筒井勇介さん(41)、高木健さん(59)の「1000勝超えジョッキー」2人が、8月から笠松競馬のレースに現役復帰する。笠松生え抜きの2人は、一連の不祥事で騎手免許を取り消されて引退扱いになっていたが、空白の3年を経て免許を再取得。新たに大きな一歩を踏み出し、これまで応援してきたファンに健在ぶりを見せようと意気込んでいる。
地方競馬全国協会(NAR)は7月19日、本年度調教師・騎手免許試験の合格者を発表した。JRAの小牧太騎手(56)は史上初となる「地方→中央→地方」で、兵庫競馬への復帰が決まった。
笠松競馬から馬券不正購入問題絡みで一度は騎手免許を取り消されていた筒井さん、高木さんは笠松所属ジョッキーとして再び合格。8月1日付で免許が交付され、晴れてカムバックを果たす。
■馬券不正問題で競馬関与停止処分を受けたが、裁判勝訴
県地方競馬組合によると、調教師と騎手による馬券不正購入事件で21年4月、2人は「馬券購入した元調教師に馬の調子などを教えて現金を受け取った」として組合から競馬関与停止処分(筒井さん1年、高木さん6カ月)を受けた。NARの騎手免許は取り消され、引退扱いとなっていた。その後2人は処分取り消しを求めて提訴。岐阜地裁は処分を違法と認め、昨年6月に最高裁で岐阜県競馬組合の敗訴が確定していた。2人は、競馬関与停止の処分期間である半年、1年を過ぎてからは損害賠償請求に切り替えて争った。
組合は2人の騎手免許合格を受け「われわれ主催者とともに笠松競馬を盛り上げ、ファンの期待に応えて活躍していただくことを願っている」とコメントを出した。2人は裁判で勝訴が確定した後、ともに田口輝彦厩舎の厩務員として働き、早朝の調教タイムには笠松所属馬の攻め馬にも励んできた。
■筒井さん笠松連続リーディング、エレーヌなどで重賞12勝
筒井勇介さんは静岡県出身。2002年4月に笠松で騎手デビュー。地方通算1276勝。18年12月には地方通算1000勝を達成。19年に124勝、20年には131勝を挙げて2年連続で笠松リーディングを獲得した。重賞は12勝で、10年には名牝エレーヌで8勝を飾り、東海ダービーを制覇。あとはヨシノミカエル、コアレスバトラー(ライデンリーダー記念)、ダイヤモンドダンス(東海ゴールドC)、ウラガーノ(名古屋・ベイスプリント)で重賞勝ちがある。復帰後は田口輝彦厩舎に再所属した。
■高木さんライデンリーダー記念、アラブダービーなど重賞7勝
高木健さんは愛知県出身。1982年4月に笠松でデビューし、2014年2月に地方通算1000勝を達成した。地方通算では1113勝。20年末のライデンリーダー記念をフーククリスタルで逃げ切り、12年ぶりに重賞Vを飾った。ロードバクシン(くろゆり賞)、フワノフレーム(アラブダービー)など重賞は計7勝。向山牧騎手の1年先輩で、再び笠松競馬の最年長ジョッキーとなり、今年11月には還暦を迎える。復帰後は水野善太厩舎に再所属した。
他に笠松競馬からは森山広大厩務員(31)=加藤幸保厩舎=、荒木道哉厩務員(54)=森山英雄厩舎=が調教師に合格した。
■「またリーディング目指して頑張っていきたい。勝負服は新しく」
閉ざされていた「ジョッキー復帰の道」がようやく開け、目を輝かせる筒井さんに喜びの声を聞いた。
―合格が発表されましたね、おめでとうございます。長かったでしょうが、率直なお気持ちは。
「戻ってこられて良かったのと、またリーディングを目指して頑張っていこうかなと思っています」
―2年連続のリーディングジョッキーで、笠松の名手の一人だから。
「復帰できたんで(次回笠松開催中の)『8月1日から乗れる』と聞いています。心機一転、勝負服も(デザインを)新しくします。注文済みですが、レースまでに間に合うかどうか」
■田口先生に「戻ってこいよ」と、人気馬ハルオーブ追い切りにも騎乗
