3年半ぶりの復帰戦を勝利で飾り、笑顔の高木健騎手

 連日38度前後の猛暑日が続いて、人馬もファンも体力を消耗したが、盛り上がった笠松競馬のお盆開催。2日連続の重賞レースやサマーイベントで真夏の熱気もピーク。長年の地元ファンとして、一番うれしかったのは高木健騎手(59)が復帰初戦で「電撃V」を決めてくれたことだった。

 高木騎手は一連の不祥事の余波で半年間の騎乗停止を食らい、引退扱いとなっていたが、処分取り消しを求めた裁判で勝訴。その後は厩務員を経て8月1日、筒井勇介騎手(41)とともに晴れて地方競馬騎手免許を再取得。胸を張って笠松競馬のレースに帰ってきた。

ウインエイムハイに騎乗し、豪快な差し切りでゴールを決めた高木騎手

 ■ドドーンと一発、豪快な差し切りV

 8月12日、初日から2000人超が来場し大にぎわい。高木騎手にとっては3年半ぶりのレースで、復帰初戦となった9Rのメイン「打上花火特別」でドドーンと一発、豪快な差し切りVを決めてくれた。

 5番人気のウインエイムハイ(牡5歳、伊藤強一厩舎)に騎乗。後方2番手からの競馬となったが、笠松コースの特性を知り尽くしたベテランは早めに追い上げた。

 2コーナーから1頭ずつかわし、向正面からの下り坂で上位に進出。3~4コーナーでは内から外に出して一気に向山牧騎手騎乗のコパノモナルカに並びかけた。

 最後は突き抜けて持ったままでゴールイン。3馬身差の完勝。差し馬の能力を最大限に引き出して「剛腕お目覚め」をファンにも印象づけた。

 ■牧さんと59歳ワンツー「健さん健在」アピール

「誰が乗っても勝てるわ」と愛馬をたたえる高木騎手。「おめでとうございます」と厩舎スタッフらの出迎えを受けた

 強烈なインパクトで「健さん健在」ぶりをアピール。高木、向山騎手という59歳コンビでのワンツーとなった。3着に渡辺竜也騎手を従え「まだまだ若いやつには負けない」とばかりに熟年パワーを発揮した。カムバック戦での好騎乗は「さすが」と関係者やファンをうならせた。

 久々の勝利の味をかみしめながら、2コーナー付近から引き返してきた高木騎手。満面の笑みで愛馬の頑張りをたたえると、出迎えた伊藤強一調教師ら厩舎スタッフから「おめでとう」と祝福を受けた。

復帰Ⅴの歓喜に浸りながら「また重賞を勝ちたい」と意欲を見せた高木騎手

 ■3年半ぶりの勝利の味「あんまり変わらない」

 検量後には、馬具の手入れをしていた長江慶悟、深沢杏花ら若手ジョッキーからも「おめでとうございます」と祝福され、「ありがとうね」とにこやかにレースを振り返ってくれた。
 
 人気馬ではなかったが「あれは誰が乗っても勝つ」と謙虚だった。高知から笠松に転入したばかりの馬で「ポジションは思った通り。高知でも後ろからだったから。厩務員さんから『進んでいかないよ』と聞いていて、無理やり行くよりは流れに任せた方がいいかなと。ゴール前は楽でした」と振り返り、復帰戦Vのポーズも決めてくれた。
 
 3年半ぶりの勝利の味は「あんまり変わらないです。以前、笠松でB1クラスを勝っている馬で素質があるからね」と。騎乗したウインエイムハイは2年前、JRAから笠松に転入。2勝を挙げ、JRA復帰を果たしたが、1勝クラスで足踏み。高知では10戦して勝てず、相性の良い笠松にリピーターとして戻ってきてくれた。

 それでも復帰戦でいきなり勝つのはすごいこと。「馬の力が違ったからね。夏負けもあって返し馬ではクタクタしていたが、レースにいくと感じが違って走りそうだった」

ウインエイムハイに騎乗し、返し馬を行う高木騎手

 ■「どれか重賞を一つでも勝てれば」

 久々の本番レースは「あんまり気にしなかった。勇介(筒井騎手)みたいに緊張しないですし、リラックスして騎乗できた」

 「剛腕」通り楽に動かして、強い勝ち方を引き出すのがすごいところ。中央ではいい成績が残せず、売りに出された馬だったが、相性の良い笠松に再転入。「初日は乗るつもりはなかったが、先生(伊藤強一調教師)に攻め馬から頼まれていて、本番レースでも乗っていました」と初Ⅴ後押しにも感謝した。

