思い切りのいい騎乗で連勝を飾った長江慶悟騎手。「佐々木朗希投手に似ている」とよく言われるそうだ

 ヤングパワー爆発の兆し。新年度の笠松競馬・新緑シリーズは若手騎手の好ダッシュが目立った。「佐々木朗希投手に似ている」とよく言われるという長江慶悟騎手(22)は、後方からパーフェクトな騎乗を見せ、初めての2レース連続の勝利。人気薄の馬で1着ゴールに突っ込み、ファンを驚かせた。

 渡辺竜也騎手はまだ22歳でバリバリの若手だが、今年は既に40勝を挙げてリーディングトップを快走する「笠松の顔」であり、別格扱い。ここでは通算100勝以下の「減量騎手」にスポットを当てた。

 若手騎手(1~3キロ減)や女性騎手(一律2キロ減)に与えられる負担重量軽減の恩恵。笠松では3人が対象で、東川慎騎手(21)が通算75勝で1キロ減。深沢杏花騎手(20)が通算36勝で4キロ減。長江慶悟騎手は通算8勝で3キロ減。笠松での期間限定騎乗を延長した(6月3日まで)田中洸多騎手(19)=大井=は通算11勝で3キロ減だ。

■不祥事で悔しい思い、「笠松反撃」に燃えろ

 昨年は不祥事による開催自粛が8カ月間あったし、東川騎手と長江騎手はけがによる戦線離脱もあって、実際の騎乗期間は少ない。笠松の3人はヤングジョッキーズシリーズにも出場できず、悔しい思いをした。

 プロ野球の世界では2年連続最下位だったヤクルトとオリックスがリーグ制覇。昨年、セ・リーグ最下位のDeNAは今年「横浜反撃」をスローガンに掲げている。どん底を味わって立ち上がった笠松競馬の騎手らは、どんな思いだろうか。新年度を迎え心機一転、みんな一丸となって「笠松反撃」に燃えてもらいたいものだ。

 若手3人の騎乗技術はまだまだで、有力馬に乗ることは少ないが、徐々に厩舎や馬主さんの信頼を得て騎乗数が増え、勝利につながっている。

■長江騎手2連勝、渡辺・岡部騎手を抑えて7馬身差V

 15日の3、4Rで連勝を飾ったのは長江騎手。この日は計8レースに騎乗。2着も2回、3着は1回とデビュー以来最大規模の爆発。5番人気、6番人気での価値ある勝利で応援するファンを喜ばせた。

深沢杏花騎手との追い比べを制して連勝を飾った長江騎手(笠松競馬提供)

 特に3Rが圧巻だった。7頭立て1400メートルで、ガンネル(牡3歳)に騎乗。後方6番手から追走。3~4コーナーで一気に先行勢との差を詰めると、直線入り口ではスルスルと渡辺騎手をかわして先頭に立ち、終わってみれば7馬身差の圧勝劇。2着に渡辺騎手、3着に岡部誠騎手と笠松、名古屋のリーディングを抑えてゴールイン。
 
 長江騎手にとってベストパフォーマンスといえる会心の勝利となった。「初めての騎乗でしたが、あんなに走るとは思わなかったので、さすがにびっくりしました。減量が効いてたんでしょうが、7馬身差でぶっちぎってるから、それがなくても勝てた。馬との相性がマッチしたのかも」とVの手応えを実感。


 次の4Rでは3コーナーで先頭を奪った。4コーナーではいったん田中騎手にまくられたが、差し返す強い競馬。ゴール前では外から深沢騎手に詰め寄られて激しいたたき合いの末、ハナ差しのいで2連勝を飾った。1、2番人気の藤原幹生騎手、渡辺騎手を引き離し、若手同士の闘志のぶつかり合いは見応えがあった。

 この日、ブレークしたのは何かきっかけがあったのか聞いてみると。長江騎手は「自分で分かっててもできなかったことに、今回チャレンジしてみた。『思い切りよく乗ったこと』ですよね」。それはこのところの馬場傾向にあった。「前へ行くと止まっちゃうんで、みんな後ろから外を回ってくるんですよ。それで、外に出して必死に追って、あれで負けたらしょうがないと乗ってました」と勝因を語った。脚をためて、3~4コーナーで大外をブン回す「思い切り」の大切さを学んだようだ。

 それでも「2勝どころじゃない。うまく乗れば『4勝できていたのに』とみんなに言われました」と長江騎手。7Rは4コーナー先頭で「3勝目か」と思われたが、ゴール寸前で息切れし、加藤聡一騎手に外から差されて惜敗した。

