木之前葵騎手の勝負服とおそろい。ハート柄のメンコ姿が愛らしいアオラキ 

 「純白のアイドルホース」が降臨―。躍動して輝く白い馬体の美しさ、斜め下向きのユーモラスな顔の動き、ハート柄メンコ姿のかわいらしさ。芦毛の怪物・オグリキャップに代表されるように「白馬」が似合う聖地・笠松で、白毛のアオラキ(牡4歳、今津勝之厩舎)が地方競馬場デビュー。ラチ沿いを埋めたファンたちを熱狂させた。

 アオラキはゴールドシップ産駒。JRAから名古屋移籍初戦(4日)の笠松最終レース(B1特別)。木之前葵騎手のハート散らしの勝負服とコラボしたメンコがおそろいで、赤いシャドーロールを装着。パドック周回やレースでも「カメラ目線を送ってくれた」そうで、各地から来場した追っ掛けファンのハートをぶち抜いた。

誘導馬ウイニー、芦毛馬2頭とともにパドックを周回するアオラキ(手前)

 ■ラチ沿いに若いファンびっしりと

 地方デビューは、中央競馬ファンにも馬との距離が非常に近い笠松競馬の魅力を体感してもらう絶好の機会となった。昨年は人気馬オマタセシマシタ(馬主・斉藤慎二さん)が笠松で2勝を飾り、オマタセちゃんフィーバーで盛り上がったが、今年はアオラキの「白い旋風」がコースを駆け抜けた。

 パドック周回からスタンド前のラチ沿いには若いファンがびっしりと。カメラやスマホを手に熱視線を送った。誘導馬は芦毛のウイニー君で、深沢杏花騎手のカリーナチャム、宮下瞳騎手のアモーレグリーンと女性騎乗の芦毛馬2頭も参戦。白毛・芦毛馬が対象の「ウマ娘シンデレラグレイ賞」モードの一戦となった。

ファンが待ち構えるラチ沿いを返し馬に向かうアオラキ

 マイクロバスで到着した木之前騎手らが整列し、ファンに一礼。アオラキに騎乗しパドックを出ると、カメラを構えるファンが待つ外ラチいっぱいの至近距離を進み、ゆっくりと第4コーナー方面へ。サービス精神たっぷりで「こんなに近くで」とシャッター音を響かせる若者たちを感激させた。Uターン後の返し馬では、再びスタンド前を1コーナー方面へと、今度は内ラチ寄りを力強く駆け抜けていった。

ラチ沿いびっしりと若いファン。アイドルホースの返し馬に熱視線を送った

 ■見せ場あった、最後の直線で追い上げて5着

 JRAでは17戦して未勝利、3着3回。脚質は差しタイプでダートは2戦目。女性ジョッキーとのコンビは、今村聖奈騎手との4着以来。一時は1番人気にも推されたが、最終的には5番人気でゲートイン。7番手から4コーナー大外を回って最後の直線で瞬発力勝負。砂をあまりかぶらず、ハイピッチでパワーを感じさせるフットワークで追い上げた。

最後の直線で追い上げたアオラキ。5着でゴールインした

 タイムは1分30秒4。結果は5着に終わったが、4コーナーから見せ場のある内容で掲示板は確保した。インナーサンクタム(牡4歳)が勝ち、名古屋勢が上位を独占した。

 ■「やれそうな気がしました」と葵スマイル

 木之前騎手は向正面から愛馬アオラキとゆっくり戻ってくると「葵スマイル」を見せて表情は晴れやか。アイドルホースとのコンビで、ファンの大きな声援と視線を浴びて、今後につながる走りを見せられたことがうれしかったのだろう。

アオラキと初コンビ、レースを終えて笑顔で戻ってきた木之前騎手

 勝った大畑雅章騎手に「どうだった?」と聞かれ「駄目でした」と残念そうだった木之前騎手。それでも、次走へ向けて好感触で「なんか、やれそうな気がしました。これから馬の癖とかも考えて、いい方向にもっていけるようにしたいです」。最後の直線では大外を伸びてきており「結構体力がある子なんで、いいところを伸ばしていきたい」とラストの走りには手応えを感じていた。

 JRAでは2000メートル以上のレースが多く、1400メートルは明らかに距離不足。末脚は余力も感じられた。次走以降、笠松なら1600メートル戦で力を発揮してくれそうだ。

5着で枠場に入るアオラキと木之前騎手

 ■入場者、馬券販売でも「アオラキ効果」

 普段、メインレース後はガラガラになるスタンド前。ラチ沿いには誰もいないこともあり、「最終レース、こんなにお客さんがいっぱいとは」と驚いていた警備員や常連さんたち。

 アオラキを一目見たいという若い来場者が多く、「単勝馬券の買い方を聞かれた」という声も聞かれた。2月の月曜開催(2回)ではお客さんが少なく、平均400人だったが、この日はアオラキ人気で720人と1.8倍増。最終レース前に駆け付けた若者もいて、にぎわった。ネットの画面越しに応援したゴールドシップファンは多く「アオラキ効果」で馬券販売も伸びた。

