地方競馬ジョッキーズチャンピオンシップの表彰式。優勝を飾った岡部誠騎手(右)と2位の藤原幹生騎手=浦和競馬場(埼玉県浦和競馬組合提供)

 岡部誠騎手(45)=愛知=が逃げ切って総合V、藤原幹生騎手(41)=笠松=が10人抜きで2位。地方競馬の最強ジョッキーを決める頂上決戦は名古屋、笠松競馬代表がワンツーフィニッシュ。東海公営のジョッキーのレベルの高さを全国にアピールした。

 「2022地方競馬ジョッキーズチャンピオンシップ」は佐賀、浦和で計4戦が行われた。岡部騎手は佐賀第2戦の勝利に続いて、浦和第1戦を伏兵のアイエンジェルで豪快に差し切って連勝。この時点で総合Vをほぼ手中。第2戦は11着に終わったが、合計67ポイントで地方騎手の王者に輝いた。

■岡部騎手、8月・札幌の「ワールドオールスター」出場へ

 岡部騎手はこれまで、前身の「スーパージョッキーズトライアル」時代に2位、3位はあったが、優勝は初めて。8月27、28日に札幌競馬場で行われる「ワールドオールスタージョッキーズ」(国際騎手招待競走)に出場する地方競馬代表候補騎手に、2位の藤原騎手は地方競馬代表補欠候補騎手に選定される。

 各競馬場の勝利数トップ(昨年4月~今年3月)の騎手12人が最強の座を争った。岡部騎手は名古屋、笠松ともにリーディング1位だったが、笠松所属では藤原騎手が勝利数トップで、初の代表となった。

■藤原騎手、最終戦圧勝で一気に2位

 佐賀でのファーストステージ、藤原騎手は6着、9着で総合10位と出遅れた。浦和でのファイナルステージ、第1戦は12着に終わり、この時点では最下位だった。最終の第2戦では3番人気・ジョーイルガチフェ(牡4歳)に騎乗。2番手から3コーナーで先頭を奪い、そのまま押し切った。後続に5馬身差をつける圧勝で総合41ポイントとした。

 2位争いは大混戦。40ポイントだった岩手の村上忍騎手、佐賀の山口勲騎手を1ポイント上回って、藤原騎手が準優勝。同点の2人は、佐賀第1戦で1着があった村上騎手が3位、山口騎手は4位となった。村上騎手は前回の優勝者。岩手ではオグリキャップ孫のミンナノヒーロー、レディアイコの主戦を務めたことがあり、「笠松つながり」の騎手3人が上位を独占した。

 騎手不足が続く笠松競馬にとって、名手・岡部騎手はいまや頼もしいレギョラー的な存在。昨年の笠松開催は4カ月間と短かったが、52勝でトップ。藤原騎手は48勝で2位。この2人が、そのまま全国の夢舞台でもワンツーとなる快挙を達成。笠松関係者にとっても朗報となった。

ジョッキーズチャンピオンシップ「優勝」のボードを抱え、歓喜に浸る岡部騎手(埼玉県浦和競馬組合提供)

 浦和での熱戦の翌日、笠松競馬のレース終了後、岡部騎手と藤原騎手に喜びの声を聞いた。

■岡部騎手「うれしかった。光栄なことです」

 ―総合優勝に決まった瞬間はどうでした。

 岡部騎手「素直にうれしかったです。地方競馬みんなの代表ということで、新たなプレッシャーも感じますね」
 
 ―浦和での第1戦は10番人気の馬でしたが、すごい脚で勝ちましたね。

 「(南関東には)期間限定騎乗で夏場に行ったことがあり、浦和は得意なコースでした。ちょっとトリッキーだけど、ごく普通に乗って馬の力を引き出してあげたいと思っていて、いい結果が出ましたね」

 ―全国の名手との戦いを終えてどうですか。

 「こういうジョッキーレースは、くじ運的なものもありますし、なかなか結果が出てなかったんですが。優勝できて、札幌での『ワールドオールスター』にも行けることは光栄なことです。素晴らしいジョッキーたちと乗って、いろいろと勉強になりましたし、この先、世界の一流のジョッキーが来るんで、またもう一つ勉強できる機会が増えますね」

浦和第1戦で10番人気のアイエンジェルに騎乗。ゴール寸前、豪快に差し切った岡部騎手(埼玉県浦和競馬組合提供)

