準重賞制覇と地方競馬通算100勝を達成し、晴れやかな長江慶悟騎手

 「ケイゴーゴー来た~」 笠松競馬4日間の年末特別シリーズで、ゴール前が最も盛り上がったのはこのシーン。3番人気のシェリングフォード(牡3歳、川嶋弘吉厩舎)に騎乗した長江慶悟騎手が「第1回岐阜新聞・岐阜放送杯」の初代王者に輝き「地方競馬通算100勝」を達成した瞬間だった。

 ラチ沿いにはお母さんをはじめ家族、ファンらの応援団が陣取り、熱い声援が背中を押した。1着でゴールインし「やったー」と大歓声が上がり「鳥肌が立った」「慶悟君すごい、やってくれた」と抱き合ったりして歓喜の輪が広がった。ジョッキー&騎乗馬というアスリートが、最高のパフォーマンスを発揮し、厩舎スタッフと応援するファンたちが「幸せの絶頂感」を共有できる素晴らしいワンシーンとなった。競馬の楽しさを満喫し、応援馬券も当たればテンションはさらに上がる。

岐阜新聞・岐阜放送杯をシェリングフォードで制覇し、通算100勝を達成した長江騎手。ゴール前でファンの歓声が上がった

 ■2番手から差し切り、準重賞で通算100勝

  年末恒例の岐阜新聞・岐阜放送杯は、2006年から1400メートルの古馬AB級競走として行われてきた。21年からは笠松所属馬限定3歳オープンとなり、24年に準重賞(1着賞金200万円)に格上げされ、新たに「第1回」として実施された。

 レースはサウンドノバ(牡3歳、森山英雄厩舎)が逃げて、シェリングフォードが1馬身差でピタリ2番手をキープ。3~4コーナーで先頭を奪うと最後の直線でも脚を伸ばし、内から巻き返してきたサウンドノバにクビ差で勝利。長江騎手の好騎乗が光った。

 準重賞となった岐阜新聞・岐阜放送杯で、自身の通算100勝を決めるとは「持ってるね」と、表彰式のためファンの前に現れた長江騎手に声を掛けた。99勝目から31戦目。この日の5鞍で最もチャンスがあったメインレースで、狙い定めていたかのように年内達成を実現した。これまで重賞勝ちはなく、準重賞Vは初めて。ファンが詰め掛けたウイナーズサークル前での優勝馬との口取り写真撮影も初体験となった。

岐阜新聞・岐阜放送杯の優勝馬シェリングフォードと、長江慶悟騎手の地方競馬通算100勝を祝う喜びの関係者

 ■「祝100勝 長江慶悟騎手」お母さんがプラカード持って祝福

 笠松競馬の来場者が最も多い年末開催。長江騎手は愛知県春日井市出身で、地元応援団の盛り上がりは素晴らしく、お母さんが「祝100勝 長江慶悟騎手」のプラカードを持ち、親戚の人たちと一緒に並んで祝福した。「うれしいです。泣けました」と息子の晴れ姿を間近で目に焼き付けたお母さん。長江騎手にとっても、これまでの苦労も報われ、最高の親孝行となった。

 勝利騎手は開口一番「ハナには行かず、番手を取れればと。無理してハナだと負けていた」と展開的にも作戦通りだった。「馬に助けられました。2連勝中でいい競馬ができていたし、ゲートだけしっかり出していこうと。夏負けは解消して馬に活気が出てきた。最後は止まった感じでしたが、距離は1400ぐらいで前に行った方がいいですね」とにこやかにレースを振り返った。詰め掛けたファンから「100勝おめでとう」の声が飛び交った。

岐阜新聞・岐阜放送杯の表彰式で長江騎手(中央)

 ■大けがの試練乗り越え「YJSファイナリスト」が自信に

 2020年10月に初騎乗して4年余り。デビューして3日目、返し馬の途中に振り落とされ、肝臓損傷を負うなど2度の大けがもあって試練を味わった、先輩からは「腰の周りなどフニャフニャだから、体幹をもっと鍛えないと、また落っこちるぞ」と厳しい声も聞こえてきた。一連の不祥事で8カ月もレースが開催されなかったり、コロナ渦や放馬事故でも開催自粛となって、馬乗りとしての時間を失うことも多かった。

 騎乗馬や勝ち鞍に恵まれなかったが、昨年9月、ヤングジョッキーズシリーズ(YJS)で名古屋初騎乗初Vの快挙を達成し大ブレーク。10番人気ハイグッドエース(井上哲厩舎)で、インを突いて積極騎乗。差し切って勝ったレースが飛躍への転機となった。その後は井上厩舎を中心に名古屋での騎乗が増えて計2勝2着4回。笠松か名古屋で毎週乗ることも増えてきた。YJSでは西日本2位でファイナルラウンドに進出し、中京・芝コースでも騎乗。今後のジョッキー人生での飛躍に向けて大きな経験となった。

