地方馬の中央芝GⅠ制覇に半馬身差まで最接近したレジェンドハンター。1999年6月の笠松デビュー戦は2着だった 

 わが家に眠っていた一枚の画像。コピー用紙に印刷されただけのもので、タイトルは「写真部・笠松競馬①」とあった。画質は悪いが、どうやらアンカツさんが騎乗したレジェンドハンター(牡3歳=現2歳、高田勝良厩舎)のようだ。

 デビュー戦のゴールシーンとみられるが、その年の暮れには、中央GⅠの朝日杯3歳S(現朝日杯フューチュリティS)で2着になったほどの出世馬。今となっては「奇跡の一枚」とも思える画像なので、今回は「伝説の快速馬」レジェンドハンターを取り上げることにした。  

 ■「うわさの大器」まさかの2着

 当時の記憶がよみがえってきた。1999年6月21日夜のことだ。岐阜新聞写真部のエースが、笠松競馬場での撮影を終えて「すごく強い馬と聞いて撮影に行ったけど、負けちゃったよ」と編集局の一室に駆け込んできた。レースは3歳新馬のデビュー戦「チャレンジ」(JRA認定、1着賞金200万円)。ファンへの公募で馬名は「レジェンドハンター」に決まっていた。

 デビュー前、能力試験の段階から好タイムを連発し「スターホース候補」として注目を浴びた逸材。本番レースでは断トツの1番人気に推されていた。父サクラダイオー、母サクラソフティー(母父サクラショウリ)というサクラ軍団の血統だった。

 翌日の紙面を「笠松に大物出現」などとレジェンドハンターで飾ろうと意気込んで競馬場に乗り込んだカメラマン。圧勝を期待して狙っていた馬がまさかの敗戦でがっかりしていた。1着馬は念頭になく、2着に終わったレジェンドハンターの画像をプリントアウトして、ライブ観戦した笠松ファンの一人に託してくれたのだった。

2003年、中央馬を圧倒し全日本サラブレッドカップを勝ったレジェンドハンターと山崎真輝騎手

 ■「伝説の新馬戦」コースレコード47秒9

 岐阜新聞の予想欄・きょうのポイントには「8番うわさの大器。桁違いのパワーで押し切り濃厚」とあり、アンカツさん騎乗で確勝級の一戦とみられていた。

 ところが、勝ったのは高木健騎手騎乗の3番人気マエストロセゴビア(牡3歳、樋口富男厩舎)というこちらも快速馬。サンキョウスーパーの48秒2を14年ぶりに更新。良馬場で何と47秒9と笠松800メートルのレコードタイムで逃げ切ってしまったのだ。47秒台突入に衝撃を受けた超ハイレベルな笠松版「伝説の新馬戦」。レジェンドハンターは2番手追走のまま、ゴールでは2馬身半差をつけられて2着に終わった。デビュー前から騒がれてはいたが、見せ場なく勝負は甘くないと感じたものだった。

 改めて画像を見ると、1着のマエストロセゴビアの姿はなく、決定的な差でレジェンドハンターがゴールイン。続く3着馬にはさらに9馬身差をつけていた。

 ■ゴール前も堤防道路もファンでびっしり

 まだお昼前の第2レースというのに、ゴール前はカメラを構えた多くのファンで埋まっていた。向正面南の堤防道路にはびっしりと車が止まっている。この日の入場者は6400人で、最近の10倍近い盛況ぶり。こういった競馬場での熱気こそが「強い馬を育てよう」という厩舎関係者のモチベーションにもつながったことだろう。昨年はオマタセシマシタの笠松デビュー戦などで盛り上がりを見せたが、いつの時代も「頑張って」といったファンの声援はジョッキーの背中を押している。

 断トツ人気レジェンドハンターが敗れ、配当は馬連330円に対して馬単は1950円となった。アンカツさんも悔しかっただろうが、あのオグリキャップも初戦の800メートル戦では2着だった。ワンターンのスプリント戦はスタートダッシュで前に行ったもの勝ち。新馬戦を勝ったマエストロセゴビアは続く秋風ジュニアも制し(アンカツさん騎乗)、スピードでは他を寄せ付けなかった。デビュー3戦目で早くも中央オープン・もみじステークスに挑戦。5番人気で後方からの競馬になったが、追い上げて4着と健闘した。

