整形外科医 今泉佳宣氏

 今回は膝のお皿の骨折についてのお話です。膝のお皿とは膝関節の前面に触る可動性のある骨の俗称です。医学用語では膝蓋骨(しつがいこつ)と言います。

 骨折の前に、膝蓋骨の役割についてお話ししましょう。普段私たちが立ち上がって歩く時には、膝関節を曲げたり伸ばしたりしなければなりません。関節を伸ばすことを伸展と言いますが、膝蓋骨は膝関節の伸展にとても重要な役割を果たしています。膝関節を伸展させる筋肉である大腿(だいたい)四頭筋の腱(けん)が膝蓋骨に付き、さらに膝蓋骨から膝蓋腱と呼ばれる腱が脛骨(けいこつ)に付きます。つまり膝蓋骨があることで大腿四頭筋の力を脛骨に伝え、効率よく膝関節の伸展を行えます。

 膝蓋骨が骨折する原因は二つあります。一つは直達外力と言って、転倒などで膝の前面を強打することで生じます。もう一つは介達外力と言って大腿四頭筋が急激に収縮することで生じます。

 膝蓋骨が骨折すると、強い痛みを生じて歩けなくなります。また骨折部からの出血のために関節内に血がたまり、関節が腫れます。大部分の骨折は膝関節の単純X線写真側面像で診断可能ですが、最近は骨折の程度を詳細に把握するためにCT(コンピューター断層撮影)検査を追加することが多くなりました。CT検査により、単純X線写真では大腿骨像と重なり、分かりにくかった膝蓋骨正面像をより正確に把握することができるようになりました。

 治療法はほとんどの例で手術が行われます。手術を行う理由は、膝蓋骨に大腿四頭筋が付着していることで、骨折した部位が絶えず筋肉に引っ張られ、ギプスなどで外から固定しても骨が付かないことが多いからです。代表的な手術術式として鋼線と呼ばれる細いくぎを骨折部を貫くように刺し、鋼線にワイヤを引っ掛けて、それを締め上げることで骨折部を固定する「引き寄せ締結法」があります=図=。

 手術後はリハビリテーションとして、膝関節が固まらないように関節の屈伸運動をします。また大腿四頭筋の筋力が低下するので、筋力トレーニングも行います。歩行については、関節可動域や筋力が回復するまでは松葉づえを使用しますが、最終的には手術前と同様に歩けるようになります。

(朝日大学保健医療学部教授)