色紙に地方通算100勝達成のサインを行い、お母さんに手渡す長江騎手

 ■名古屋重賞にも挑戦、飛躍の年に

 長江騎手は、メジャーに移籍する佐々木朗希投手のそっくりさんとしてテレビ出演を果たすなどタレント的な注目度も高い。笠松では渡辺竜也騎手に続くYJSファイナリストになった成長株。大みそかには通算101勝目も飾って減量騎手を卒業した。

 半年早くデビューした深沢杏花騎手とともに、先輩騎手らの不祥事の荒波をかぶって「競馬場がつぶれるかもしれない」という危機感を抱きながら、ちょっと遠回りしてきたが、長江騎手はまだ25歳。1月4日には重賞・名古屋記念騎乗の声が掛かり、岩手からの転入馬エイシンビジョンで挑戦。結果は完敗だったが、飛躍の年への足掛かりになった。

 笠松の若手は渡辺騎手以降、誰も重賞を勝っていないが、長江騎手はリーディング2位・後藤佑耶厩舎に所属。有力馬に乗るチャンスが増えれば、重賞Vもいつか実現できるだろう。笠松のゴール前スタンドでは、ファンたちが「推し騎手」たちを応援する横断幕の数が増えており、それぞれ大きな励みにもなっている。

ライデンリーダー記念を制した名古屋のページェントと友森翔太郎騎手

 ■ライデンリーダー記念、ページェントV

 一方、年越しの運試しとして笠松ファンに人気の2大重賞は、予想通り名古屋勢に優勝をさらわれた。

 2歳戦(北陸・東海地区交流)ライデンリーダー記念は、後ろから2番手にいた3番人気のページェント(塚田隆男厩舎)が友森翔太郎騎手のアクションに応えて大外から豪快に追い込み、差し切った。笠松のゴーゴーバースデイが明星晴大騎手の積極策で果敢に逃げたが3コーナーまで。2番手にいた木之前葵騎手の1番人気ケイズレーヴが2着に粘り込んだ。笠松のコパノエミリアが3着を確保した。

ページェントのライデンリーダー記念Vを祝う関係者

 笠松ではセイルオンセイラー(くろゆり賞連覇)とのコンビで、逃げての重賞Vも目立っていた友森騎手だが、この日は決め脚を発揮させた痛快な勝利。ファンからは「笠松の鬼やなあ」の声も飛んでいた。ページェントは笠松初参戦だったが「けろっとしていて、いつも通りでした。ゲートが開く前に潜ってしまい出遅れたが、ちょうど息も入って良い形になり、差し切れた。3歳になってからも非常に楽しみです」と飛躍を期待。道営から転入5戦目、ただ1頭強烈な末脚でファンを驚かせ、東海優駿などクラシック戦線へも視界良好となった。

東海ゴールドカップを1着でゴールしたフークピグマリオンと今井貴大騎手

 ■東海ゴールドカップも名古屋勢、フークピグマリオン制覇

 暮れの大一番・東海ゴールドカップは、1900メートル戦から20年ぶりに2500メートル戦となった。オグリキャップ記念が2500から1400に移行したこともあって、JRAの有馬記念と同じ長距離戦が復活した。

 コースを2周余り。43年前には本命馬の騎手が距離を勘違いし、残り1周で手綱を緩めて大波乱となったレース。スローな流れで2周目の勝負どころで今井貴大騎手騎乗のフークピグマリオンが中団から押し上げ、逃げたアンタンスルフレをあっさり差し切って制覇した。

フークピグマリオンの東海ゴールドカップVを祝う関係者

 東海3冠、秋の鞍、ウインター争覇に続き重賞8勝目で、東海公営では無敵の強さ。最後の直線、東海優駿やウインター争覇では外に逸走しかける悪癖も見られたが、年末の熱気に奮起したかのような走りで、よれることもなく完勝。2着にアンタンスルフレ、3着に1番人気のサヴァ。4着まで名古屋勢が独占。笠松勢はイイネイイネイイネの5着が最高という寂しい結果に終わった。

 今井騎手は「3冠馬らしく本当に強かったです。2500メートルはやや長くて、後ろからの競馬でもいいと感じて、道中は折り合って乗りやすかった。多少ふわふわしたが、最後まで一生懸命走ってくれました」とにこやかにファンの声援に応えていた。

笠松競馬に参戦した騎手たちによる年末あいさつ。大原浩司騎手会長が「笠松競馬をよろしくお願いします」とファンに来場を呼び掛けた

 ■騎手あいさつ「笠松競馬をよろしくお願いします」

 大みそかのお昼には、笠松競馬や名古屋競馬、期間限定騎乗の騎手たちによる年末あいさつが行われた。大原浩司騎手会長が「寒い中、お越しいただきありがとうございます。新年も笠松競馬をよろしくお願いします」とファンに呼び掛けた。

 笠松競馬場ならではの行事として人気を集めていた「餅まき」は行われず、ファンからは「予算がないのかな」と残念がる声も聞かれた。かつてはスタンドなどへ豪快に投げ入れていたが、コロナ禍もあって自粛。一昨年末に復活し、混乱がないように騎手がラチ沿いで1袋ずつ来場者に手渡していた。笠松競馬場の年の瀬を彩る風物詩でもあり、ファンの楽しみだっただけに復活を期待したい。           

