つかる病気の中でも特に注意しないといけない膀胱(ぼうこう)がんについてお話しします。日本人における膀胱がんの罹患(りかん)率は全てのがんの中で男性は12位、女性は20位であり非常に多いがんというわけではありません。好発年齢は60~70代で、高齢者に多いがんです。社会の高齢化に伴い、日本では患者数が増加しています。男性に多いという特徴もあります。

 喫煙は膀胱がんの最大の危険因子とされており、喫煙者は非喫煙者と比較して2・14倍膀胱がんになりやすいとされています。また特定の化学物質(芳香族アミンなど)に長期間接触する職業の人に、発がんしやすいということも分かっています。

 膀胱がんのほとんどは血尿をきっかけに見つかります。血尿の多くは目で見て分かるぐらい赤い「肉眼的血尿」です。健診の尿検査の尿潜血で見つかることもまれにあります。血尿以外には頻尿、排尿痛などの膀胱刺激症状が見られることもあります。膀胱炎の診断で治療を受けても良くならない時や、過活動膀胱と診断されて薬を飲んでも改善しない時には膀胱がんの可能性も考える必要があります。

 診断は膀胱鏡検査で行います。最近の膀胱鏡検査は胃カメラを細くしたような内視鏡で行うので麻酔なしで簡単に受けられます。また、尿細胞診といって、尿中に剝がれ落ちた細胞成分を顕微鏡で観察してがん細胞の有無を調べる検査も補助的に行います。

 治療法はステージ(病期)によって異なります。腫瘍の浸潤が筋層の手前の粘膜下層までの場合(T1以下)は内視鏡手術で全てを切除できます。完全に切除できても時間を置いてまた他の場所に再発することがあるので術後も定期的な検査が必要です。

 筋層まで浸潤している場合(T2)は根治手術として通常、膀胱全摘除術を行います。以前はおなかを切って行う開腹手術が主流でしたが、最近ではロボットを使用した腹腔鏡手術を行う病院が増えてきており、少ない出血量で合併症の頻度も少なくなっています。手術で膀胱を全て取ってしまうと、体内で尿をためておく袋がなくなってしまうため、おなかに尿の出口を作り、体外に尿をためる袋を付ける必要があります。これを尿路変更と呼びますが、条件によっては小腸の一部を利用して体内に新たな膀胱を作り、通常通り尿道から排尿できるようにするいわゆる新膀胱を作成することもできます。

 腫瘍が膀胱を越えて浸潤している場合(T3以上)や転移を認める場合には抗がん剤を併用します。膀胱がんに使用できる抗がん剤の種類は近年増えています。

 いずれのがんにおいても言えることですが、体への負担が軽い治療で根治を目指すには早期の発見が必要です。そのためにも血尿が出た時には放っておかず早めに受診すべきです。また膀胱炎の症状がなかなか治らない時や頻尿の治療薬が効かない時には我慢しないで泌尿器科を受診し、膀胱がんが隠れていないか一度調べてもらうことをお勧めします。

(岐阜赤十字病院泌尿器科部長、ウロギネセンター長)