6月24日、関伝日本刀鍛錬技術保存会と私たち技の環が連名で、関市の山下清司市長へ関伝日本刀の持続的な継承のための要望書を提出した。22ページの詳細な調査報告書も添付した。要望の内容は①研鑽(けんさん)奨励に関する支援②原材料生産等に関する支援③後継者育成に向けた支援④全職種を対象とした関伝日本刀文化の普及啓発⑤関伝日本刀文化の発信地の強化(関鍛冶伝承館の設備)⑥部署の枠組みを超えた対応及(およ)び施策の実施―である。
関の日本刀といえば、岐阜県の伝統文化を代表する看板メニューの一つだ。日本刀は刀身のほか、研ぎ、鞘(さや)、鎺(はばき)と呼ばれる金属部品など、さまざまな分業により成り立っており、関市はほぼすべての職人が市内にそろう、全国的にもまれな産地なのだ。しかしこの20年で市内の職人の数は半減し、近い将来にはさらに半減する恐れがある。刀づくりに使う松炭の価格高騰が深刻なのは前回(6月21日)の記事で伝えた通りだ。また、毎月の古式日本刀鍛錬で多くの観光客を集める関鍛冶伝承館は、実は消火設備などが脆弱(ぜいじゃく)なため、文化財級の日本刀を展示することができない。日本刀は水をかけると錆(さ)びるため、ガス系の消火設備が必要なのだ。他県の博物館がそのような設備を備え、日本刀専門の常勤学芸員を配置しているのと比べると、関の施設は見劣りがする。
これらの課題は、現場の職人たちから指摘されたものだ。技の環のスタッフが10カ月かけて22人の職人に聞き取りを行い、課題を一つ一つ報告書にまとめた。職人たちと市職員は保存会の会合でたびたび顔を合わせる機会があるが、こうした課題を個別に伝えてもなかなか改善に結びつかなかったため、職人たちは当初諦め気味だった。そこで、保存会と技の環で一緒に要望書を作成して市長に手渡しませんかと提案し、それからさらに1年近くかけて案を練り、やっと提出にこぎつけたのだ。
市長からは、職人のみなさんに生業(なりわい)として続けてもらう体制づくりを応援することが大切であり、市民や観光客に技術を見てもらい、観光収入になり、職人のやりがいにもつながる場づくりをしたい、伝承館のリニューアルも検討しているとの話があった。
要望書の提出はゴールではなくスタートだ。むしろこれから現場の職人や市職員の方たちとともに課題解決に向けた取り組みが始まる。私たち技の環は、調査や提案で終わらせず、課題解決まで伴走する団体でありたいと考えている。
(久津輪雅 技の環代表理事、森林文化アカデミー教授)
【関伝日本刀の課題に関する調査報告書】 関市に提出した調査報告書は、技の環のウェブサイトからダウンロード・閲覧することができる。アドレスはhttps://ginowa.org/archive