 2020年末のライデンリーダー記念ではフーククリスタルで逃げ切った。12年ぶりに重賞Vを飾った高木騎手だったが、その後のブランクを感じさせない力強い騎乗でベテランの味を存分に発揮した。

 今後の目標は「どれか重賞を一つでも勝てればいいですね。地元にもそこそこ走る馬はいます。この前、征吾(塚本騎手)が乗って8馬身ちぎったゴーゴーバースデイ(牝2歳、後藤佑耶厩舎)は結構走るよ。僕が乗るかどうかは分からないけどね」。高木騎手が攻め馬を行っている若駒で、2着2回から走りが一変。笠松生え抜きの期待馬として、秋風ジュニアやネクストスター笠松に向けて注目していきたい1頭だ。

復帰後7勝を挙げ、好調さをアピールしている筒井勇介騎手

 東京オリンピックの年に生まれた健さん。ルーキーデビューの頃、笠松競馬場に通い始めて「穴っぽい騎手」として注目していた。剛腕と呼ばれるが、本人の好きな戦法は「逃げ」だった。

 11月には還暦ジョッキーとなる。乗り鞍は少ないだろうが「一鞍入魂」でスルスルと駆け上がり、ファンをアッと驚かせる豪快な騎乗を見せてくれそうだ。筒井騎手も復帰し既に7勝。ファンの間では「馬券作戦の選択肢も増えて、笠松競馬が面白くなってきた」といった声も聞かれる。ともに1000勝超えの名手で、エキサイティングな騎乗を見せて盛り上げてくれそうだ。

岐阜金賞をハナ差で制覇したフークピグマリオンと今井貴大騎手。内は2着のサウンドノバと大原浩司騎手

 ■フークピグマリオン逸走ピンチ、岐阜金賞も冷や汗V

 14、15日にはSPⅠレースが「連闘」で実施され、ヒートアップ。東海地区交流の「第48回岐阜金賞」(1900メートル)は今井貴大騎手騎乗の名古屋・フークピグマリオン(セン馬3歳、宇都英樹厩舎)が単勝1.3倍の断トツ人気に応えて差し切りV。駿蹄賞、東海優駿に続く勝利で、史上6頭目の「東海3冠馬」に輝いた。

 レースはラストの直線で一波乱。好位から抜け出した単勝1.3倍「絶対王者」の楽勝かと思われたが、初馬場で戸惑ったのか。外に膨らんで逸走しかける悪い癖を出すピンチ。インから大原浩司騎手が懸命に追い、差し返した伏兵サウンドノバ(森山英雄厩舎)と写真判定になった。

岐阜金賞を制覇し、東海3冠馬に輝いたフークピグマリオンと喜びの関係者

 「岐阜」の名を冠したご当地レースで「地元・笠松勢が久々に勝ったか」という際どいレースになったが、今井騎手の軌道修正でフークピグマリオンが粘り込んでハナ差での冷や汗Vとなった。重賞は5勝目。

 サウンドノバが2着惜敗で、大原騎手は重賞4勝目ならず。3着には吉原寬人騎手の名古屋・ベアサクシード(安部幸夫厩舎)が追い込んだ。地元期待の東海優駿2着馬・キャッシュブリッツ(笹野博司厩舎)=渡辺竜也騎手=は切れ味を欠き、4着に終わった。

 ■やばい動き2回、今井騎手「勝ったのでホッと」

 表彰式で関係者の前に姿を見せた今井騎手は、最後のやばい動きについて「きょうは2回やった。大原騎手の馬が来たら真っすぐ走ったから(単走になるより)横に馬がいた方がいいよ」と辛勝にヤレヤレ。最後1頭になると幼さを見せて遊ぶところがあり、また苦労させられ、課題が残った。

 ファンの前では、東海3冠馬の誕生に「うれしいです。3コーナーではいつもより手応えがなかったが、このまま力でねじ伏せようと」。最後の直線では「馬が嫌そうなそぶりをしました。東海優駿でも同じことをやって2度目ですが、勝ったのでホッとしています」と3冠ジョッキーにも輝いた喜びに浸っていた。

岐阜金賞の1周目、スタンド前を駆け抜ける各馬

 ■岐阜金賞、譲れない「東海公営最後の1冠」

 ところで、全国的な競走体系の見直しで岐阜金賞がお盆開催になり、「東海3冠」の位置付けが揺らいでいる。駿蹄賞、東海優駿に続く3冠目を「秋の鞍」とし、「名古屋3冠」とも呼ぶようにもなった。ただ48回目を迎えた伝統の岐阜金賞は、3歳馬による地元・笠松の看板レースの一つであり「東海公営最後の1冠」は譲れないところ。

