県庁将棋部から贈られた奨励会入会記念の左馬の置き駒を手にする高田明浩さん=2014年9月、各務原市鵜沼朝日町の高田さん宅

 2014年8月18日、息子の明浩は、日本将棋連盟のプロ棋士養成機関「奨励会」の試験を受けました。小学6年生のときに小学生準名人となり、受験資格を得てのことです。

 将棋関係者からは、「もし奨励会に入れても、8割の子はプロになれない。小学生のうちに奨励会に入らないと、ほとんど棋士になれない」と聞いていたので、私は、「受験は今回だけだよ」と話していました。息子もそのことを分かっていたからこそ、試験前、将棋の勉強に励んだのだと思います。

 奨励会試験は、2日間の1次試験の後、2次試験があります。1次試験は受験者同士の対局で、5局を指して3勝で合格、3敗で失格です。2次試験は、現役奨励会員との対局で、3局以内に勝てれば合格です。息子は、1次試験初日を1勝1敗で終えました。

 1次試験2日目は、午前の対局で負けました。あとは、2連勝するしかありません。お昼は、息子のリクエストでカツカレーを食べました。そのとき、店員さんが、「大丈夫やで。頑張ってね!」と息子を温かく応援してくれたことは、今も心に残っています。

 息子はその後の対局に勝ち、最終局は、互いに2次試験進出か不合格かという大一番でした。なんとかその対局に勝ち、翌日の2次試験は、1局目で奨励会4級の子に勝利して合格しました。

 「徒然草」の一節に「初心の人、二つの矢を持つことなかれ。後の矢を頼みて、始めの矢になおざりの心あり。毎度ただ後の矢なく、この一矢に定むべしと思え」という言葉があります。「上達するには、一本の矢で決めようとするのが大切だ」という意味です。これは、どんなことにも当てはまるように思います。

 昨年、私の教室のお手玉大会で、例年は1回の予選を、2回できるようにしました。大半の子はそれを喜んだのですが、「なんで2回できるようにしたの。1回しかできない方が、集中できるのに」と話した小学3年生の子がいました。

 その子は大変な努力家で、どんなこともよくできる、上級生たちも一目置く存在です。彼女はいつも、そういう姿勢で取り組んでいるので、上達が早いのだと思います。

 一度で決めようと集中するからこそ、最大限の力を発揮できる。実際には一度でできないこともありますが、そういう姿勢で物事に臨むことが大切なのだと感じます。

 息子が奨励会員のときは、年齢制限があるため、いつも緊張感がありました。プロになった今も、そのときの気持ちを忘れず、集中して対局に臨んでほしいと思います。

=エピソード編おわり=

(「文聞分」主宰・高田浩史)