■「僕らのワンツーで名古屋、笠松に注目してもらえれば」

 ―「ワールドオールスター」への意気込みを。
 
 「変に力まずに、普段やってることを確実にやるだけです。いろいろなものを吸収したいですし、もちろん、優勝という結果が出ればベストですけど。普段通りのことを当たり前にやって、地方代表としてそれで結果が伴えば、一番いいです」

 ―藤原騎手が2位でしたね。

 「東海公営として出場して、ワンツーというのは名誉なことです。僕らが1、2位になったことで、これを機に全国のファンの方が名古屋、笠松に注目してもらえれば、それはうれしいことです」

 ★5月25日には「地方競馬通算4500勝」を達成した岡部騎手。今年は既に150勝を突破しており、昨年「あと2勝」届かなかった300勝の大台をもちろん、森泰斗騎手(船橋)、吉村智洋騎手(兵庫)と全国リーディングの座も争っている。「令和3強」時代の様相で、昨年3位の岡部騎手は、笠松での騎乗も増え、初の全国制覇を達成する可能性は十分にある。

ジョッキーズチャンピオンシップを前に、笠松で意欲を語った藤原幹生騎手。2戦目を勝ち、総合2位に入った

■藤原騎手「帰り支度をしてたのに、びっくりです」

 ―総合2位と聞いてどうでしたか。

 藤原騎手「びっくりしましたね。全然駄目だと思ってたんで。スッと笠松に戻ろうと、帰り支度をしてました。表彰式に出た3人でタクシーに乗って浦和駅まで行って、そこから岡部さんと一緒に新幹線で名古屋まで帰ってきて、午前1時半からは笠松で攻め馬に励みました(本番も1Rから騎乗)」
 
 ―浦和で勝ったレースを振り返ってください。

 「調教師さんに『ハナか2番手から行けば勝てるから』と言われ、行くだけ行ってみようと。厩務員さんは『気を抜くところがあるから』と言ってたし、前残りの馬場だったんで、早く先頭に立つ乗り方になりましたね」

  ―5カ月ぶりで休養明けの馬でしたが。
 
 「そこが心配だったんですが、仕上げてありましたね。いいスタートを切ってくれたが、外からも来てたんで。気を抜かせたくないし、競られたくないと思って、早めに行かせました」

 ―全国の名手との戦いはどうでしたか。

 「いい経験になりました。道営の石川倭騎手とは、期間限定騎乗で一緒だった時に、ご飯とか行ったりしてました。今回は『すぐ帰るの? 泊まっていくの?」とかちょっと話したぐらいですが、会えて良かったです」

浦和第2戦で、3番人気のジョーイルガチフェに騎乗。後続に5馬身差で圧勝した藤原騎手(埼玉県浦和競馬組合提供)

■いい馬に乗せてもらって「イケイケ」に

 ―表彰式に出た気分はどうでしたか。オリンピックなら「銀メダル」ですね。

 「(笠松での)いつもの表彰式と変わらずでしたが、良かったなあと。抽選でいい馬に乗せてもらって、力が抜けてたんで『イケイケ』になりましたね。(岡部さん以外は)みんな接戦だったんですね」

 ―開催前、笠松リーディングの岡部さんには勝ちたいとのことでしたが。

 「いつもの結果に終わりましたね」(笑い)

 ―2位で「ワールドオールスター」代打出場の可能性もありますし、来年もまた出てください。

 「準備だけはしときます。最近は、けがも少ないですが、それだけは気を付けてます。来年は、ちょっと厳しそうです。渡辺竜也騎手に勢いがあるから」
 
 ―体も頑丈ですが、バイトはまだ続けていますか。

 「半年延長したんで、9月までね。(ラーメン屋で)ぼくが抜けると、また大変なんで」

 ―ジョッキー戦の経験を笠松に持ち帰ってどうですか。今後の目標は。

 「いい刺激を受けてきたんで、また新鮮な気持ちでやれるし、ひたすら頑張るだけです」
 
 ★「上を目指して、勝てるように頑張ります」と浦和での巻き返しに燃えていた藤原騎手。その通り、最終戦を圧勝し、12位から一気に2位へとジャンプアップ。笠松現役では唯一の「東海ダービージョッキー」(4年前にビップレイジングで制覇)でもあり、また豪快な追い込みで重賞Vを飾ってもらいたい。3日の2歳新馬戦ではスタートで落馬負傷。その後のレースが騎乗変更となったが、ゆっくり休んでまた元気な姿を見せてほしい。