1999年、デイリー杯3歳Sを制覇したレジェンドハンター

 ■中央GⅡのデイリー杯3歳Sを制覇

 一方のレジェンドハンターは2戦目48秒2で2着に7馬身差の圧勝。4戦目ではGⅠ・朝日杯3歳Sの地方ステップ競走「重賞ほくてつ杯兼六園」(金沢)を逃げ切った。2着馬にまた7馬身差、3着の名古屋・ブラウンシャトレーには11馬身差の大勝だった。

 10月には中央GⅡ・デイリー杯3歳S(京都)で芝初挑戦。6番人気であっさり逃げ切り、2着ラガーレグルスに2馬身半差。職場でテレビ観戦となったが、最後の直線で抜け出すとまさかの楽勝劇に歓声を上げていた。「笠松の馬がこんなにも簡単に中央のGⅡを勝っちゃうんだ」と次走・朝日杯3歳Sへの期待が大きくなった。

 当時は笠松でデビューし同世代のトップホースとなれば、中央の重賞でも十分に戦え、勝つこともできた時代だった。80年代のオグリキャップから、90年代はオグリローマン、ライデンリーダーなどのスターホースが次々と出現し、中央のGⅠ、GⅡを勝つ活躍を見せていた。ライデンリーダーで逃した「中央芝GⅠ制覇」の夢を追い続けていたアンカツさん。古馬よりも2歳若駒の有力馬に興味を示し、悲願達成に燃えていたのだ。

中央芝GⅠの朝日杯3歳Sに挑戦し、2着惜敗だったレジェンドハンター(1999年12月13日付・岐阜新聞)

 ■朝日杯3歳Sで「芝GⅠ制覇」まであと半馬身

 レジェンドハンターは出走権を得た朝日杯3歳S(中山)で、地方馬による芝GⅠ初制覇のチャンスが巡ってきた。デイリー杯3歳Sの勝ちっぷりから1番人気に推され、3番手を追走。3コーナーで2番手に上がり、残るはあと1頭。4コーナーを回って前のダンツキャストをかわし、先頭に立った。「笠松の馬が、アンカツさんが中央GⅠ初制覇か」と夢が膨らんだ瞬間だった。

 だが直線は長かった。若駒にとっては先頭に立つのが早過ぎたのだろう。結果的には3コーナーからの早めのスパートが響いて、ゴール前の坂越えでは息切れ。残り10メートルを切って、福永祐一騎手騎乗のエイシンプレストンのイン強襲に屈した。

 それでも堂々の2着。地方所属馬としては、中央の芝GⅠ勝利まであと半馬身と「最接近」。これに続くのが北海道・コスモバルクの皐月賞2着である(1馬身4分の1差)。

 レース直後、アンカツさんは「パドックではいれ込んでいたし、レースでもこちらが仕掛けていないのに前に行きたがった。納得はしていません」と、若駒にかなり手を焼かされた様子だったという。

 レジェンドハンターは1999年のNARグランプリ「サラブレッド系2歳最優秀馬」表彰を受けた。あれから四半世紀。まだ地方馬の中央芝GⅠ制覇は悲願のまま達成されていない。今年のフェブラリーS(ダートGⅠ)には地方馬3頭が挑戦し盛り上がったが、大井のミックファイアが地方馬最先着で約5馬身差の7着だった。

笠松競馬場内でトークショーに出演し、「騎乗馬ベスト3」を語ったアンカツさん

 ■アンカツさん「ジェット機みたいだった」

 アンカツさんは引退後、笠松競馬場のトークショーで「笠松時代の騎乗馬ベスト3」として、レジェンドハンターを第3位に挙げている。 

 「笠松でデビューしたが、すごいフットワークだった。ジェット機みたいで、スタートが桁違いだった。中央のデイリー杯を勝ったけど、朝日杯では俺が下手に乗って負けちゃったなあ。もう少し我慢すれば良かった。中山では経験不足だった」と惜敗を悔やんだ。「勝ったエイシンプレストンもその後、香港マイルを勝つなど強い馬だったからなあ。レジェンドハンターは、体全体を使ってクッションがすごく良かったね」と回顧。スピード豊かで乗り心地が抜群だったそうだ。

