県岐阜商×岐阜高専=2番手として登板し、3回無失点の好投を見せた県岐阜商の小林希=長良川球場

 140キロ超えを連発しながら、ストライクが入らなかった悪夢の甲子園から1年、覚醒した姿を岐阜大会初戦で見せつけた。県岐阜商の最速王小林希。初戦の堅さもあり、強打線が岐阜高専の左腕・桂川潤の遅球を打ちあぐねていただけに「流れを呼び込んだ」と鍛治舎巧監督もたたえる快投。V候補筆頭の盤石投手陣の中でも異彩を放つ最速王は、なぜ変身を遂げられたのか…。

◇制球が課題で、持ち前の球威を生かせない日々
 入学時は野手兼投手で、1年の秋は内野手として出場。以降、投手専門となった。元々、球に威力があり140キロを超える期待のパワーピッチャーで、昨夏の岐阜大会もベンチ入りしたが、マウンド経験の不足もあり、何より制球が最大の課題だった。

 昨夏、チームは甲子園初戦を前に新型コロナウイルス感染者が続出。小林希は2番手としてマウンドに上がったが、いきなり連続四球を出すなど1回1/3で被安打3、4四球で3失点。最速145キロをマークし、アルプスを沸かせながら、不本意な投球内容だった。

 実はこの時、腰痛に悩まされていたのも大きな要因。秋はベンチ入りもできず、調整する日々。年末年始の熊野合宿で復帰したが、シーズン当初の選抜出場校・履正社(大阪)との練習試合で大量失点。またしても、どん底を味わった。

◇連日の実戦登板がもたらした制球と自信
 ここで、鍛治舎監督が振るった大ナタが、シート打撃での連日の登板。シート打撃は、年間を通じて紅白戦形式で行う鍛治舎監督ならではの実戦練習。ベンチ入り投手は火、木曜日のみの登板だが、小林希だけは連日登板させ、自チームの強力打線との実戦で投球に磨きをかけさせた。足りない分はブルペンで補う毎日50球。6月の高岡商(富山)との招待試合で最速147キロをマークした。

 考え方も変わった。「これまで、ボールが続くとがむしゃらにストライクにこだわったが、状況に応じて歩かせてもいいと思えるようになった」。東海大会決勝も1回無失点。それでも、完全に指揮官の信頼を得るに至らず、開幕直前の変更でベンチに滑り込んだ。

 3連覇を目指す初戦。出番は0―0の緊迫した三回表に回ってきた。「最初から調子のよさを実感できた」と捕手大東要介も語るように自慢のストレートの走りを確信すると、四回からはカットボールを交え、3回打者9人、1四球。最速は145キロで終始、低めに制球されていた。

 「ぼんやりしている」と1年前の甲子園のマウンドを振り返る小林希だが、この日は「落ち着いていた。自信があったから」と淡々。盤石投手陣にさらなる厚みをもたらした最速王。聖地でのリベンジへ―、今夏、ブレークの予感大だ。

 森嶋哲也(もりしま・てつや) 高校野球取材歴35年。昭和の終わりから平成、令和にわたって岐阜県高校野球の甲子園での日本一をテーマに、取材を続けている。