新刊「オグリの里3熱狂編」の出版記念会には、笠松ファンが多く訪れた

 ■新刊「オグリの里3熱狂編」出版、オグリキャップ断トツ人気

 場内のオグリキャップ像近くでは新刊「オグリの里3熱狂編」の出版記念会を開いた。「日本最高のスターホースは○○だ」の人気投票も実施。笠松競馬ファンや競馬関係者ら多くの人と交流できた。愛知、富山県や岐阜・東濃方面のほか、アメリカ人らの姿もあり、競馬トークで盛り上がった。

 スターホースの人気投票では、やはりオグリキャップが断トツ(25票)。笠松時代のレースを何度も見たという熱いファンもいた。「キャップは強くて人気もあった」とデビュー1年目から注目していたそうで驚かされた。

 「オグリの里」としても、笠松時代のオグリキャップ出走レースの専門紙を見つけ、競馬場でも生観戦していたのだが、数多くいる有力馬の一頭という認識でしかなかった。当時の活躍ぶりを意識したのはJRA入りしてからで「芦毛の怪物」は芝レースで真価を発揮した。2位にハヤヤッコ、3位はオルフェーヴルで、タイトルホルダー、トミシノポルンガ、レジェンドハンター、ハルウララ、ドウデュースが続いた。

スターホースの人気投票はオグリキャップが大差でトップとなった

 ■ミツアキサイレンス、笠松最高の3億円以上稼いだ

 「やっぱりミツアキサイレンスだなあ」と懐かしい馬名を書く人がいた。「川原正一騎手で佐賀記念を連覇し、宝塚記念にも出ましたね(11着)」と名馬をたたえると、何とこの人は、笠松競馬でミツアキサイレンス(1999年デビュー)の調教師を務めていた粟津豊彦さんだった。「よく知っているね。笠松所属馬では一番賞金を稼いだ馬だったよ」と自ら育てた愛馬の活躍が誇らしそうだった。

 帰って調べてみたら、ミツアキサイレンスは名古屋グランプリや兵庫チャンピオンシップも勝ってダートグレードを4勝。ナリタトップロードが勝った阪神大賞典では、2着ジャングルポケットからクビ、ハナ差の4着で、天皇賞・春への挑戦権は獲得できなかったが大善戦。地方・中央の獲得賞金は3億3053万円。後方に東京盃を勝ったパネルがあるラブミーチャンでさえ2億5840万円で、ミツアキサイレンスが上回っていた。稼いだ賞金面では笠松最高の活躍馬だった。

 帰り際、粟津さんには握手もしていただき、ここにも笠松のレジェンドがいたと感激したのだった。「ミツアキタービンなら知っている」というファンもいたが、ともに山本光明さんが馬主で、「ミスター佐賀記念」ミツアキサイレンスは、中央のGⅠ馬たちとも競り合った優秀な馬だった。

 笠松現役では明星晴大騎手のご両親も応援のため、来場されていた(父は愛媛の競輪選手)。1Rでいきなり勝利を挙げ、2Rでも2着と好成績。オグリの里コーナーにも寄ってくださり「熱狂編」を購入していただいた。デビュー1年目は笠松で42勝を挙げており、2年目を迎え、ハナを切ったライデンリーダー記念のような積極策で成長した姿を見せていきたい。

年末開催、競馬場グルメも堪能しようと大勢のファンでにぎわった飲食店

 ■にぎわった年末開催、馬券もよく売れた

 にぎわった笠松競馬の年末開催。家族連れの姿も多く、場内の飲食店前には長い行列ができて繁盛。ゼッケンのプレゼントやトークショーもあり、盛り上がった。大みそかには来場者4000人超えとなるなど4日間で計1万1729人。馬券販売も好調で、初日が9億円近くで、計26億9000万円と前年の数字を2億円以上も上回った。

 馬券販売額の約9割を占めるネット派。こたつでミカンとスマホを手に、ライブ映像を楽しみながら投票するファンは確実に増加。全国で画面越しから人馬に声援を送ったことだろう。

 笠松競馬場内では「初めて来ました」というファンも多かった。ご当地グルメを堪能する家族連れやウマ娘ファンの若い来場者の姿も目立ち、ライブ観戦で慣れない「紙馬券」を握りしめて一喜一憂していた。

 
 ※「オグリの里3熱狂編」

 「1聖地編」「2新風編」に続く第3弾で、人馬の激闘と場内の熱狂ぶりに迫った。巻頭で「ウマ娘シンデレラグレイ賞のドキドキ感」、続いて「観客大荒れ、八百長騒ぎとなった昭和の事件」を特集。ページ数、カラー写真を大幅に増やした。

 林秀行(ハヤヒデ)著、A5判カラー、238ページ、1500円。岐阜新聞社発行。笠松競馬場内・丸金食堂で発売中。ふらっと笠松(名鉄笠松駅)、ホース・ファクトリー、小栗孝一商店、酒の浪漫亭、愛馬会軽トラ市、岐阜市内・近郊の書店などでも順次販売される。問い合わせは岐阜新聞情報センター出版室、電話058(264)1620=月~金(祝日除く)9~17時。