「貫太ー」「かわいい」。ここは笠松競馬場内の特設ステージ。拍手と声援で迎えられたのは、笠松競馬の厩舎がある岐阜県岐南町出身の「ご当地ジョッキー」ともいえる田口貫太騎手(栗東、大橋勇樹厩舎)。ニット帽姿でおしゃれ感もグレードアップして登場した。
JRAデビュー2年目。21歳になったばかりだが、1年前の柴山雄一騎手との共演に続いて、2年連続で大みそかトークショーに出演。笠松競馬場は小さい頃から慣れ親しんできた庭のような存在で、オグリキャップのように中央で出世街道を進撃。年の瀬を彩る東海ゴールドカップやNHK紅白歌合戦前のひととき。馬券が当たらず、懐も冷え切っていたファンのハートも熱くするような「爆笑トーク」で盛り上げてくれた。
この日のトークショーは本業の馬乗りではなく、お笑い系での登場でもあり「貫太君」と呼ばせてもらう。ステージ前の客席後ろには「昭和レトロ感」満タンの飲食店も並び、ノスタルジックな「昭和顔」と愛らしいスマイルで人気の貫太君とぴったしマッチしていた。
小雨がぱらついてきて、注目のステージは果たして貫太君のワンマンライブになるのか、それとも…。ファンが熱い視線を送る中、レーシングアナウンサーの長谷川満さんがインタビュー形式で進行役を務め、スタートから道中もスムーズな流れ。名調子と突っ込みありで、来場者は和やかなひとときを過ごした。
■母のバースデーに初重賞V、最高の親孝行に
「大観衆」に迎えられて「ありがたいですね。こんなにお客さんがいるとは想像していなかったので『ワアーッ』となりました」と思わず拝みたくなるような貫太君の笑顔があふれた。
2年目には、関東オークスをアンデスビエントで重賞初制覇(7馬身差圧勝)。「ジョッキーとしていろいろな経験ができた。重賞1番人気は初めてでしたし、まあまあ緊張しました。いつも逃げて粘るあの馬の競馬ができ、リズム良く行って3~4コーナーで突き放して大丈夫だろうなあと。勝てて良かった。まさかあんなにぶっちぎってくれるとは。馬に感謝しています」
「優勝のコメントは考えていなかったが『きょうは6月12日でお母さんの誕生日か』とホワッと出てきたんで、言ったら格好いいかなと思って。お母さんも喜んでくれたんでそれが一番良かったです」と、バースデープレゼントとなる親孝行ができ、最高のレースになった。
■「岐阜県の宝」2年目JRAで40勝、笠松で7勝
JRA競馬学校を岐阜県出身者として初めて卒業し、騎手デビューを果たした。2年前には、JRA初勝利の喜びを古田肇知事に報告した。古田知事は「田口騎手は岐阜県の宝」と期待を込めた。1年目に35勝を挙げてJRA最多勝利新人騎手賞に輝いた。2年目はJRAで40勝、得意の笠松では7勝を飾った。
この日のメインは東海ゴールドカップ。2019年には父・田口輝彦調教師の管理馬ニューホープが制覇。当時、JRA競馬学校入学前だった貫太君は、優勝馬の口取りにも参加して笑顔を見せていた。
■フランスでは「ボンジュールだけうまくなった」
パリ五輪で沸騰した昨夏には、フランスへの武者修行にもチャレンジした。JRAでの騎乗が減るリスクもあったが「2年目に入ったぐらいから、ずっと海外へ行きたいなと。いま成功するよりも競馬のレベルが高い所で成功したいんで。現状に満足せず、行かせてもらいました」。フランスには「(日本にも来た)クリスチャン・デムーロ騎手とかもいたので、勉強できたらいいなと」。
フランスでの生活には「順応できましたね。言葉には苦労しましたが、あいさつはどこの国でも大事なんで。『ボンジュール』だけ異常にうまくなりました」とフランス語で「これ一辺倒でした」という自己紹介を披露。帰国後には坂井瑠星騎手とフランス語でしゃべって意気投合したとか。自分の思い通りにいかない時に使う「くそっ」という意味の言葉を2人で連発していたようだ。
■大谷選手をまねて「塩パスタを食べてました」