―以前のように田口先生の厩舎ですね。
「ずっと所属だったんで。処分を受けて裁判中も気に掛けてくださっていて、田口先生から『戻ってこいよ』と言ってもらっていたんで。騎手免許試験は3回ほど受けていて、ようやく合格できました」
笠松の元騎手として受験可能な騎手免許試験は年1回で、5月の1次試験(筆記)、7月の2次試験(面接、実技)を突破し、免許を再取得した。
―調教もこなす厩務員として、笠松競馬をサポートされ、人気馬ハルオーブにも乗られたそうですね。
「攻め馬の追い切りだけ騎乗させてもらいました。1回またがらせてもらって『追い切って』と言われたので。調教では多い時は1日30頭ぐらい。今でも25頭ほど乗っていますね。時間は(夜中の)12時からで、最後まで乗っているんで終わるのは朝8時頃までですね」
―懸案の放馬防止策も進められ、モデル厩舎もできましたね。
「乗り役と一緒で攻め馬専門なので、装鞍所で待機して馬に乗ります。レース開催時、競走馬は(離れた円城寺厩舎から)馬運車で競馬場まで移動します。あとの調教時は馬道を歩いてきます。もう少し早く他の厩舎も建て替えてくれるといいですが」
■「つらいこともあったが、いい出会いもありました」
―復帰が決まるまで、この3年間はどうでしたか。
「長かったですよ。つらいこともありましたが、滋賀県の牧場で働いていて、馬に対して情熱のある人たちとのいい出会いもありましたね。騎手試験は『今度は大丈夫だろう』と言われていましたが、やっとですから。結果が出るまでは不安もありました。組合からは『セレモニーをするかも』と言われましたが、『やるなら構わないですよ』と伝えました」
―騎手不足なんで、歓迎してもらえるのでは。
「頑張りますよ。もう1度リーディングに返り咲けるように」
■手応えのある馬「イイネイイネイイネとか何頭かいます」
―調教とかで乗っていて、手応えのある馬はいますか。
「それは何頭かいますが。こんな暑い時期なんで、めちゃくちゃ調子がいい馬はあまりいませんね。さっき走ったイイネイイネイイネ(3着)は調子が良かったです。攻め馬で乗っていますが、ちょっとトモが緩いんで、あまり結果が出ていないです」
イイネイイネイイネは東海ダービー2着馬だが、5歳の充実期を迎えており、筒井さんの騎乗で飛躍を期待したい。
―復帰後は田口先生やオーナーさんからバックアップしてもらえるのでは。
「そうですね。調教でも乗せてもらってきて、ありがたいですし、より一層頑張ろうと思っています」
―筒井さんといえば、東海ダービー馬のエレーヌのイメージも強いです。
「あの馬は強かったからですね」
笠松では数少ないダービージョッキーの一人だが、一時は騎手引退に追い込まれ、中堅として活躍していた30代から、円熟味が期待される40代になった。直前までリーディングを重ね、名馬の背中を知る頼もしい男。笠松競馬場のレースに戻ってきて、どんな活躍を見せてくれるのか。来年以降は渡辺竜也騎手とのリーディング争いも楽しみになる。
■高木さんの新人時代、馬券でお世話に
高木健さんも地元ファンが多いジョッキー。笠松競馬でアンカツさんや川原正一騎手(兵庫)がバリバリと勝利を量産していた昭和の時代。高木さんの名前は出走表の騎手名に「▲印」が付いていた新人の頃からよく知っていた。当時、笠松競馬の予想欄もあるスポーツ面担当になって、仕事の延長線上で笠松競馬場に通い始めた頃だ。日曜から6日間、現場で全レースの馬券を買っていたこともあった。
夜勤だったため、昼間は連日レースを観戦できた。「競馬東海」の本紙予想では無印だったが、注目していた一人のトラックマンがポツンと高木騎手に印を付けており、枠連で2800円ほどの「中穴」を多めにゲット。馬券でもお世話になって「高木騎手、新人なのに頑張ってくれたな」と好印象だった。
