「鍛冶サポ・オンライン会議」の様子。終了後のアンケートでは「有意義だった」「今後も期待したい」という声が多く寄せられた

 7月17日、画面を通じて日本中の打刃物産地がつながった。技の環と一般財団法人・伝統的工芸品産業振興協会(東京)が共同で企画して初開催した、「鍛冶サポ・オンライン会議」である。経済産業大臣が指定した、千葉県、新潟県、福井県、大阪府、兵庫県、高知県の七つの打刃物産地(新潟県は2産地)の組合職員、13人の鍛冶職人、経産省・県・市の職員らが参加した。2時間に及んだ会議では、機械・設備のメンテナンスが難しくなっていること、鋼材の供給に不安があること、小刀の鞘(さや)、ノミの柄、鉋(かんな)の台などを作る職人が減っていること、鍛冶職人の後継者育成が進まないことなど、さまざまな課題が話し合われた。若手鍛冶職人が経産省の担当者に直接質問し、回答を受ける場面もあった。

 私は会議の司会進行を務めながら、「ようやくここまでたどり着いた」という思いを抱いていた。私たちが鍛冶職人の調査を始めたのは2019年にさかのぼる。きっかけは、岐阜県内の職人から「最近、道具の入手が難しくなってきた」という声が挙がったことだ。全国の打刃物産地を訪ねて鍛冶職人から話を聞くと、どこも前述のような課題が山積していたものの、産地はやせ細って単独での解決は難しく、産地同士をつなぐ全国組織も存在しなかった(以前はあったが活動を休止していた)。

 ちょうどその頃、日本の「伝統建築工匠の技」がユネスコ無形文化遺産に登録されたというニュースが流れた。建造物修理、茅葺(かやぶ)き、左官、建具や畳の製作、漆の生産など、17の技術が一括登録されたのだ。しかしその中に、道具を作る鍛冶技術が含まれていない。登録された技術のほぼすべては鍛冶職人の作る道具がなければ成り立たないのに、である。全国組織がないことが大きな理由の一つであったことは間違いない。それが、私たちがハブになり鍛冶サポを立ち上げるという決意につながった(鍛冶職人をサポートするから鍛冶サポだ)。

 オンライン会議には道具の使い手の代表として、公益財団法人美術院(京都)の国宝修理所長と研究部長も参加して、国宝や文化財を守るために道具がいかに重要か、鍛冶職人たちに直接語りかけてくれた。道具を作る打刃物産業の振興は経産省、道具を必要とする文化財の保護は文化庁が担っているため、縦割りで情報共有や対策が行われづらい。こうして道具の作り手と使い手、経産省と文化庁をつなぐのも、鍛冶サポの役目だ。

 オンライン会議は年2回のペースで継続し、課題解決を目指す。情報共有のためのメーリングリストを立ち上げたり、全国の関係者にニュースレターを届けたりすることも計画中だ。大きな志で、息長く続けていきたい。

(久津輪雅 技の環代表理事、森林文化アカデミー教授)

 【鍛冶サポの取り組みがラジオ番組に】 21日午後10時からNHKラジオ第1の「NHKジャーナル」で、鍛冶サポの取り組みを含むレポート「道具をつなぐ 国宝をつなぐ」が放送される予定。