 土日を挟んで18日には、1番人気馬2頭に騎乗したが、ともに2着。「本命馬を二つ飛ばしました。3Rは仕掛けが遅すぎて、8Rは早仕掛けで逃げ切れず。『楽勝かなあ』と思ったら、(またもゴール寸前で)差されました」と。悔しい競馬になったが、ペース配分の大切さを学んだ。「次も乗せてもらえたら、腕を磨いて頑張ります。人気のない馬の方が気楽に乗れていいですが」とのことだが、厩舎に信頼され、有力馬に騎乗することが勝利を呼び込むことになる。

コロナ禍を乗り越えて元気いっぱい。パドック前で整列した若手騎手ら 

■「佐々木朗希投手に似ている」とみんなに言われる

 長江騎手のデビュー当時、「プロ野球・ロッテの佐々木朗希投手によく似てる」と言われると聞いた。10日の完全試合に続いて、17日にも8回をパーフェクト。「きのうも佐々木投手がすごいピッチングをしたけど、最近も似ていると言われるのか」と思い切って聞いてみると、「言われるどころの騒ぎじゃないですよ。誰に会っても言われますからね」とのこと。「若き天才投手」の出現で、長江騎手への注目度もアップしているようだ。

 「その効果で君も、その波に乗っていけたら」と振ってみると、「それがあったら一番いいですけどね。僕も苦労しないでしょうが…」。ロッテファンの女性に長江騎手の最新画像を見せると「前よりも佐々木投手に似てきましたね」とうれしい反応があった。

 自筆のサインとかは、求められるのかどうか。「全くないですけど、自分のサインはありますよ。協賛レース(15日の「プロボウラー岩見彩乃★生誕記念」)を勝って、ゼッケンにサインをしました。あのときぐらいです」。今はコロナ禍のため、ファンへのサインとかはできないが、いつか重賞レースを勝ったり、ネット上でのファンサービスの企画でサインのプレゼントができるといい。

 「(東川)慎先輩も新しいサインを考えたようで、カッコイイ感じでしたよ」とも。慎騎手のサインは、単純に「しん」とだけ書かれた超シンプルで珍しいものだったが、新作の披露も楽しみになる。

■2度の落馬負傷を乗り越えて好騎乗、3着以内は36%も

 長江騎手は一昨年秋、デビュー後3日目に返し馬で落馬負傷。昨年9月の自粛明けにもレース中の落馬で負傷し、ともに2~3カ月の療養生活を経てレース復帰。1年目は17レース、自粛期間が長かった2年目は22レースしか乗っておらず、今年は勝負の年。これまで61レースに騎乗して、6勝、2着8回、3着8回。連対率23%、3着以内は36%となかなかの好騎乗。「そんなに来てるんですか、自分でもびっくりです」と意外そうだった。
 
 まだまだ騎乗数は少ないが、リーディング2位の後藤佑耶厩舎に所属しており、視界は良好だ。特に4月は18戦して2勝、2着4回、3着3回と好調で、よく馬券に絡んだ。みんなコロナ禍から復帰して雰囲気も良くなり「もう、いつも通りですよ」と若手もベテランも元気はつらつ、レースに集中している。

 期間限定の田中騎手については「ポンポンと勝っていてすごいですね。僕も頑張ろうという気になりますね。乗っている数も似たようなものなんで。お互いに刺激し合ってね。次の開催は、もっと頑張ります」とファイト満々だ。

 長江騎手のジョッキー人生は始まったばかり。まずは、けがなく1年間無事に乗り切ってもらいたい。

笠松重賞の新緑賞でパステルモグモグに騎乗した深沢騎手。勝負服は馬主服で、長江騎手の勝負服とよく似ている

■深沢騎手、今年12勝で好調をキープ

 笠松競馬では20年ぶりの女性ジョッキーとして、注目されてきた深沢騎手。今年に入って、安定した騎乗ぶりで、勝利を積み重ねて計12勝。

 若手では騎乗数が多い深沢騎手。新緑シリーズでは34レースに騎乗し2勝、2着5回、3着6回。「結構調子いいですよね」と声を掛けると、「そんなことないですよ。2着ばっかりで。3着も多いですよ」と。長江騎手にハナ差負けしたように「あと一歩」のレースも多く悔しいようだ。

 それでも騎乗ぶりは、軽量を生かした逃げばかりでなく、差す競馬でも着実に成長。「女性騎手として全国で一番になること」も目標の一つであり、経験を積めばもっと勝てる騎手になると思う。