 ■東海公営で新たな「白毛伝説」を

 かつてのハルウララ(高知)やオマタセシマシタもそうだったように、下級条件のレースでもアイドルホースを応援しようとファンが足を運んで、競馬場を活気づけてくれる。

 「すごく頑張ったね。ダートでも結構やれそう」「けがなく無事に走って」と期待。笠松でのコース適性は合格点で、距離が延びれば着順を上げられそうだ。次走は地元の名古屋競馬場になるのか。今後も東海公営に長く在籍し、新たな「白毛伝説」でファンを楽しませてほしい。

ジュニアグローリーを圧勝したスティールアクター。ワラシベチョウジャは2着

 ■スティールアクター圧勝、ワラシベチョウジャ復帰戦2着(ジュニアグローリー)

 東海地区3歳馬の精鋭が激突する新設重賞「第1回ジュニアグローリー」(SPⅢ、1400メートル)が7日、笠松で開催された。名古屋のスティールアクター(牡3歳、角田輝也厩舎)に加藤聡一騎手が騎乗。3番手から力強く抜け出して圧勝。地元期待のワラシベチョウジャ(牝3歳、笹野博司厩舎)が復帰戦で2着に追い込んだ。

スティールアクターと加藤聡一騎手(右)ら喜びの関係者

 ■余裕の手応え、4馬身突き放してゴール

 レースは長江慶悟騎手がナモロカで果敢な逃げ。3コーナーで失速し、スティールアクターが一気に先頭を奪った。余裕の手応えで4コーナーを回ると後続を4馬身突き放してゴールイン。道営から転入し重賞2連勝。同世代を圧倒し強さが際立った。

 笠松生え抜きのワラシベチョウジャは2歳時、デビューから5連勝と快進撃。ジュニアキングで5着に敗れたが、距離短縮と主戦・渡辺竜也騎手との再コンビで復活を期した。4番人気で5番手追走。4コーナーから反応良く伸びて2着に上がった。勝ったスティールアクターには離されたが、復調を印象づけた。

 1番人気のミトノユニヴァース(角田輝也厩舎)はライデンリーダー記念など重賞3勝馬。差し遅れたが3着に突っ込んだ。ファンの多い地元馬クリスタライズ(後藤佑耶厩舎)は逃げからの脚質転換で、中団からよく追い上げた。ゴール前ではミトノユニヴァースにかわされ、4着に終わった。

1周目、スティールアクター(中央)を重賞連勝に導いた加藤聡一騎手

 ■加藤聡一騎手「力がある馬で、もっと上にいける」

 5Rで放馬があったため、その後の発走時間が遅れ、表彰式では加藤聡一騎手の優勝インタビューを行えなかった。このため、装鞍所エリアで喜びの声を聞いた。

 前走1700メートルから1400メートルに距離短縮で、笠松は初馬場だった。「楽勝でしたが、気性がまだ子どもなんで。道営から来て連戦続きでしたが、リフレッシュでケアして良くなった。輸送分もあって馬体重は4キロ減でしたが、体は大きくなりそう。能力が高くて力がある馬なんで、もっと上にいけるのでは」と好感触。

 ■ワラシベチョウジャの追撃「来てましたか、気配はなかった」

 後ろからワラシベチョウジャが追い上げていたが、「来てましたか、気配はなかったんで。他馬が来ても、追えば動くんでね。手応えが良く、最後の直線は流す程度で、乗っている本人も『あー強いな』と。ペースも楽で、道中遊ぶぐらい余裕があった」と満足そうだった。

 角田輝也調教師も「強くなった。厩務員さんら厩舎スタッフが一生懸命やってくださるからね。元々乗り味のいい馬で、最初から強さの片りんがあった。一息入れて臨んだレースできちっと勝ってくれた」と手応え十分。次走はネクストスター中日本(3月28日・名古屋)に照準を定めた。

2着ワラシベチョウジャと渡辺竜也騎手の返し馬

 ■渡辺騎手「競馬が上手で乗りやすい」

 昨年の笠松最優秀2歳馬・ワラシベチョウジャ。連勝ストップ後は放牧を経て3カ月ぶりの実戦となった。レース後、渡辺騎手は「よく頑張ってくれて良かった。でも加藤聡一騎手の馬は強いから」と追撃は及ばず。「マイナス10キロはびっくりでしたが、縦には大きくなった感じもして、体重を増やし成長してくれるといいです」。レース内容は「折り合いもついて競馬も上手で乗りやすい。他馬にひるまないところが強みかな」とのことだ。

 道中のポジション取りは「加藤さんの馬が前に行って、それを見ながら競馬をしようと。(前走重賞勝ちの)強い馬の胸を借りて挑戦するつもりでしたし、思い通りの競馬はできた」と休養明けで収穫も大きかった。4コーナーで2番手に上がり「伸びてましたねえ。距離的には1600メートルまでの馬で、短いところで今回自信になりました」と次走が楽しみな様子。

