スタンド前にも多くのファンが詰め掛けた笠松競馬場

 一連の不祥事で8カ月間もレースが中止され、一昨年は巨額の「赤字転落」となった笠松競馬だったが、谷底からはい上がった。馬券販売はV字回復を果たし、新年度も好調をキープしている。4~5月(開催15日間)の総売得金は77億9500万円で、1日平均でも前年比22.2%の増加。全国の地方競馬(13主催者)でトップの伸び率となった。

 「最近は笠松もよく売れているなあ」とは感じていたが、NARが発表している地方競馬開催成績を見て驚いた。4~5月は1日平均5億1900万円と、競馬組合が目標にしてきた4億円を大きく上回った。名古屋が4%減、兵庫は5.9%減と伸び悩んでおり、笠松の健闘が光っている。

 ■「巣ごもり需要」は頭打ちの傾向も

 2022年度の地方競馬の総売得金は1兆703億5900万円。初めての1兆円超えで、過去最高記録を更新した。前年比では7.8%増だが、勢いがあった高知、兵庫はややダウン。新型コロナの行動制限緩和もあって、人と金の流れは外食や観光施設へ。右肩上がりを続けていたネット投票による地方競馬の「巣ごもり需要」は頭打ちの傾向となった。

 JRAのレースが土日に行われ、平日開催が多い地方競馬。昼間とナイター合わせて1日3~4場でレースがあり、競合地区とのファンの争奪戦も繰り広げられる。南関東や門別でナイターが行われない冬場、名古屋競馬では、その隙間を突いてナイターを開催。スタンドのファンは寒さに震えながらの観戦だったが、馬券販売は1日10億円超も目立った。笠松でも金曜日ライブがあるように、ネット予想のライブ配信は盛んで、各場あの手この手でファンの関心を引こうとしている。
 

オグリキャップ記念のゴール前。横一線からのたたき合いで、迫力あるレースが増えた

 ■競馬組合、厩舎関係者が地道な努力

 そんな中で、笠松競馬の売り上げが伸びているのはうれしいことだ。もちろん、競馬組合など運営サイド、馬主さんや厩舎関係者の地道な努力が大きいといえる。一昨年9月にレースが再開されたが、騎手・調教師による馬券の不正購入の後遺症が尾を引いた。「ダーティー」なイメージが付きまとい、当初はJRAネット投票がなかったし、ファンの信頼を取り戻すには時間がかかった。

 では笠松の馬券販売が伸びている要因は何か、ちょっと探ってみると。

 ■「クリーン度100%」エキサイティングなレース増えた

 第一に、再開後のレースで公正競馬が徹底されて「クリーン度100%」になったこと。最後の直線で4、5頭が横一線になって、迫力ある追い比べでエキサイティングなシーンが増えた。「笠松は競走馬との距離がすごく近い」と評判で、応援するファンたちも戻ってきて、馬券を買っていただけるようになった。

 ■ウマ娘コラボレースやオマタセシマシタ効果

 第二に、ウマ娘のコラボレースや人気馬オマタセシマシタ効果で、若いファンが増えていること。飲食店のご当地グルメも人気だし、他場との差別化ではスタンドなどの昭和レトロ感も好評だ(リニューアルや耐震化は必要)。笠松のネット投票占有率は90%超。全国に配信されているライブ中継のネット越しでは、大勢のファンが観戦。1人1日4000~5000円分の投票なら、10万人規模のファンが熱い視線を送っていることにもなる。1レースごとの購入は少額でも、トータルでは大きな数字になる。

 ■12レースまで楽しめ、少頭数で当てやすい

 第三に、水~金曜の3日間開催が増え、1日12レースまで楽しめるようになったこと。運営面でも効率が良くなった。競走馬は順調なら2週間に1回程度走るが、各レース8~10頭立てがほとんど。JRAの16頭立てと比べれば少頭数で、上位人気馬同士で決まるケースも多い。配当は安くても当てやすいというメリットがあり、ワイドや3連複で買うことが多い若者や女性ファンにも笠松をアピールできている。同じ時間帯の開催は園田だけのことが多く(水、木曜)、ネットで2場とも馬券を購入するファンが増え、好循環にもなっている。
 