 笠松競馬のアイドル的存在でもあり、爽やかさで競馬場のイメージアップにも貢献。ネットでの映像配信「笠松競馬の20歳女性騎手、レースにかける思い」でもブレークし、SNSでトレンド入り。テレビ番組でも特集されたりと、メディアで取り上げられることも増えて、騎手仲間からは「大女優ですよ」と持ち上げる声も…。

 新名古屋競馬場のオープン日には、名古屋の厩舎からの騎乗依頼で、笠松の騎手では第1号の騎乗。13日の船橋・マリーンカップ(交流GⅢ)では愛馬ナラとのコンビで挑戦。笠松から伊藤勝好厩舎が3頭出しだったが、ナラは11着で他の2頭には先着した。

 船橋はナイターだったが、翌日は笠松の開催日。いつものように笠松競馬場に戻ると、船橋組の先輩騎手とともに徹夜で攻め馬にも励むハードスケジュール。お昼の2Rからは本番レースに突入。この日は計7レースに騎乗したが、後半の3レースで3着→2着→1着と元気いっぱい、準メインの陽春特別を勝つ好騎乗を見せた。7日の笠松重賞・新緑賞では、自厩舎のパステルモグモグに騎乗し、最後方から追い上げて6着。今年は重賞戦線での騎乗も増えており、「初重賞V」のゴールインを楽しみに待ちたい。 

新緑賞でボルドーアドゥールに騎乗した東川慎騎手。外枠からの競馬を得意にしている

■東川騎手、大けがの妹尾騎手とまた一緒に騎乗を

 東川慎騎手は笠松所属では唯一の岐阜県出身(羽島郡)。けがを乗り越えて伸び盛りで、新緑シリーズ最終日、「きょうも勝って調子いいね」と声を掛けると「たまたまですよ。外枠だったのが良かったです」。

 3年前、デビュー日のメイン「薄墨桜特別」でバレンティーノに騎乗し、鮮やかな差し切りVを決めたのが印象的だった。レース中の落馬事故で大けがを負って長期離脱。1年目は6勝だったが、2年目には35勝を挙げて急成長。ヤングジョッキーズシリーズでは2着、3着と健闘した。惜しくもファイナルには進めなかったが、「次はファイナルに進出して、JRAのコースで乗りたい」と意欲を示していた。

 今年はコロナの影響で、全日本新人王争覇戦(高知)にも参戦できず。笠松で期間限定騎乗した妹尾将充騎手とは同期でもあり、いつも笑顔で盛り上がっていた。開催取りやめもあって、予定より早く高知に戻った妹尾騎手は落馬負傷で療養生活。東川騎手によると「ラインとかしていて、元気そうですよ」とのこと。お互い大けがを経験。妹尾騎手は持ち前の明るさで、復帰を目指してリハビリに励んでいる。笠松の厩舎関係者らも復活を願っており、東川騎手とはまた同じレースで騎乗できる日がきっと来ることだろう。

新緑シリーズで5勝を挙げる活躍を見せた田中洸多騎手。期間限定騎乗はあと2開催

■期間限定の田中騎手もブレーク、1開催5勝

 期間限定騎乗を延長した田中洸多騎手は、笠松で8勝を挙げた。4月に入って4日連続の勝利で計5勝。「1開催2勝」の目標を大きく上回って、目下絶好調だ。パドック前のオールドファンも「ちょこちょこ来るようになった」と馬券の対象として注目。中団から差し切る競馬で好騎乗を見せている。

 6年連続リーディングの名門・笹野博司厩舎に所属し「(勝てるようになったのは)先輩の指導のおかげです」と感謝。渡辺騎手は「今回5勝していて、乗れてるんじゃないですか。来た時より良くなっている」とうれしそう。深沢騎手や名古屋の細川智史とは同期で、笠松での騎乗はあと2開催。1勝でも多く積み重ねて、大井に戻っても、笠松で磨いた騎乗技術を南関東でのレースで生かしてほしい。

■オグリキャップ記念2年ぶり、28日に開催


 昨年はレース自粛で開催中止に追い込まれたオグリキャップ記念(SPⅠ)。2年ぶりとなる笠松最大のレースは1着賞金1200万円。フルゲートの2500メートル戦で争われ、全国から長距離ランナーが集結する。
 
  他地区から5頭。兵庫のスマイルサルファーは昨秋の西日本ダービー(名古屋)を制覇した。トーセンブル(船橋)には岡部誠騎手、ホーリーブレイズ(大井)には青柳正義騎手が騎乗する。

