小児科医 福富悌氏

 慌ただしく1年がたち、年の瀬となりました。この1年間を振り返ると、わずか1年の間でも大きく変わったことがいくつかありました。インフルエンザの治療も、その一つです。

 インフルエンザと人類の戦いは古く、スペイン風邪のように地球上の多くの人が感染し、大混乱を引き起こしたこともありました。医学の歴史は長くても、20年ほど前までは、インフルエンザウイルスに対しての薬はなく、症状に対しての対処療法だけの治療が行われていました。

 このような状況の中で、パーキンソン病に使われていた薬を飲んでいる人はインフルエンザに感染しにくいことから、アマンタジンと言う薬がインフルエンザの薬として使われるようになりました。その後開発が進み、飲み薬と吸入する薬(商品名=タミフル、リレンザ、イナビル)、8年前には点滴の薬も登場しました(商品名=ラピアクタ)。

 これらの薬が開発されてからは、インフルエンザの治療の中心となって使われてきましたが、今年から新しくバロキサビル(商品名=ゾフルーザ)が登場しました。

 今まで使われてきた薬はノイラミニダーゼ阻害薬と言われ、主に喉で感染した細胞の中で増殖したウイルスが体内に拡散することを抑制する作用に対し、今年登場したゾフルーザは、ウイルスの増殖自体を抑制する効果があります。この作用の違いは治療期間にも関係し、今までの薬の多くは5日間の服用や吸入が必要でしたが、この薬は1回だけの内服でよく、治療期間も短いと報告されています。

 またインフルエンザウイルスの特徴として、ウイルスが人から人へと感染している間に、少しずつ変化することがあります。そのため一つのシーズンの間に、何度もインフルエンザに感染した人もいると思いますが、この薬剤では、増殖そのものを抑えるので、このようなことは起こりにくいと考えられています。ただし、この新しい薬の投与は今のところ、体重が10キロ以上でないと用いることができません。

 いずれの薬を用いるにしても、インフルエンザに感染したら48時間以内の投与が好ましいので、高熱でいつもの風邪より強い症状の時は、早めに医療機関を受診し相談しましょう。

(福富医院院長、岐阜市安食)