「善戦マン」を返上し、笠松で初勝利を目指すハルオーブ(はるお君提供)

 ここは未勝利馬を救うパワースポットでもある笠松競馬場。JRAで2着が多い「善戦マン」としてファンの注目を浴び、アイドルホースとなったハルオーブ(牡4歳)が、兵庫から笠松の後藤佑耶厩舎に転入。4月30日、笠松6R(A5B3)の1400メートル戦に出走登録があり、初勝利を目指している。

 ハルオーブは芝血統の馬で、地方のダートでは門別、園田で2桁着順が目立ち、苦戦が続いた。新天地・笠松でのデビュー戦を迎えるが、未勝利だったオマタセシマシタやアオラキが笠松でオーナーやファンを喜ばせたように、1着ゴールを飾ることはできるのか。
 
 このレース、名古屋の白毛馬アオラキ(牡4歳、今津勝之厩舎)も出走登録をしており、JRAで未勝利だった同期のアイドルホース2頭が初対決する。

笠松競馬の後藤佑耶厩舎に入ったハルオーブ(はるお君提供)

 ■JRA芝で2着7回の「シルバーコレクター」、地方ダートは苦戦

 ハルオーブは2年前の夏、JRAでデビュー。地方では北海道、兵庫を経て笠松に移籍してきた。JRAでの主戦は三浦皇成騎手で、新馬戦の福島で1馬身半の2着、2戦目の新潟でクビ差2着と惜敗続き。16戦して2着7回と「シルバーコレクター」ぶりを発揮。連対率43%、3着が3回あり複勝率も62%と高率だったが、初Vにはあと一歩届かなかった。1番人気には9回も推されたが、未勝利戦を脱出できず。芝中心に使われ、1度だけ経験したダートでは2秒6差の9着と完敗した。

 昨年9月に地方競馬へ移籍した。中央の3歳未勝利戦などで2000万円以上稼いだ馬でもC級からスタートできる門別や園田へ移ったが、甘くはなかった。

 門別のダートでは服部茂史騎手らが騎乗し、3戦して8着が最高だった。今年3月には兵庫へ転籍。リーディングの吉村智洋騎手が騎乗し、初勝利を期待されたが12着、10着に終わった。ダートでの厳しい戦いが続き、園田の馬場は不向きとみられ、短期間で笠松へ引っ越しとなった。

 「未勝利善戦マン」のハルオーブとは格が違うが、ナイスネイチャやステイゴールド、近年ではディープボンドやサウンズオブアースらもGⅠの舞台で2、3着が多い「善戦マン」だった。

 笠松デビュー馬では1984年デビューのミスターボーイ。安藤光彰騎手で6連勝もあり、中央入り。重賞で2勝を飾ったが、GⅠではマイルCSと安田記念で計3回の3着があった。オグリキャップが笠松でデビューした頃のことだ。善戦マンはスター性があって「次は勝ってほしい」とファンが応援したくなる馬たちであり、ハルオーブもその一頭だ。
 

ワカオライデン産駒のライデンリーダーはアンカツさんとのコンビで中央重賞を制覇。ハルオーブはワカオライデンのひ孫で血統ロマンを継承

 ■血統ロマン、笠松の名馬ワカオライデンのひ孫

 血統面では大きな驚きがあった。ハルオーブは笠松で大活躍したワカオライデンのひ孫でもあった。

 ハルオーブの父は2016年皐月賞馬のディーマジェスティ、母はハルダヨリで中央では未勝利(3着1回)。ハルダヨリの母父がワカオライデンだったのだ。

 笠松を代表する名馬の一頭であるワカオライデン。中央では1985年の朝日チャレンジCを制覇したが、脚部不安を抱えていたため笠松の荒川友司厩舎に移籍し(一時金沢に転籍)地方重賞を6勝。やはりオグリキャップがまだ笠松にいた頃で、引退後は種牡馬としてライデン旋風を巻き起こし、産駒に活躍馬が続出。ライデンリーダーは中央の重賞を勝ち、桜花賞では4着だった。

 そんなワカオライデンの血脈を受け継いだハルオーブ。昭和から時を超えた「笠松つながり」の血統ロマンに胸がときめいた。姉サイレントシズカ(後藤佑耶厩舎)は笠松で6勝を挙げたが屈腱炎のため引退した。伯母にはTCK女王盃Vのハルサンサン(船橋)がいる。

 JRA時代のハルオーブは賞金を2216万円も稼いだが、2、3着ばかりで勝ち上がれず。馬主はヒダカ・ブリーダーズ・ユニオンだったが、園田でも振るわず、クラブ法人でのファンドは解散された。新たな活躍の機会を与えるサラブレッドオークション(現役競走馬のインターネット取引)で生産牧場の藤沢牧場(北海道新ひだか町)が411万円で落札。藤沢亮輔さんが馬主となった。