笠松競馬の次回開催は27日からのオグリキャップ記念シリーズ。無料駐車場内では、数字のパーツを組み合わせて、日付を貼り替えていた(ファミリーマート東側)

 迎え撃つ笠松勢は6頭で、地の利を生かしたい。地元で17戦8勝、オール3着以内のウインハピネス、ウインター争覇Vのスタンサンセイ、岐阜新聞・岐阜放送杯など8連勝中のラブアンバジョらの一発に期待。芦毛のライジングドラゴンに渡辺竜也騎手が騎乗。ペルソナデザインは前走勝ちの深沢杏花騎手で挑戦する。名古屋からはウインユニファイドが参戦する。

 アンカツさんが来場し、WEB予想会ライブ配信やパドック解説にも登場する。

■皐月賞は「ジ『オグリ』フ」が制覇。

 ところで今年のJRAクラシック戦線。昨年末にインタビューした国枝栄調教師が管理する2歳女王サークルオブライフは桜花賞で4着に敗れたが、ラストの伸びは最速だった。次走はオークスの予定だろうが、昨年のサトノレイナスのように日本ダービーに向かっても面白いのでは。「牝馬の国枝調教師」だけに、悲願のダービー制覇も牝馬で達成するのではと、ひそかに期待している。今年の牡馬クラシック戦線は突出した馬はいないようだし、2キロ減の牝馬が強い時代。思い切って挑戦してみる価値はあると思う。

 皐月賞はジオグリフが勝った。札幌2歳Sを制した後からその馬名に注目。5文字のうち「オグリ」の3文字が目に焼き付いて、朝日杯フューチュリティ(5着)から応援していた。皐月賞では福永祐一騎手騎乗で豪快に差し切ってくれて、単勝と3連複をゲットできた。高知競馬で負け組の星となったハルウララは、愛らしい馬名でブームを呼んだスターホースで、その後の競馬場再興へとつながった。笠松には2文字のナラから、9文字のイイネイイネイイネまで楽しい馬名も多い。ユニークな名に反応して馬券を買う人も結構いるのでは…。 

■ウマ娘とのコラボで「シンデレラグレイ賞」芦毛馬・白毛馬限定レース

 オグリキャップ記念翌日の29日には、最終11Rの芦毛馬・白毛馬限定レースを「ウマ娘シンデレラグレイ賞」として実施する。笠松競馬場を舞台に、オグリキャップのサクセスストーリーを再現した大ヒット漫画「シンデレラグレイ」にちなんだコラボ企画(集英社、Cygames協力の連携事業)。発走は17時25分。オグリキャップが育った笠松への「聖地巡礼」でも注目され、SNSで「笠松競馬場」がトレンドワード入り。全国からウマ娘ファンらが来場するとみられ、混雑が予想される。

ウマ娘と笠松競馬場のコラボ企画では、等身大パネルも設置される

 オグリキャップの孫娘レディアイコは引退が決まり(後藤佑耶厩舎で療養中)、参戦できないが、シルバーサークルなど11頭が参戦を予定。来場すれば、場名「笠松競馬場」、レース名「ウマ娘シンデレラグレイ賞」が入った馬券を購入することができる。笠松競馬永続の守り神でパワースポットでもあるオグリキャップ像の前には「ウマ娘 プリティーダービー等身大パネル」(オグリとタマモクロス)を設置=28、29日、5月2日。コラボ企画の「オリジナルクリアうちわ」を先着1500人にプレゼントする。ゴールデンウイーク入りでウマ娘の声優さんは、別のライブイベントに出演するとかで笠松への来場はないようだが、「仮装ウマ娘さん」の飛び入り参加は大歓迎だ。

 騎手らの所得隠しが発覚した昨年1月19日には、予定されていた「ウマ娘シンデレラグレイ1巻発売」を記念した協賛レースがお流れになった。また今年1月には笠松競馬場内での「仮装deレース&撮影会」のウマ娘向けイベントが開催予定だったが、コロナ禍で延期になったままだ。今回のコラボ企画は、関係者にとって「悲願」ともいえる待望のイベント。施設は老朽化が激しいが「こんな所にこんな物が」という昭和レトロ感は半端ない。のどかな景観と「肝試し」も味わえる未体験ゾーンへ足を踏み入れてみてはどうか。

 笠松競馬場は初めてという来場者も多いとみられるが、入場門は1カ所のみ。オグリキャップ像がある正門から「笠松デビュー」を果たしてもらいたい。