次女の育休退園が決まり、女性の元に届いた保育施設の解約通知書(一部画像処理をしています)

 「2人目の子どもが生まれ、新しい家族の誕生に喜んだのもつかの間、上の子が保育園を退園させられた。友達と離れ離れにさせることに親としてやるせない」-。そう苦悩する声が、無料通信アプリLINE(ライン)で読者とつながる岐阜新聞の「あなた発!トクダネ取材班」(あなトク)に寄せられた。元気に遊ぶ子どもがなぜ退園しなければならないのか。取材を進めると、家庭で保育できることを理由に「育休退園」を運用する自治体の存在が浮かび上がった。保育士を確保できずに苦慮する自治体がある一方で、家庭で終日2人一緒に育てなければならない大変さから、改善を求める親の声が聞かれた。

 「育休退園」とは、下の子が生まれて親が育児休業を取得すると、家庭で保育が可能とみなされ、保育施設に通う上の子が退園させられること。岐阜新聞社が先月、県内の全42市町村に書面でのアンケート調査や対面、電話取材をしたところ、16市町村が育休退園を運用していることが明らかになった。

 2015年に始まった国の子ども・子育て支援新制度では、育休中も保育園を継続利用できることが明確化されたが、最終的な判断は市町村に委ねられている。運用の理由には、保育士不足で3歳未満児の定員に受け入れる余裕がないことなどがあるが、退園が子どもの発達に与える影響などを考慮し、見直す自治体も各地で増えている。

 大垣市は、3歳未満だった退園の対象年齢を2021年6月から引き下げ、一定の条件で2歳児の継続利用を認めた。住民の要望を受けた対応で、育休退園した子どもは20年度に49人だったが、21年度は27人に減った。担当者は「年齢の緩和が減少につながった」と捉える。

 可児市は年齢を問わずに原則退園だが柔軟に運用し、アンケートの質問項目の19年度以降に退園した子どもはいなかった。担当者は「希望する保護者に受け入れられないとは言えない」と明かす。

 本巣郡北方町では、3歳未満は原則退園する。「家庭での保育が制度の趣旨」と答えた。

 ほかにも育休退園の運用理由には「保育士を確保できない」(土岐市)、「保育士が集まらず、3歳未満の受け入れがいっぱいの状況。(就労や育休からの復帰による)入園希望者もいる」(瑞浪市)などの回答があった。

 一方で、各務原市、海津市、安八郡神戸町、加茂郡白川町などの8市町が育休退園を取りやめていた。昨年4月に廃止した各務原市は「小規模保育園を新規に開設し、必要な定員を確保できた」と回答。3歳未満は6カ月以上の在園を条件に受け入れている。18年末に廃止した海津市は「再入園時に再び集団生活や人間関係を身につける必要があり、園児に負担がかかる」と理由を挙げる。

◆乳児とイヤイヤ期同時 次女「保育園行きたい」親「条件付きでも…」

 「やっぱりという思いだった」。瑞穂市の女性(30)は、保育園の2歳児クラスに進級したばかりの次女の退園が決まった昨年4月を思い出すと、ため息をついた。育休退園の仕組みがあることは知っていたが、実際に当事者となって大変さを日々実感している。

 昨年2月に長男が生まれ、8週間の産後休業を経て4月から育休を取得したため、次女が育休退園の対象になった。次女は4月末で退園。5月から自宅で次女と長男の育児が始まった。次女が生まれたときには長女が保育園を利用していなかったため、2人を家庭で同時に育てることの苦労は身に染みている。「あのつらさはもう経験したくなかった」。

 瑞穂市は若い世代を中心に人口が増加し、待機児童や特定の保育所を希望するなどの理由で待機児童に含まれない潜在的待機児童が発生している。保護者が育休を取得した場合、3歳未満は原則退園させていたが、2022年度から条件付きで2歳児の継続利用を認めた。「保護者らの意見を踏まえた。保育施設の拡充を進めており、緩和できた」と市の担当者。それでも22年度は11月末までに15人が退園している。21年度は28人、20年度は24人だった。

 緩和条件に当てはまらなかった次女は「魔の2歳児」とも呼ばれるイヤイヤ期。育児の経験から手を抜ける部分も分かってはいたが、家事と育児に追われた。保育園に通う長女が午後4時過ぎに帰宅すると、過酷さが増した。夜泣きもあって寝不足に陥り、疲れが取れなかった。「不意に涙が流れたこともあった」。昨年12月から夫(32)が2カ月間の育休に入ると、気持ちが楽になったという。

 長男にかかりっきりでかまってもらえないせいか、次女はいっときかんしゃくが激しかった。「ストレスがたまっていたんだと思う」と夫は振り返る。育児や家事のペースを乱され、イライラが募った女性は感情的に怒ったことがあった。「だめな母親」。叱られた次女と一緒に泣いたこともあった。

 保育園に1年間通った次女は当時、園内の環境にも慣れ、友達や仲のよい先生がいた。「(保育園に)なんで行けないの」と不思議がる次女に「行きたいよね」と女性が尋ねると、次女は首を縦に振った。一方、5歳の長女からは「(私は)保育園になぜ行くの」と聞かれ、女性は心苦しかった。

 「瑞穂市は子育てしやすいまちと思っていたけれど」。夫と首をかしげた女性は「条件付きでもいい。育休退園を廃止する方向で動いてほしい」と望む。

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