ウマ娘コラボレースが開催され、にぎわったオグリキャップ像前

 ■笠松所属馬のレベルは「最後方」の評価

 ここからは、3年前に発覚した不祥事を経て「復興」を目指す笠松競馬の現状を見つめてみたい。

 馬券は売れるようになったが、不祥事の余波で騎手や所属馬は減ったままだ。競馬場運営の生命線である競走馬のレベルダウンは顕著で、地元の重賞さえも勝てなくなっている。

 オグリキャップやラブミーチャンら多くの名馬を生んで、全国の地方競馬をリードしてきた笠松競馬。中央馬を圧倒し、GⅠ馬にもなったこの2頭。場内には「存続のシンボル」であるオグリキャップ像とともに等身大パネルも展示されているが、「名馬、名手の里」として先頭を走っていたかつての栄光はどこへ。

 全国の競馬ファンの間では、地方競馬のうちでも「笠松の馬のレベルは最後方」ともささやかれており、歯がゆい思いが募る。現状では各地方競馬のレベルは①南関東4場②門別、園田③高知、名古屋、岩手④金沢、笠松、佐賀―といったファンの見方が多い。

 ■馬券の不正購入発覚から3年、事件を風化させるな

 笠松競馬の騎手、調教師による馬券の不正購入事件が2020年6月20日に発覚し、ちょうど3年が経過した。競馬場が改修入りする直前、岐阜県警が厩舎や自宅の家宅捜索を行い、激震が走った。もし「あれ」がなかったら、今なおレースで不正行為が続けられており、ファンを裏切り続けていることになり、ゾッとする。身を切る覚悟で大ナタが振るわれ、刷新を図り、レース再開後は「クリーン度100%」でダーティーなイメージの一掃に努めてきた。

 所属騎手や競走馬は減ったが、現場に残ったホースマンたちは情熱を失うことなく、レースに挑んできた。全国のファンや競馬関係者に対して、1度失った信頼を回復させる再生への道のりは遠く険しいものだった。21年9月にレースが再開されて1年9カ月。「公正競馬を確保し信頼回復」への道を突き進むためには、今後も事件を風化させてはならない。
 

昨年6月のクイーンカップを制覇したドミニクと向山牧騎手(右)=笠松競馬提供

 ■笠松所属馬、地元重賞で1年間も勝てず

 現在の笠松所属馬は約470頭。自粛前と比べてまだ50頭ほど減っており、所属馬の実力はレベルダウン。笠松の馬が地元重賞を勝ったのは、昨年6月・クイーンカップのドミニク(後藤正義厩舎)が最後。名古屋や兵庫からの遠征勢に優勝をさらわれ続け、笠松ファンからは「馬場を貸して優勝賞金を提供しているだけ」といった厳しい声も飛んでいる。

 地元重賞で1年間も笠松所属馬の優勝がない。これはかなりの「異常事態」といえよう。ここ1年間に笠松で行われた重賞は17レース。上位馬を調べてみると、同じ東海地区の名古屋勢が8勝。南関東勢が4勝で、オグリキャップ記念や笠松グランプリなど地方全国交流を全て制覇。兵庫勢は3勝で、笠松と金沢が1勝ずつ。名古屋勢の強さが際立っており、2着も8回、3着は5回。21世紀初めまでの東海公営の勢力図は、笠松が名古屋より優位だった。メインレースの専門紙にはアンカツさんや川原さんに◎がいっぱい並んでいて、順当勝ちを収めていた。そんな時代を知る一人として、現状は情けないばかりだ。笠松勢が最後に名古屋重賞を勝ったのは、ゴールドウイング賞でのドミニクで1年半も前のことだ。

 
【ここ1年間の笠松での重賞レース結果】

 笠松  ①1 ②4 ③7

 名古屋 ①8 ②8 ③5

 兵庫  ①3 ②3 ③3

 南関東 ①4 ②1 ③2

 金沢  ①1 ②0 ③0

 高知  ①0 ②1 ③0

           

古馬の大将格・ウインハピネスで東海ゴールドカップを制覇した大原浩司騎手(左から2人目)

 ■賞金・手当さらなるアップで強い馬づくりを

 重賞以外でも名古屋の馬が笠松で走れば、1番人気になることが多く勝率は高い。笠松所属馬の弱体化を打破するためには何が必要か。最も有効なのは賞金・手当のさらなる増額だろう。笠松勢が中央の重賞も勝っていた1990年代には、1着賞金が今よりかなり高かった。強い馬づくりには欠かせないことで、今年、オグリキャップ記念の1着賞金が2000万円に大幅アップしたように、他の重賞レースも増額が必要だ。