 ■2頭ともネクストスター中日本で再戦へ

 笹野博司調教師は「体がもっとふっくらするのが理想で、次走はネクストスター中日本を予定しています」とスティールアクターとの再戦に意欲。渡辺騎手も「仕上がりは早い方なんで、プラス体重で出せればいいな。前の馬につける脚もあるんで、どんな展開になっても辛抱してくれそう」と手応えを示した。

 ワラシベチョウジャは短距離路線。2100メートルの東海優駿(東海ダービーからレース名改称)には向かわず、清流カップなどで重賞Ⅴのチャンスがありそうだ。「前走は負けましたが、連勝した馬って1回負けるとズタズタになっちゃうところもありますよね。(ワラシベは)それがなくて。負けん気が強い子なんで。レースでいい感じで乗れているんで楽しみです」

ラシベチョウジャとのコンビで重賞2勝目を目指す渡辺騎手

 ■2人とも1000勝が視野に、大台達成はどっちが先か

 聡一騎手は後ろからワラシベが来てることに気が付かなかった。それを告げると渡辺騎手は「あんな強い馬に乗ったら、足音も聞こえないし気が付かないでしょう。持ったままですもの。強いですわ」と脱帽。ワラシベの馬体重は436㌔に減ったが、「今後体重が増えてどこまでかなあと。関節の緩さだとか馬ももっとしっかりしてくるでしょうから」と期待。ネクストスター中日本は成長力が問われる一戦。勝てば「兵庫チャンピオンシップ」(JpnⅡ、1400メートル)への優先出走権を獲得できる。

 加藤聡一騎手は地方競馬通算830勝。1年後輩の渡辺竜也騎手は3月8日の誕生日にも3勝を挙げて通算796勝。ともにNARの優秀新人騎手賞を受賞しており、とても仲が良さそうな2人。すぐに1000勝も視野に入ってくるだろうが、大台達成はどっちが先か。良きライバルとして今後も笠松、名古屋競馬を盛り上げていってほしい。

ブルーリボンマイルで逃げ切りVを決めた大井のグレースルビーと達城龍次騎手(笠松競馬提供)

 ■ブルーリボンマイルは大井のグレースルビー逃げ切りV

 新設の4歳以上牝馬重賞「第1回ブルーリボンマイル」(SPⅠ、1600メートル)は、大井のグレースルビー(牝7歳、堀千亜樹厩舎)が達城龍次騎手の好騎乗で逃げ切りVを決めた(5日・笠松)。

 ブルーリボンマイルは地方全国交流で、牝馬路線「グランダム・ジャパン」古馬シーズンの対象競走。2番人気のグレースルビーが先陣争いを制すると快調な逃げ。2番手につけた大井のジュランビル(渡辺竜也騎手)は3コーナーで先頭に並びかけたが伸び切れず。名古屋のコンビーノ(塚本征吾騎手)も2番手に上がったが、グレースルビーが3馬身差で押し切った。

 達城騎手は初コースにも「うまく先行できて、小回りを苦にしなかった。3コーナーからペースは上がったが、うまく対応できた。自分から走る気持ちが強い馬で楽に競馬ができた」と自身2勝目となった重賞Vを笠松遠征で飾った。

優勝馬グレースルビーと喜びの関係者(笠松競馬提供)

 達城騎手といえば7年前、オグリキャップの孫・オーロシスネの主戦として無傷の4連勝を飾ったことがあった。全国のオグリファンが注目した期待馬だったが、屈腱炎のため引退し、北海道・ホースフレンドファームに入厩した。

 ■コンビーノ重賞勝てず、2着5回目「シルバーコレクター」

 コンビーノは重賞で5回目の2着(笠松で3回目)。岐阜金賞では東海3冠馬になったタニノタビトからクビ差の2着。今回は1番人気に推されたが、またもあと一歩届かず。「シルバーコレクター」ぶりを発揮してしまった。堅実駆けで馬券圏内は確保してくれ、重賞初Vへ応援したくなる一頭である。笠松でぜひ達成する姿を見たいものだ。


※「オグリの里2新風編」も好評発売中

 「1聖地編」に続く「2新風編」ではウマ娘ファンの熱狂ぶり、渡辺竜也騎手のヤングジョッキーズ・ファイナル進出、吹き荒れたライデン旋風など各時代の「新しい風」を追って、笠松競馬の歴史と魅力に迫った。オグリキャップの天皇賞・秋観戦記(1989年)などオグリ関連も満載。

 林秀行(ハヤヒデ)著、A5判カラー、206ページ、1500円。岐阜新聞社発行。笠松競馬場内・丸金食堂、ふらっと笠松(名鉄笠松駅)、ホース・ファクトリー、酒の浪漫亭、小栗孝一商店、愛馬会軽トラ市、岐阜市内・近郊の書店、岐阜新聞社出版室などで発売。

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