 名古屋競馬の公式HPでも「フークピグマリオンが優勝し、東海3冠(駿蹄賞、東海優駿、岐阜金賞)を達成」と報じている。もし9月19日の秋の鞍にもフークピグマリオンが出走し勝ったら、「名古屋3冠達成」あるいは「東海4冠達成」とでも呼ぶのかも。秋の鞍の1着賞金は昨年800万円。これに対して岐阜金賞は600万円→1000万円に大幅アップ。賞金面で秋の鞍を上回り、笠松競馬サイドも「最後の1冠」死守へ意地を見せた表れといえよう。

 東海3冠馬は次の通り。笠松勢2頭、名古屋勢4頭。

 笠松=イズミダッパー(80年)、サブリナチェリー(93年)
 名古屋=ゴールドレット(82年)、ドリームズライン(17年)、タニノタビト(22年)、フークピグマリオン(24年)

くろゆり賞を逃げ切った名古屋のセイルオンセイラーと友森翔太郎騎手

 ■くろゆり賞はセイルオンセイラー逃げ切りV 

 地方全国交流の「第53回くろゆり賞」(1600メートル)は、友森翔太郎騎手の手綱で3番人気、名古屋のセイルオンセイラー(セン馬5再、塚田隆男厩舎)が鮮やかな逃げ切りVを決めた。

 得意の笠松コースでウインター争覇、飛山濃水杯に続いて今年重賞3勝目と本領を発揮した。外枠だったが、サッと先手を奪うと快調な逃げ。最後の直線でも危なげなく完勝。石川倭騎手の手綱で5連勝中だった道営・ニシケンボブが追い込んだが、2馬身差の2着。昨年覇者の兵庫のスマイルサルファーが3着に粘り込んだ。この上位人気2頭を負かしたセイルオンセイラーは堂々の勝利となった。

 笠松勢は期待のスタンレーが好位から伸びず7着。開業した森山広大厩舎のスペシャルトークは8着だったが、今後も厩舎初勝利を期待していきたい。

 ■友森騎手にっこり、家族と一緒に口取り撮影

 セイルオンセイラーと最強コンビの友森騎手は「ペースはゆったりしていて、馬がしっかり頑張ってくれた。夏休み中の子どもたちら家族も見に来ていて、勝つことができて良かったです」と口取り写真の撮影でも一家で優勝を祝いにこやか。子どもたちにも背中を押されて挑んだ「真夏の大冒険」は会心の一撃となり、最高の一日となった。

 地元・笠松勢としては2重賞ともに名古屋勢に優勝をさらわれた。「ああ、やっぱりな」とは感じるが、それにしても岐阜金賞の大原騎手は惜しかった。ゴール前の勢いでは「重賞4勝目かも」と写真判定を待ったが、あと一歩及ばなかった。「1着・9番」点灯に単勝、アタマ固定のファンらの歓声が上がった。
            

くろゆり賞を制覇したセイルオンセイラーと喜びの関係者 

 ■重賞で勝てない地元馬、今年も1勝のみ

 8月1日の「第2回撫子争覇」(SPⅢ)も名古屋のペップセ(今津勝之厩舎)が大畑雅章騎手で制しており、8月の笠松3重賞は全て名古屋勢が勝った。今年行われた笠松競馬の重賞は15戦。地元・笠松勢の勝利はサマーカップのエイシンヌウシペツ(笹野博司厩舎)=渡辺竜也騎手=のみ。あとは名古屋勢8勝、兵庫勢5勝、大井1勝と笠松勢にとって危機的状況が続いている。

 昨年も笠松馬の優勝は東海ゴールドカップのストームドッグ(森山英雄厩舎)=向山牧騎手=のみだった。スタンドでは、かつての栄光の時代を知る常連さんはもちろん、若いファンも「笠松の馬は勝てないなあ」と嘆いている。
 
 一連の不祥事からレースが再開されてまだ3年。騎手も厩舎も減って、強い馬づくりへの「過渡期」にあるとはいえ、所属馬育成のための思い切った手だては必要。異常事態の打破には、重賞レースだけでなく平場から賞金・手当を増額してほしい。素質馬を預けていただき、スターホース育成につなげていくための環境づくりが大切となる。

次世代ウマ娘候補の人気投票は桜花賞馬キョウエイマーチがトップ

 ■表彰式直後、ゲリラ豪雨で一部ファン足止め

 8月中旬の笠松開催はかつて「お盆特別シリーズ」と呼ばれていた。近年は「くろゆり賞シリーズ」で定着していたが、今年は「夏季特別シリーズ」として実施された。くろゆり賞に加えて岐阜金賞。夏の風物詩的な重賞レースが二つになったが、暑さは年々厳しさを増している。競馬場内は特に蒸し暑く感じられたし「異変」もいろいろとあった。
  
