3月下旬、岐阜新聞からの依頼で「ジェンダーレス・ファッション・コレクション」に出演した。

 「できればメンズでスキンケアとか実践している人がいるといいんですけれど」と主催側からのリクエストに、「あ、私、知ってますよ」とある人にご連絡。そんなわけで本巣市のモレラ岐阜まで召喚されたのが、歌人で早稲田大大学院生でもある御手洗靖大さんだ。

 御手洗さんはスキンケアが大好きなジェンダーレス男子で、王朝和歌文学を研究する大学院生であり、ちょっと前までフェイスブックのアカウント写真が平安装束と烏帽子(えぼし)姿! 自前の狩衣(かりぎぬ)姿(楽天の神主さん御用達サイトで購入できるらしい)で、インスタグラムで和歌についての配信をしたほどのフットワークの軽い研究系烏帽子系男子なのだ。

(撮影・三品鐘)

 2日間にわたるイベントの1日目は、趣味のお着物の中から男子の正装、羽織袴(はかま)姿で登場。お着物、映えるねーと言われつつ、「ジェンダーレスイベントなのに、逆に男らしさの典型のような姿になってしまう…」と羽織袴に少々照れ気味。イベントでは、ジェンダー問わず自分の好きなメークやスキンケア、ファッションを楽しむことの大切さを語りつつ、メークアップタイムにはメーク初心者という御手洗さんに私からメークアップを指南。男女問わず、初めてメークをしてもらった人ってこういう顔するよなー、というほど鏡をじっと見ていて微(ほほ)笑ましい。

 しかも商業施設での対談というなかなかない機会、さぞ緊張されたかと思うのだが、袴姿も口調もどこまでも軽やかだ。2日目には袴の上にレディース用ロングブラウス、そこに正絹の羽織、イヤーカフにネイルにリングという和洋折衷、かつジェンダーレスな装い。イベントのテンションに乗っかってしまう明るさが楽しい。

 が、終盤、「でも、ジェンダーレス男子、女子という言葉がなくなってこそ、という気もするんですよね」との発言にはっとさせられる。そう、ジェンダーレスは男と女の性的役割を消すための言葉であり、逆に男と女の性的役割がなくなったら「ジェンダー」も「ジェンダーレス」もいらなくなる言葉なのである。そう思うと、私たちは多様性のほんの入り口で、小さな爪先歩きをしているのかもしれない。そう耳元も目元もキラキラ輝く男子に教わった春であった。


 岐阜市出身の歌人野口あや子さんによる、エッセー「身にあまるものたちへ」の連載。短歌の領域にとどまらず、音楽と融合した朗読ライブ、身体表現を試みた写真歌集の出版など多角的な活動に取り組む野口さんが、独自の感性で身辺をとらえて言葉を紡ぐ。写真家三品鐘さんの写真で、その作品世界を広げる。

 のぐち・あやこ 1987年、岐阜市生まれ。「幻桃」「未来」短歌会会員。2006年、「カシスドロップ」で第49回短歌研究新人賞。08年、岐阜市芸術文化奨励賞。10年、第1歌集「くびすじの欠片」で第54回現代歌人協会賞。作歌のほか、音楽などの他ジャンルと朗読活動もする。名古屋市在住。