泌尿器科医 三輪好生さん

 尿に関するトラブルを抱えている人は決して少なくはありません。尿に関する障害は大きく二つに分かれます。尿をうまく出すことができない排尿障害と、尿を十分にためることができない蓄尿障害です。

 排尿障害では尿に勢いがない、時間がかかる、尿が途切れる、おなかに力を入れないと出ないなどの症状を認めます。男性における排尿障害の原因として、まず思い浮かぶのは前立腺肥大症ではないでしょうか。加齢に伴い前立腺が大きくなることで尿道が圧迫され尿の出が悪くなります。しかし、中には前立腺が全然大きくないのに尿の勢いがない男性もいます。原因はいくつかありますが、その中で見落とされがちな病気に尿道の一部が狭くなってしまう尿道狭窄(きょうさく)症があります。

 過去に股の辺りを強く打つようなけが(騎乗型外傷)をしたことがあれば思いつくかもしれませんが、実は原因の多くが特発性、つまり原因がはっきりしないことが多く、内視鏡検査まで受けないと見つからないために見落とされてしまいます。昔は性病の尿道炎が尿道狭窄症の原因として有名でしたが、現在では尿道から行う内視鏡手術(経尿道手術)の術後や、前立腺がんの術後にもみられることがあります。また、尿がうまく出せないときや手術中に留置する尿道カテーテルが原因となることもあります。

 尿道狭窄症に対する治療として、これまでは尿道を専用の金属製のブジーやバルーンなどで内側から押し広げる尿道拡張術や、内視鏡で狭くなったところを切り開く内尿道切開術が標準治療として多くの病院で行われてきました。しかしこれらの治療では、いったん良くなっても再び狭くなってしまうことが多いために繰り返し治療を受ける必要がありました。

 これに対し、近年になって尿道狭窄症に対し尿道形成術を行うことで高い成功率が得られることが分かってきました。尿道形成術には二つの方法があり、一つは尿道の狭い部分を切除して正常な尿道同士をつなぎ直す尿道吻合(ふんごう)術、もう一つは尿道以外の代用組織を利用した尿道形成術です。代用組織として自己の口腔(こうくう)粘膜か陰茎の包皮を利用します。尿道形成術は手技が複雑で一般の泌尿器科医にはなじみがないため、一般の病院では行われていません。正しく診断された後には専門の施設へ紹介してもらい手術を受けることになります。

 尿道狭窄症以外にも、尿の出が悪くなる病気には膀胱(ぼうこう)の筋肉が弱まってうまく収縮できなくなる低活動膀胱など鑑別が必要な病気があります。かかりつけのクリニックなどで前立腺肥大症の薬をもらって飲んでも良くならない時には、一度泌尿器科を受診して検査をしてもらうとよいでしょう。