オグリキャップの孫娘レディアイコも管理していた後藤佑耶調教師ら厩舎スタッフ

 ■後藤佑耶厩舎に入厩、笠松でのダート適性はどうか

 笠松へは4月中旬、後藤佑耶厩舎に入厩した。17日の笠松メイン11Rで笠松町商工会特別を制したのは渡辺竜也騎手騎乗のバイコーン。管理する後藤佑耶調教師は表彰式後、ハルオーブについて「うちに入りました。次の開催で使うかも」と精力的に励んでいる調教も順調のようで、「まだ誰が乗るかは分からないですが、ダートがどうかですね」と馬場適性を課題に挙げていた。

 笠松の馬場は砂の厚さが9センチで水はけが良く、脚抜きがいい。他の地方競馬に比べて砂質が軽くてタイムが出やすいのが特徴。高低差は1.92メートル。逃げ・先行タイプが有利だが、向正面から3コーナーにかけての下り坂が勝負どころで、ジョッキーの腕の見せどころでもある。はまれば意外と差しも決まる。中団から末脚に懸けるハルオーブは笠松コースに慣れていく必要があり、新天地での新たな活躍が期待されている。

 ハルオーブを管理する後藤佑耶調教師は、名伯楽・後藤保元調教師の次男で2017年に厩舎を開業した。兄は後藤正義調教師という名門競馬ファミリーである。一昨年にはオグリキャップ孫娘のレディアイコを管理し、注目を集めた。昨年、トレーナー部門でリーディング2位。今年は一時、8年連続1位の笹野博司厩舎を抑えてトップに立っていた。笠松で最も勢いがあり、成長著しい厩舎である。

中央では2着、3着が多かったハルオーブ。笠松のダートコースではどうか(はるお君提供)

 ■はるお君「笠松に着いたよ」ファン「応援するからね」

 ハルオーブの馬名は母ハルダヨリのハル(春)+オーブ(フランス語で夜明け)。交流サイト(SNS)上では、本馬自身「はるお」の名前で、牧場が情報を発信。生まれてからの成長ぶりなどを伝えている。

 4月13日には、はるお君が「笠松に着いたよ。園田から笠松は近いのです」と、後藤佑耶厩舎入りした様子を紹介。ファンからは「笠松ですか、これはまた楽しみ」「元気で走ってくれ、いつまでも応援するからね」などと善戦マン初Vを期待する声が相次いだ。

 藤沢牧場公式チャンネルではハルオーブについて「4月30日出走予定です。はるおは走ってみないと分からないっす。馬は元気なので、笠松の水が合うことを期待しています」。レースについては「やはり好勝負してほしいなあ。地方競馬行脚も笠松で終わりたいところ」と愛馬の活躍を期待。3勝を挙げてJRA復帰を目指すのか、注目される。

 ■笠松コースでガラリ一変した走りも

 当日の笠松のレースでは、オーナー藤沢亮輔さんの持ち馬であるイシズエがメインのヒロインカップ、準メインにはスズカサンサンも出走を予定。ともに後藤佑耶厩舎所属で「展開がはまればありそう。みんなで応援しましょう」と勝利を願い、現地・笠松で愛馬のレースを観戦する予定だそうだ。

 JRAの未勝利馬は、地方競馬で2、3勝を挙げてJRA復帰を目指すことが多い。現状ではレベル的に勝利を挙げやすい岩手、金沢、東海(名古屋、笠松)、佐賀へ転入するケースが目立っている。ダートが苦手でも、笠松でのコース適性が合えば、アオラキのように初Vも十分可能である。

 熱烈なファンも多いアイドルホース。ダート嫌いなら、舞い上がる砂のキックバックへの対策も重要になる。JRAで2着7回と実績があるハルオーブ。笠松コースもよく知る名古屋の塚本征吾騎手が騎乗し、脚抜きのいいコースでガラリ一変した走りを見せてくれるかも。意外と長い最初の直線。まずはスタートダッシュを決めたい。

笠松競馬場で待望の初勝利を飾ったアオラキと大畑雅章騎手

 ■アオラキは笠松で初勝利、2勝目なるか

 ハルオーブとともに地方競馬のアイドルであるアオラキも30日6Rに出走。シンデレラグレイ賞の翌日にアイドルホース同士の初対決が実現する。かつては故障馬を復活させる「再生工場」とも呼ばれ、敏腕調教師が多かった笠松競馬の厩舎。ワカオライデンやフェートノーザンをけがから復調させ、重賞ウイナーに。ラブミーチャンのように、JRAでデビューできなかった馬もスターホースに育て上げてきた。

 アオラキはゴールドシップ産駒で真っ白な輝く馬体がまぶしく、愛らしいしぐさで人気沸騰。JRAで17戦して3着が最高だったが、3月、笠松で移籍初戦を迎え、木之前葵騎手騎乗で5着。続く2戦目は大畑雅章騎手が2コーナーからロングスパートを決めて待望の初勝利を飾った。ラチ沿いには大勢のファンが並び、返し馬から大いに盛り上がった。

 前走は地元の名古屋で11着と完敗。これまで東海地区では中2週で使われており、1400メートル戦で距離不足だが、引き続き大畑雅章騎手が乗り、2勝目を狙う。ハルオーブとアオラキが直接対決。アイドルホースの登場で、パドック周回から返し馬へと向かう雄姿はラチ沿いのファンらの注目を浴びそうだ。