 高知競馬では、高知県知事賞の2000万円をはじめ、古馬重賞の1着賞金は全て1000万円以上に上積みされ、JRAからの移籍組など強い馬が集まるようになった。やはり、賞金・手当が高ければ、馬主さんも馬を預けてくれるのだから、笠松でも下級クラス(C級で40万円以上)だけでなく、重賞戦線でも夢のあるビッグな優勝賞金を増やして、強い馬づくりにつなげていきたい。

 笠松勢では古馬の大将格がウインハピネス。主戦は大原浩司騎手で、いつも豪快な差し脚を発揮。笠松では24戦して全て3着以内、複勝率100%という超堅実馬。重賞は2年前の東海ゴールドカップを制覇している。ここ1年はオータムカップ3着、マーチカップ2着はあるが勝ち切れていない。8歳馬となったが、まだまだ元気だし、重賞で健在ぶりを示していきたい。

秋風ジュニアVの快速馬シルバ(左)と藤原幹生騎手。笠松800メートル戦のレコードホルダーでもある

 ■日本海スプリントに笠松から4頭挑戦

 18日、金沢競馬で行われる電撃戦の「第6回日本海スプリント」(900メートル)には笠松勢4頭が挑戦する。北陸・東海地区のスプリント王を決める一戦。名古屋時代の「でら馬スプリント」ではラブミーチャンが無敵の強さを見せ、ファイナル「習志野きらっと」でも3連覇を飾り、最速女王に輝いた。

 藤原幹生騎手が騎乗するシルバ(牝4歳、後藤正義厩舎)は2年前、笠松の新馬800メートル戦でレコードタイムの47秒4をたたき出した快速馬。日本海スプリントでも逃げる展開になれば面白いのでは。ぎふ清流カップ3着のミトノシャルマン(牡3歳、笹野博司厩舎)では渡辺竜也騎手が一発を狙う。金沢のオヌシナニモノ(牡6歳、佐藤茂厩舎)は強いが、流れ一つで笠松勢が波乱を演出するかも。

 ■松本一心騎手と馬淵繁治騎手が加入し11人に

 一連の不祥事で、再開後の所属騎手は9人に半減した笠松競馬。フルゲートは12頭だが、出走馬とともに乗り役が不足。名古屋や期間限定騎乗の騎手たちのサポートで、何とか乗り切ってきた。

 今年4月にルーキーの松本一心騎手が笠松でデビュー。期間限定騎乗だったベテランの馬淵繁治騎手は北海道から笠松に完全移籍。所属騎手は11人に増えたが、地方競馬の適正規模である「20人」には程遠い現状だ。 

笠松競馬場で騎乗し、飛躍が期待されている若手騎手たち

 ■若手の東川、深沢、長江、松本一心騎手にもっとチャンスを

 連続4日間開催では少頭数のレースも多い笠松では、レギュラーの所属騎手が一人も騎乗しないレースもあった。名古屋や期間限定の騎手ばかりで、スタンドで見守る地元ファンを嘆かせた。笠松の騎手の家族も応援に来ていたが「名古屋の騎手ばかり乗せないで、もっと地元の騎手にチャンスを与えてほしい」といった声も聞こえてきた。

 笠松の若手では「減量騎手」を卒業した東川慎騎手、100勝まであと8勝に迫った深沢杏花騎手、穴馬でも馬券圏内に導くことが増えた長江慶悟騎手、そして既に10勝を挙げて親子対決でも注目を浴びるルーキーの松本一心騎手に注目。それぞれ大きな目標でもある重賞初Ⅴは誰が一番乗りか。お互い競い合って腕を磨いていきたい。

 ■元騎手2人への関与停止処分は違法

 6月2日付の決定で「笠松競馬元騎手2人の処分は『違法』、県競馬組合の敗訴確定」と注目のニュースが流れた。最高裁が上告を棄却し、計255万円の支払いを命じた名古屋高裁判決が確定した。馬券不正購入問題での関与停止処分で、元騎手2人が損害賠償を求めていた。処分違法となり、改めて競馬の公正確保が問われている。

 訴訟で2人は「現金は賄賂ではなく調教の対価だった」と主張した。昨年3月の一審岐阜地裁判決は「笠松競馬では調教師が個人的に騎手に調教を依頼し、後日報酬を支払うことが行われていた」とし、調教の対価として現金を受け取っていた可能性が否定できないと判断。組合の調査が不十分で、注意義務に反し違法と結論付けた。昨年10月の二審判決も支持した。
  