 笠松時代の騎乗馬1位はオグリキャップで、2位はフェートノーザンと振り返っていた。

 ■皐月賞、日本ダービー戦線挑戦は故障で断念

 レジェンドハンターは、中央のクラシックロードでの活躍も期待されたが、球節の捻挫で皐月賞トライアルへの地元ステップレース(ゴールドジュニア)を使えず。皐月賞挑戦は断念したが、2000年3月の名古屋・スプリングCを圧勝。日本ダービートライアルへの出走権を得たが、またも故障のため中央クラシック戦線から離脱となった。地方馬が中央のGⅠに挑戦するためには、地元のステップレースを勝って、中央のトライアルで権利取りを果たす必要がある。中央馬より1戦多く、ローテがきつくなるハンディがあり、レジェンドハンターも故障に泣いたのだった。

全日本サラブレッドカップ制覇のレジェンドハンターと喜びの山崎真輝騎手

 ■全日本サラブレッドカップ、山崎真輝騎手で制覇

 4歳時には中央のテレビ愛知OP(芝)を制覇。アンカツさんがJRAへ移籍した03年には山崎真輝騎手が騎乗し、笠松での全日本サラブレッドカップ(GⅢ)を鮮やかに逃げ切り勝ち。中央のスターリングローズ(福永祐一騎手)らを完封してみせた。

 1年近い休養を挟んで大橋敬永厩舎へ移籍。7、8歳時はアンミツさん(安藤光彰騎手)が主戦となり、10歳まで笠松所属を貫いたレジェンドハンター。07年11月のいろり火特別7着(岡部誠騎手)がラストランとなった。地方で54戦24勝、中央で7戦2勝。重賞は計8勝。引退後は高知県の土佐黒潮牧場で余生を送ったが、08年12月、11歳で腸炎のため永眠した。

 ファンからは「デイリー杯の衝撃は忘れられんなあ」「故障と病気で持ってる才能の半分くらいしか出せなかった」といった声も上がった。

 笠松競馬では、NARグランプリ年度代表馬に2度も輝いたラブミーチャンが2013年に引退して以降、中央馬とも互角に戦える強い馬が誕生していない。スターホース候補は東海ダービーを勝ったビップレイジング、ニュータウンガールのほか、ハイジャ、ドミニクなどの期待馬はいたが、けがも多く真のスターホースには育っていない。

ネクストスター笠松を制覇したワラシベチョウジャと渡辺竜也騎手

 ■3歳期待馬ワラシベチョウジャ、復帰戦へ

 東海地区の3歳馬が激突する新設重賞「第1回ジュニアグローリー」(SPⅢ、1400メートル)が3月7日に笠松で開催される。ネクストスター笠松を勝ったワラシベチョウジャ(牝3歳、笹野博司厩舎)と、ネクストスター名古屋を勝ったミトノユニヴァース(牡3歳、角田輝也厩舎)の直接対決が実現する。

 名古屋からはスプリングC優勝のスティールアクター(牡3歳、角田輝也厩舎)、笠松勢ではゴールドジュニア2着のクリスタライズ(牡3歳、後藤佑耶厩舎)も有力馬として注目される。

ゴールドジュニアを制したミトノユニヴァースと2着のクリスタライズ

 ■クリスタライズ成長、展開次第で大駆けも

 角田厩舎の2頭は強力だが、笠松勢2頭も地の利を生かして勝機をつかみたい。ワラシベチョウジャは前走1600メートル戦のジュニアキング5着と敗れたが、距離短縮と主戦・渡辺竜也騎手との再コンビで復活の走りを見せるか。