オマタセシマシタの返し馬では、大勢のファンがスマホなどを構え、熱い視線を送った

 ■オマタセシマシタは笠松でデビュー戦など2勝

 昨年の笠松では「オマタセちゃん効果」もあり、若いファンの集客に貢献。お笑いトリオ「ジャングルポケット」の斉藤慎二さんが馬主を務めるオマタセシマシタで、門別デビューから20戦目となった笠松移籍初戦でうれしい初勝利を飾ってくれた。

 笠松では渡辺竜也騎手、宮下瞳騎手の騎乗で2勝を挙げ、ファンを熱狂させた。返し馬では大勢のが若者らがスマホなどを構え、熱い視線を送った。斉藤オーナーも来場し、ファンと交流。オマタセシマシタはオーナー地元の船橋へ移籍し、3勝目も飾った。

 オグリキャップがデビューした聖地・笠松競馬場。その立身出世のパワースポットに集結し、初勝利または2勝目を目指すアイドルホースたち。現状の所属馬、出走馬のレベル的には、名古屋よりも笠松コースの方が勝利へは近道でもある。アオラキは3勝を挙げて中央復帰を目指すとみられている。

 一方、ハルオーブは生産牧場の所有馬となった。入厩して笠松での日々の暮らしとダートコースに早く慣れて、名門厩舎で未勝利から「再生」なるか。笠松でずっと走り続けて、勝利を積み重ねてほしい。

前走の臥龍桜特別を勝ったエイシンセブン(2)と2着のルリオウ(4)が、ウマ娘シンデレラグレイ賞でも有力に

 ■29日に「ウマ娘シンデレラグレイ賞」や「飛山濃水杯」

 4月29日には芦毛・白毛馬限定の「ウマ娘シンデレラグレイ賞」や岐阜新聞社・岐阜放送賞「飛山濃水杯」が行われる。ウマ娘声優さんによるトークショーなどコラボイベントも開かれ、盛り上がる。

 過去2回のシンデレラグレイ賞は、第1回が深沢杏花騎手がヤマニンカホン(森山英雄厩舎)で逃げ切って初代女王に。第2回は大原浩司騎手がエイシンウパシ(笹野博司厩舎)で2番手から差し切りV。ともに4歳牝馬がファンの声援と温かい拍手を浴びて、栄光のゴールを駆け抜けた。2着はメイショウイナセとスノーディザイアでともに後藤佑耶厩舎の馬だった。

 ■ゴールドシップ産駒が3頭も出走登録

 第3回を迎えた「シンデレラグレイ賞」(C級特別、1400メートル)には芦毛10頭が出走登録。注目はゴールドシップ産駒が3頭もいることだ。このうちフルールエトワール(牝7歳)は昨年(藤原幹生騎手で5着)に続いて参戦予定で、メンバー中ただ1頭、2年連続となる。

 前走・臥龍桜特別(C12特別)2着のルリオウ(牡6歳、岡部誠騎手)もゴルシ産駒で、田口輝彦調教師&吉田勝利オーナーが3代目王座を狙う。JRA1勝馬でもあり有力だ。もう1頭のゴルシ産駒はマイネルパーヴェル。後藤佑耶厩舎の管理馬で2着返上に燃える。人気を集めそうなのは臥龍桜特別1着で3連勝中のエイシンセブン(馬渕繁治騎手)で、ルリオウとの一騎打ちになるか。

4月29日に笠松競馬場内でも即売される「オグリの里」1聖地編、2新風編
第1回「ウマ娘シンデレラグレイ賞」の女王に輝いたヤマニンカホンと深沢杏花騎手(左)のポストカード

 ■「オグリの里」も出店、「シンデレラグレイ賞」名場面をポストカードに

 4月29日、特設ステージ近くでは「オグリの里」も出店。第1巻・聖地編(1300円)、第2巻・新風編(1500円)を即売します。「シンデレラグレイ賞」過去2回のゴールシーンや優勝馬の口取り写真など名場面集のポストカード(オグリの里オリジナル7種類)を、本購入の方にプレゼント(1冊で1枚、2冊で3枚)させていただきます。また、アンケート企画として「推しウマ娘は○○だ」の人気投票も行いますので、立ち寄ってみてください。


※「オグリの里2新風編」も好評発売中

 「1聖地編」に続く「2新風編」ではウマ娘ファンの熱狂ぶり、渡辺竜也騎手のヤングジョッキーズ・ファイナル進出、吹き荒れたライデン旋風など各時代の「新しい風」を追って、笠松競馬の歴史と魅力に迫った。オグリキャップの天皇賞・秋観戦記(1989年)などオグリ関連も満載。

 林秀行(ハヤヒデ)著、A5判カラー、206ページ、1500円。岐阜新聞社発行。笠松競馬場内・丸金食堂、ふらっと笠松(名鉄笠松駅)、ホース・ファクトリー、酒の浪漫亭、小栗孝一商店、愛馬会軽トラ市、岐阜市内・近郊の書店、岐阜新聞社出版室などで発売。

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