 台風7号接近の影響で15日の岐阜地方は夕方、落雷・停電が相次いだ。最終レースに行われたくろゆり賞の表彰式直後にはゲリラ豪雨で、一部ファンは移動が困難となり、場内に足止め。オグリキャップ像前などが冠水し池のようになった。この日は「オグリの里」の即売会も開いていた。本や荷物は最終レース前に片付けてはいたが、天候の急変を予期できず、降り込む雨に打たれてしまった。

 ■「次世代ウマ娘」トップはキョウエイマーチ

 即売コーナーでは今回「次世代ウマ娘候補は○○だ」の人気投票も実施した。1997年の桜花賞馬キョウエイマーチがトップで、アーモンドアイ、メイケイエールが続いた。笠松勢ではオグリローマンをはじめライデンリーダー、レジェンドハンター、ラブミーチャンにも投票があった。アイドルホースとして人気を集めたアオラキ、ハルオーブの名前もあった。

 サマーイベントでは、SKE48の太田彩夏さん(岐阜県出身)がトークショーで盛り上げた。特設ステージ前は大盛況で、岐阜金賞の大胆予想も披露。競馬通らしくレースもゴール前でライブ観戦し、人気を集めていた。

 アニソンシンガーで「ウマ娘・エスポワールシチー役」の亜咲花さん(名古屋市出身)も登場。ミニライブとともに、くろゆり賞予想にも全力投球。「ニシケンボブは外せないので馬単マルチで」などと力を込め、爆笑競馬トークでもガンガン盛り上げていた。

 ■「ミズヲマククルマ」故障で第2レース取りやめ

 猛暑絡みの余波では、14日の第2レースが競走取りやめになった。馬場整備の散水車が車両故障でストップ。整備に大幅な時間を要したため。「ミズヲマククルマ」のアクシデントで1レースがぶっ飛び、馬券を買っていたファンらは元返しの払戻金を受け取った。この間、レースは1時間以上なく、猛暑の場内は給水タイムにもなった。

お盆開催、連日の重賞レースでファンが詰め掛け、にぎわった笠松競馬場のゴール前

 ■2重賞、ともに最終レースで実施

 岐阜金賞とくろゆり賞は最終レースで実施され、表彰式は次のレースとの間隔を心配せずに行えた。それでも15日には猛暑と落雷・ゲリラ豪雨、さらに5Rでは馬体故障(鼻出血)による逸走・落馬もあり、くろゆり賞は10分遅れでの発走になった。

 結果的ではあるが、くろゆり賞は最終でなく一つ前の9Rに実施されていれば、多くのファンは豪雨で足止めされずに帰れたことだろう。メインを最終レースにやれば、第2駐車場などの混雑は増幅。ただでさえ名鉄線の踏切近くで渋滞が多い場所。ファンには、一つ前のメインと最終レース後に分散して、少しでも気持ち良く帰っていただきたいのだが…。

 ■ファンあってこその競馬場

 営業面でも、メインレース後に波乱含みの最終レース(C級サバイバルのような)を実施した方が「馬券販売は伸びる」と言われている。また取材の面でも、重賞が最終レースに行われると記者1人ではお手上げ状態になる。ウイナーズサークルと装鞍所エリアはやや離れていて、優勝ジョッキー以外のコメントを聞くことは難しくなる。

 馬券を買っていただくお客さんあってこそ、競馬場のレースや業務は成立する。特にライブ観戦のファンは、笠松場内の開放的な雰囲気やご当地グルメを堪能したいという人たちだ。現場のホースマンたちに聞いた笠松競馬場の良さは「アットホームなところ」「お客さんと馬やジョッキーの距離が近いところ」といった意見が多かった。家族で足を運びやすいレジャーランドとして、一層のファンサービス向上に努めていただきたいし、「オグリの里」としてもファン目線で提言し、笠松競馬場を良くしていきたい。


※「オグリの里2新風編」も好評発売中

 「1聖地編」に続く「2新風編」ではウマ娘ファンの熱狂ぶり、渡辺竜也騎手のヤングジョッキーズ・ファイナル進出、吹き荒れたライデン旋風など各時代の「新しい風」を追って、笠松競馬の歴史と魅力に迫った。オグリキャップの天皇賞・秋観戦記(1989年)などオグリ関連も満載。

 林秀行(ハヤヒデ)著、A5判カラー、206ページ、1500円。岐阜新聞社発行。笠松競馬場内・丸金食堂、ふらっと笠松(名鉄笠松駅)、ホース・ファクトリー、酒の浪漫亭、小栗孝一商店、愛馬会軽トラ市、岐阜市内・近郊の書店、岐阜新聞社出版室などで発売。

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