 クリスタライズは前走、差し脚を伸ばしてミトノユニヴァースからクビ差2着。成長した姿を見せており、展開次第で大駆けもありそうだ。管理する後藤佑耶調教師は今年既に笠松で30勝を挙げ勝率も高く、8年連続リーディング・笹野博司調教師の29勝を上回る好調さを見せている。

 ワラシベチョウジャらは順調なら、ジュニアグローリーからネクストスター中日本(3月28日・名古屋)を目指したい。このレースを勝てば、短距離路線3歳チャンピオン決定戦となる4月29日・園田の「兵庫チャンピオンシップ」(JpnⅡ、1400メートル)への優先出走権を獲得できる。東海ダービーも視野に入れながら、笠松・名古屋勢の挑戦は盛り上がりそうだ。

笠松時代のオグリキャップ。10勝2着2回で中央に移籍した

 ■オグリキャップ笠松ラストラン(ゴールドジュニア・1988年1月10日)

 笠松時代のオグリキャップのレースを専門紙「エース」で振り返るコーナー。年明け4歳(現3歳)になって、重賞のゴールドジュニア(1600メートル)が笠松でのラストランとなった。既にJRAの瀬戸口勉厩舎へ移籍が決まっており、このレース後にオグリキャップは新天地・栗東のゲートをくぐることになった。

 「満天下にその強さを印象づけているオグリキャップ」と◎印が並んだ。「もう勝負づけのすんだメンバーだし、問題ない」と鷲見昌勇調教師。キャップを中央に送り出すことが決まり、東海公営最後のレースを迎えた。

 オグリキャップは単勝支持率70%で1.1倍。2戦目以降は全て1番人気となった。キャップが2度も敗れた宿敵マーチトウショウは△印で3番人気。連勝中のハロープリンセスが○で2番人気となった。

オグリキャップ笠松ラストランとなった1988年1月10日8R「ゴールドジュニア」の出走表と予想記事など(競馬エース)

 キャップは好位につけてハロープリンセスを振り切り、逃げたアルタスウエーをとらえると、最後の直線は力強く抜け出してビクトリーロード。「笠松卒業の一戦」でアンカツさんが気合を入れていっぱいに追うと、キャップは地元コースに惜別のゴールイン。前走から3秒2も縮める1分41秒8の好タイムで駆け抜けた。

 ■中央移籍、笠松発の天下取りサクセスストーリー

 2着争いは前走と同じくトウカイシャークと、その後の東海ダービー馬フジノノーザン。そこにマーチトウショウが猛然と駆け上がってきた。最後に「元祖・芦毛対決」の意地は見せたが、2馬身半差をつけられて2着。キャップとは6回目のワンツーとなった。笠松時代から始まっていた芦毛対決。キャップは800メートル戦で連敗後、距離が延びて4連勝。通算でも6勝2敗と宿敵を圧倒した。

 距離適性でキャップが最も得意としたのは1600メートル戦。笠松で3連勝し、中央入り後もマイルCS、安田記念など4戦4勝。人気漫画「ウマ娘シンデレラグレイ」でも盛り上がった笠松発のサクセスストーリー。ゲートインでの武者震いとともに中央のエリート馬をバッタバッタとなぎ倒し、2度の有馬記念で天下取りを成し遂げたのだった。


※「オグリの里2新風編」も好評発売中

 「1聖地編」に続く「2新風編」ではウマ娘ファンの熱狂ぶり、渡辺竜也騎手のヤングジョッキーズ・ファイナル進出、吹き荒れたライデン旋風など各時代の「新しい風」を追って、笠松競馬の歴史と魅力に迫った。オグリキャップの天皇賞・秋観戦記(1989年)などオグリ関連も満載。

 林秀行(ハヤヒデ)著、A5判カラー、206ページ、1500円。岐阜新聞社発行。笠松競馬場内・丸金食堂、ふらっと笠松(名鉄笠松駅)、ホース・ファクトリー、酒の浪漫亭、小栗孝一商店、愛馬会軽トラ市、岐阜市内・近郊の書店、岐阜新聞社出版室などで発売。

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