夜、お風呂から上がったらまず全身にバシャバシャと乳液、さらにはホワイトニングミルクを塗ってタオルで軽くオフ。それから急いで顔に化粧水をぬりぬり、ビタミンCの美容液をぬりぬり、最後は濃厚なクリームでパックのように「保湿に蓋(ふた)」。これが最近の私のルーティーンだ。

 

 周りに男女問わずスキンケア好きな友人が増えている。ある一人に至っては美容系のユーチューバーを3人もフォロー、化粧水の成分から効果から塗り方からぎっちり研究したらしい。チャンネルを見てみると肌つやピカピカの彼女たちが、楽しげに「美白になるには」「しみ、くすみをを改善するには」「つやをとりもどすには」「絶対日焼けしない方法」などをレクチャーしている。どうやら綺麗(きれい)になることは思いの外楽しいらしい。

 そんなわけで「やって損はないはず」気分で美容皮膚科のユーチューバーのチャンネルでお勧めしていた「目的別美容アイテム全部買っても6000円以下」、というのを試し始めた。たまには眠くてオールインワンで済ませてしまうときもある。それでも「これで綺麗になれる」というお墨付きアイテムが、そもそも綺麗になりたいという欲望をどんどん喚起してくれるらしい。そんなわけで、今のところ例年に比べて日焼けもしておらず、さらには毎日美容アイテムを塗るときも、日焼け止めを塗るときも「綺麗になあれ」と念じているわけだから、気分も前向きだ。肌に「綺麗になあれ」と呼びかけるのは、思いの外ご自愛の時間になるらしい。

(撮影・三品鐘)

 「綺麗になあれ、綺麗になあれ」。これは魔法の言葉だ。そんなの恥ずかしい、やったところで劇的に変わるでもなし、という声もあるかもしれない。でも、自分の肌のコンディションがいいと、それだけで気分も行動もスムーズになるのは私だけではないと思う。逆を言えば、私たちはちょっと吹き出物ができただけでやっぱり多少気分は落ちるものだ。

 確かに、客観的に見ればスキンケアだけで別人のように変わることはまずない。でも、綺麗になりたいという姿勢は、欲望と、行動力と、挑戦心も刺激してくれる。「綺麗になあれ」と自分に念じること自体が、自分に前向きな興味を持つことだからだ。

 さあ、みんな念じてみよう。「綺麗になあれ」。


 岐阜市出身の歌人野口あや子さんによる、エッセー「身にあまるものたちへ」の連載。短歌の領域にとどまらず、音楽と融合した朗読ライブ、身体表現を試みた写真歌集の出版など多角的な活動に取り組む野口さんが、独自の感性で身辺をとらえて言葉を紡ぐ。写真家三品鐘さんの写真で、その作品世界を広げる。

 のぐち・あやこ 1987年、岐阜市生まれ。「幻桃」「未来」短歌会会員。2006年、「カシスドロップ」で第49回短歌研究新人賞。08年、岐阜市芸術文化奨励賞。10年、第1歌集「くびすじの欠片」で第54回現代歌人協会賞。作歌のほか、音楽などの他ジャンルと朗読活動もする。名古屋市在住。

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