 組合管理者は「主張が認められなかったことは大変遺憾。今後も再発防止策の実践を通じて信頼回復に努め、競馬の公正確保に取り組んでいく」とコメントした。

競走馬とファンとの距離がとても近い笠松競馬場

 ■ファンサービスは情報量の充実から

 1992年以降凍結されていた構成団体(岐阜県、笠松町、岐南町)への収益配分が昨年復活し(総額5700万円)、地方財政にも寄与している笠松競馬。公営競馬開催の本来の目的でもあり、ネット販売が90%を占める時代を迎え、競馬ファンにもっと多く馬券を買ってもらい社会貢献にもつなげるためには、どうしたらいいのか。

 馬券購入者にはデータ派も多く、応援している競走馬、ジョッキーの成績や近況などを幅広くキャッチしたいのがファン心理だろう。競馬場とファンをつなぐ窓口でもある笠松競馬の公式ホームページは3月にニリューアルされた。その役割は大きく、開催日前から全国の人が閲覧してチェックしており、笠松競馬をアピールする絶好の場であり、情報量の充実こそが生命線になる。

 新たなホームページはワンクリックで出馬表などの画面に進め、見やすくなったと好評だ。だが全体的な情報量は減った印象を受ける。特に「ニュース・お知らせ」一覧はほぼ3月以降のもの。2015年以降、今年2月までは「横断幕掲出」「協賛レース」「馬ふん厩肥の販売」の案内があるだけで、そのほかは毎月「お知らせはありません」との表示になる。重賞勝ちや達成セレモニーなどで、騎手へのインタビュー内容をもう一度読みたいと思っても、閲覧できないのだ。

 2月以前のニュース・お知らせは引き継がれておらず、ネット上から削除された状態で、残念がっているファンは多い。一連の不祥事での再発防止策などの情報も少なく、公正競馬への取り組みも明かされず「あれだけの不祥事が風化してしまうのでは」との思いになる。

 他地区の競馬場のホームページのニュース一覧(イベント・ファンサービスを含む)はどうなのか。名古屋、金沢、園田は過去10年分のニュースがほぼ閲覧できる。そのほか大井や北海道は過去20年分が残されており、データベースとしての役目を十分に果たしている。ばんえい競馬では、15年に騎手、厩務員による馬券の不正購入事件があったが、行政処分の内容や再発防止策などもネット上で閲覧可能で、競馬関係者やファンも監視の目を光らせることができる。一方、再発防止を誓ったはずの笠松競馬の対応は残念である。今後、ファンサービスの充実を図るためにも、まずはニュース一覧を復活させるべきである。
 

JRA競馬博物館で開かれている特別展「競馬法制定100周年 競馬法と安田伊左衛門」をアピールするポスター

 ■安田伊左衛門さん「競馬は、競走の施行面でも馬券販売でも『公正の保持』が最も大切」

 馬券販売は好調でも、真の再生・復興へは道半ば。農水省など国の笠松競馬に対する評価は厳しく、人馬の活躍をアピールする立場にあるマスコミに対する取材規制も相変わらず厳しいままだ。

 今年は「公正競馬の確保」を第一に、馬券発売を再開した競馬法が制定されて100年。「日本競馬の父」で岐阜県海津市出身の安田伊左衛門さんが馬券発売復活に尽力された功績は多大で、令和の時代にもファンは競馬を楽しむことができている。

 ソングラインが勝った安田記念が行われた東京競馬場。場内にあるJRA競馬博物館では特別展「競馬法と安田伊左衛門」が10月1日まで開催中だ。岐阜新聞社制作の「郷土偉人かるた」には「安田伊左衛門 愛馬とともに駆け抜ける海津の地 途切れし道をつなぐ者なり」とあるように、馬券発売を15年ぶりに復活させ「競馬というものは、競走の施行面でも馬券販売でも『公正の保持』が最も大切」と信念を貫いた。

 そんな郷土の大先輩はいたが、横道にそれることもあった笠松競馬。組合では、レース再開に向けて「一連の不祥事を風化させない」と誓い、再発防止対策を徹底するとしたはずである。真の再生を目指すなら「笠松競馬場の公正確保に向けた倫理憲章」や再発防止策を永久保存版としてホームページに掲示するなどして、公正競馬への取り組みを強力に推進し、全国に発信するべきだ。厩舎関係者や応援するファンも含めたすべてのホースマンが再発防止策を共有して、監視の目を光らせていくことが大切だ。