 中央、地方、海外の騎手が腕を競うワールドオールスタージョッキーズ。かつては笠松から川原正一騎手、安藤勝己元騎手、浜口楠彦元騎手がワールドスーパージョッキーズ時代に地方代表として出場。川原騎手は2勝を挙げて総合優勝。アンカツさんは3位、ハマちゃんも中央初勝利を飾るなど笠松勢は大いに活躍した。今年の地方最強となった岡部騎手には、札幌での勝利と川原騎手に続く総合Vを目指して快進撃を期待したい。
              

兵庫・クリノメガミエースに騎乗し、ぎふ清流カップを制覇した吉原寬人騎手

■ぎふ清流カップ、「重賞V請負人」吉原騎手が兵庫・クリノメガミエースで圧勝

 2日に笠松で行われた3歳重賞「ぎふ清流カップ」(SPⅠ、1400メートル)は、金沢の吉原寬人騎手が騎乗した兵庫・クリノメガミエース(雌3歳、石橋満厩舎)が1番人気に応えて圧勝した。石橋調教師は開業から3年でうれしい重賞初勝利。

 勝ったクリノメガミエースは、大外枠からダッシュ良く先行。3コーナーを回って、名古屋のヘイシリン=加藤聡一騎手=に詰め寄られたが、最後は突き放して3馬身差の勝利。笠松のフレンドショコラ=今井貴大騎手=が3着だった。3番人気のシルバ=藤原騎手=は先手を奪えず、ラストの伸びも欠いて9着に終わった。

 ここ2年ほど、いろいろあった笠松では、久々のウイナーズサークル登場となった名手の吉原騎手。スイスイと逃げ切っての快勝劇は、さすが「重賞V請負人」。騎乗した勝利の女神と一緒にスマイル全開だった。

 吉原騎手は「外を回るのではなく、楽に行かせてもらって、追ってからもしっかり伸びてくれた。3~4コーナーではヒヤッとしましたが、力強い走りでホッとしてます。馬場が深い感じもありましたが、先行して自分の競馬をして、よく勝ってくれた。石橋調教師にとって初重賞Vで、とてもうれしく思います」と喜びを語った。

■JRA交流戦、向山騎手が中央馬に騎乗し2着

 笠松の騎手が中央馬に乗ることが少なく、地元ファンを嘆かせているJRA交流戦。1日の3歳2組「あじめ峡特別」には、向山牧騎手が中央馬のペルペテュエル(牡3歳、美浦)に騎乗。笠松での交流戦では珍しい関東馬。4コーナーで先頭を奪う見せ場をつくって、2着に粘り込んだ。

 中央から3歳未勝利の5頭、笠松から3頭が出走。名古屋の騎手は、いつものメンバーで中央馬4頭に騎乗した。勝ったのは丸野勝虎騎手騎乗のミキノプリンス(牡3歳、栗東)。前回のJRA交流戦では渡辺竜也騎手が中央馬に乗ったが、今回は向山騎手が騎乗。この流れで、笠松勢も賞金の高い中央馬に乗る機会を増やしていけるといい。JRA交流再開後、笠松勢の騎乗は3頭、名古屋勢は34頭となった。

■期間限定騎乗で13勝の田中洸多騎手お別れ

 騎手不足が深刻な笠松競馬だが、地元ファンにはちょっとうれしいレースもあった。1日の8、11Rは珍しく笠松所属騎手だけでのレースとなった。8Rは8頭立てで大原浩司騎手が勝ち、9頭立て11Rのメインレース・伊自良川特別は、期間限定騎乗の田中洸多騎手が制した。

期間限定騎乗で13勝を挙げた田中洸多騎手のお別れセレモニー。ファンの前で行われ、笠松、名古屋の騎手たちが駆け付けた(笠松競馬提供)

 笠松での5カ月間の騎乗を終えた田中騎手(大井)。コロナ禍もあったが、徐々に騎乗機会も増えて13勝。ラストとなった今シリーズでは3日連続での勝利を飾った。レース後には「コースにも慣れて、いい馬にも乗せてもらいました。笠松の騎手全員と仲良くなって、特に厩舎の先輩・渡辺騎手には、馬の押し方やリズムなどを教えてもらいました」と感謝。