■公正競馬の確保に努め、ベテランの味を存分に
「騎手免許とは、運転免許のようなもの」と勝手に思っている。競走馬と車の違いはあるが、レース中の馬のスピードは60キロほどで、乗り役にとっては命懸けの操縦になることもある。NARの審査は厳しいが、一度引退となっても1~2年間、厩務員を務めながら攻め馬も行って信頼を得られれば、騎手復帰の道が開ける。
2人は半年または1年間「免許取り消し」になったが、裁判で勝訴したのだから名誉を回復。再生を進める笠松競馬のジョッキーとして堂々と復帰を果たし「クリーン度100%」の公正競馬の確保に努めていく。ベテランの味を存分に発揮して、ファンを魅了してほしい。
■「新人デビュー」「完全移籍」「現役復帰」で騎手5人増
ところで当欄では以前、フルゲート(12頭)に満たない9人にまで激減した笠松専属ジョッキーの数をいかに増やすか。次のような「4通りの可能性」を探ったことがあった。
①地方競馬教養センターを卒業し、騎手免許を取得した新人騎手のデビュー
②地方競馬騎手免許の「一発試験」に合格した騎手のデビュー
③期間限定騎乗など経験、他地区から笠松へ完全移籍
④元笠松競馬騎手の現役復帰、再デビュー
①の「新人騎手」では、松本一心騎手と明星晴大騎手がデビューした。
③の「他地区からの完全移籍」では、馬渕繁治騎手(北海道)が2度の期間限定騎乗での活躍を経て笠松に移籍した。
④「元笠松競馬騎手の復帰」では今回、筒井勇介さんと高木健さんが調教もこなす厩務員から笠松競馬場でのレースにカムバックした。
3年前のレース再開以降、笠松のジョッキー数は5人増えた。④の現役復帰は難しいとの見方もあったが、予想が当たってちょっとうれしい気分だ。
なお②の「一発試験」合格デビューは、まだ実現していない。厩務員から騎手試験の受験を続ける若手もいることだし、諦めずに何度も挑戦して夢をつかんでほしい。
■8月1日にも騎乗か、ファンの声援を励みに
調教厩務員になって、競馬の仕事に携わることへの「本気度」を示した上で、騎手免許再取得に挑んだ筒井さんと高木さん。2人の復帰で笠松競馬のジョッキー数は14人になる。来春の新人デビューはなさそうで、まだまだ騎手は足りないが、毎年一人ずつでも増やしていければ、適正数の20人に近づくことができる。
8月1日には正式に「筒井勇介騎手」と「高木健騎手」と呼べるようになる。1日は撫子争覇シリーズ2日目で、いきなり騎乗があるかも。
笠松で実績がある乗り役2人の「復帰」を願う関係者やファンは多かった。再騎乗を歓迎するとともに、2人には熱い騎乗で笠松競馬を盛り上げていただきたい。若手の成長をいつまでも待っていられないし、数多くの重賞勝ちがある頼りになるベテランの力も必要とされている。ファンの声援が励みになるだろうし、どんなデザインの勝負服で登場するのか。笠松カムバックを温かく迎えてあげたい。
※「オグリの里2新風編」も好評発売中
「1聖地編」に続く「2新風編」ではウマ娘ファンの熱狂ぶり、渡辺竜也騎手のヤングジョッキーズ・ファイナル進出、吹き荒れたライデン旋風など各時代の「新しい風」を追って、笠松競馬の歴史と魅力に迫った。オグリキャップの天皇賞・秋観戦記(1989年)などオグリ関連も満載。
林秀行(ハヤヒデ)著、A5判カラー、206ページ、1500円。岐阜新聞社発行。笠松競馬場内・丸金食堂、ふらっと笠松(名鉄笠松駅)、ホース・ファクトリー、酒の浪漫亭、小栗孝一商店、愛馬会軽トラ市、岐阜市内・近郊の書店、岐阜新聞社出版室などで発売。
※ファンの声を募集
競馬コラム「オグリの里」に対する感想や意見をお寄せください。投稿内容はファンの声として紹介していきます。(筆者・ハヤヒデ)電子メール h-hayashi@gifu-np.co.jp までお願いします。