食べ物は「思った以上においしかった。でもサラダがあんまりない文化なんで、パンとかパスタばっかりでした。(料理では)大谷翔平選手がやっているのを見て憧れて、自分でゆでて『塩パスタ』を食べてましたが、毎日で偏りましたね。朝は厩舎でパンをもらって昼と兼用。夜はお肉を買ってきてフライパンで焼いてパスタを入れて。その繰り返しでした。あと、ゆで卵が間食にちょうどいいです」。
「2カ月近くそんな食生活で。フランスの人もご飯に誘ってくれるので一緒に付いていきました。通訳はいなかったですが、(フランスで厩舎を開業している調教師の)小林智先生がいてくれたので、何とかなりました。みんな何をしゃべっているのか分からなかったが、雰囲気だけ楽しんでいました」
■笠松やフランス、遠征先で強さを発揮
2年前、デビュー後の初勝利を笠松でゲット。昨年のヤングジョッキーズシリーズ笠松ラウンドでも2勝を飾るなど、遠征先で強さを発揮。フランスでの2カ月間の武者修業でも、最後に2勝を挙げてよりたくましくなった。
フランスの競馬の違いは「ペースがスローで、最後に『ヨーイ、ドン』の競馬が多いです。馬場はでこぼこで、平野にラチを造っただけの感じで、馬もバランスを取りづらいです。日本のように、最初からゲートを出て、がしがし追うことはないです。フランスの馬はそういうふうに調教されているので、馬が教えてくれます」。
海外初勝利をフランスで飾ったことを、長谷川アナが改めてたたえると、ステージ前では祝福する大きな拍手が湧き起こった。すると貫太君は「ぬくぬくと育ててもらっています」とうれしい思いもポロリ。地元ファンの皆さんにも支えられていることを実感していた。
勝ったレースは「小林先生が勝てる馬を用意してくださって、ホッとした気持ちが大きかったです。有力馬2頭に最後乗せていただき、二つとも結果を出せて小林先生には感謝しかなかったです」。さらに「もう1回来ていいよと声を掛けてもらって、またフランスへ行きたいです」と新年に向けて意欲。JRA合格時からの夢として「凱旋門賞挑戦、制覇」も大きな目標としており、海外経験を生かして将来的にはワールドワイドな活躍が期待されている貫太君である。
■1年の漢字は「成」で、いろいろと成長できた
第1ステージの終わりにはサイン入り色紙をファンにプレゼント。貫太君にとって、この1年の漢字は「成」だったという。「海外にも行かせてもらって人間としての考え方も増えて成長できましたし、ジョッキーとしても2年目で成長でき、これからもっと成功していきたいです」と自筆の「成」1字をファンに披露した。
サイン色紙を手に、3方向のファンに「貫太スマイル」で応えてミニ撮影会にも突入。色紙の争奪戦は来場者によるじゃんけん大会で熱く盛り上がった。貫太君は「グー」ばかり4回連続で出して、「またか」とファンも苦笑い。5回目にようやく「パー」を出すと、勝ったのはただ1人で、何と9歳の男の子だった。競馬はまだ分からないが、サイン入り「成」をゲットして大喜びだった。
第2ステージでは、アンカツさんや柴山雄一さんも注目していた貫太君の髪形問題で本音が語られた。かぶっていたニット帽はお約束通り?脱いでくれ、歓声が上がった。(次回に続く)
☆ファンの声を募集
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(筆者・ハヤヒデ)電子メール ogurinosato38hayahide@gmail.com までお願いします。
☆「オグリの里3熱狂編」も好評発売中
「1聖地編」「2新風編」に続く第3弾「熱狂編」では、人馬の激闘と場内の熱狂ぶりに迫った。巻頭で「ウマ娘シンデレラグレイ賞のドキドキ感」、続いて「観客大荒れ、八百長騒ぎとなった昭和の事件」を特集。ページ数、カラー写真を大幅に増やした。
林秀行(ハヤヒデ)著、A5判カラー、238ページ、1500円。岐阜新聞社発行。笠松競馬場内・丸金食堂、ふらっと笠松(名鉄笠松駅)、ホース・ファクトリー、小栗孝一商店、酒の浪漫亭、愛馬会軽トラ市、岐阜市内・近郊の書店、岐阜新聞情報センター出版室などで発売。