 「笹野先生らのおかげで、後半は騎乗も多くなって、人気馬にも乗せてもらいましたが、飛ばしちゃうことも多かったです。大井の先生には『ちゃんと戻ってくるように』と言われています。あっちでできなかったら意味ないんで、一発目から、うまくいけばいいですが」と笠松での経験を南関東でも生かす構え。騎乗を3開催延長し、助っ人としても活躍した。

 3日には場内でお別れセレモニーも開かれ、笠松、名古屋の騎手仲間7人が駆け付けた。「先輩の騎乗を間近で見られていい経験になり、少しでも結果に結びつく騎乗ができました。笠松、名古屋の先輩騎手が温かく迎え入れて、優しくしてくれて、競馬がやりやすかったです」。ボードに書かれた「また来てね」の一言には「機会があったら、ぜひまた来たいです。大井に帰っても頑張ります」と新たな闘志を燃やしていた。

 地方、JRAの若手騎手が腕を競う「ヤングジョッキーズシリーズ」(7~12月)では、田中騎手は東日本地区での騎乗となるが、ファイナルラウンドに進出できれば楽しみが広がる。今年は名古屋、中京競馬場で開催され、笠松の3人(東川慎、深沢杏花、長江慶悟騎手)と対戦する可能性もある。新たに浦和の及川烈騎手(18)が笠松・後藤正義厩舎に所属し、期間限定騎乗(6日~8月26日)で勝利を目指す。

■東海ダービー、笠松からイイネイイネイイネ、ドミニクなど3頭挑戦

 7日には、弥富の名古屋競馬場で初めてとなる東海ダービーが開催される。前走の駿蹄賞を完勝したタニノタビトに挑む笠松勢は、駿蹄賞2、3着のイイネイイネイイネ、ドミニクに加え、シャローナの3頭が出走予定。渡辺騎手が騎乗するイイネイイネイイネは好仕上がりで、笠松勢の1番手。「満足のいく攻め馬ができていますし、気合を入れて頑張ります」と意欲。厩舎の先輩でもあった藤原騎手に続く、ダービージョッキーへの期待も高まる。旧名古屋での重賞勝ちがあるドミニクも出張競馬に強く、向山牧騎手が豪快な追い込みを決めるか。岡部騎手騎乗のタニノタビトをぴったりマークして、笠松勢は末脚勝負に持ち込みたい。
 

オグリキャップの聖地・笠松競馬場で、ウマ娘コラボレースの「シンデレラグレイ賞」が行われ、場内は大盛況。飲食店前にも若者らの長い行列ができた。

■「大食いキャラ」のオグリキャップ、食材補給を祈願

 ところで、オグリキャップといえば現役時代から食欲旺盛で、ウマ娘随一の「大食いキャラ」でもある。4月にシンデレラグレイ賞が行われ、ウマ娘ファンが押し寄せた笠松競馬場。場内の飲食店は大繁盛し、品切れが続出した。
 
 連載が再開された漫画「シンデレラグレイ」では、この盛況ぶりとコラボしたようなシーンがあった。

 作中のオグリキャップは、有馬記念でタマモクロスとの死闘を制したGⅠ初V後、年明けの初詣で必勝祈願。そして、境内の屋台食材が補給されることも願った。焼きそばやたこ焼きなどの食材が全滅したとあるが、笠松競馬場内での売り切れ続出を思い起こすシーンでほほ笑ましい。笠松競馬場内やネット上でコラボイベントがまたあれば、ファンにも「現在進行形」で漫画のストーリーをも盛り上げていただきたい。

 4月に笠松で行われたシンデレラグレイ賞では、徹夜組が出るなどウマ娘ファンが押し寄せた。開門は2時間以上早めて8時20分に。このため、場内の飲食店は焼きそばや串物など人気の笠松グルメに約50人待ちの長い行列ができて、レースが始まる前から、品切れ状態になるなど大繁盛となった。店の人は食材補給に追われ、うれしい悲鳴となった。後日「5000人以上が来場すると思っていたよ」と伝えると、「それを教えてもらえていたら、もっと準備していたのに。売り切れ続出で、間に合わなくてお客さんに迷惑をかけました」と謝っていた。

 一連の不祥事で、どん底をさまよった笠松競馬だが、オグリキャップの聖地としての輝きは不滅で「美しき遺産」でもある。今後のシンデレラグレイ・コラボ企画では、ご当地グルメを十分用意していただき、全国から来場するウマ娘ファンの皆さんに、「安くておいしい」と評判のその味を堪能していただきたい。