産婦人科医 今井篤志氏

 職場や学校の定期検診などで指摘される異常で、最も頻度が高いのが貧血です。女性の20~30%が、貧血を指摘された経験があると言われますが、自分では気付いていないことがほとんどです。今回は、なぜ女性に貧血が多いのかを考えてみましょう。

 体中を巡る血液の役目は、体のすみずみに酸素や栄養を運ぶことです。ヘモグロビンという言葉は、誰もが耳にしたことがあると思いますが、血液の赤血球にあるヘモグロビンが酸素を運搬します。ヘモグロビンが少なくなった状態を貧血といい、全身に酸素が行き渡らなくなります。貧血の多くは、ヘモグロビンの重要な材料である「鉄」が不足することによる、鉄欠乏性貧血です。

 なぜ女性が貧血になりやすいのでしょうか。女性も男性も1日1ミリグラム未満の鉄を便、尿、汗によって排泄(はいせつ)して失います=図=。これに加えて、閉経前の女性は月に1回月経として出血します。健常な女性の月経は5日間前後で、約150ミリリットルの出血があります。1回の月経で15~20ミリグラムの鉄分を失うことになります。自分の月経の量が多いか少ないかは判断しにくいものですが、多い日にはナプキンを1~2時間以内に取り替えたり、レバーのような血の塊が出たりして、生活に支障がでる場合を「過多月経」といいます。子宮の体積が大きくなる子宮筋腫などがあると、月経の量が増えます(2015年1月19日付本欄参照)。ホルモンの分泌に異常があっても、キレの悪い月経が続き月経量が増えます。

 妊娠中には、胎児の体の成分や栄養はすべてが胎盤を通じて母体から移行します。授乳中も、乳児は母乳だけで成長します。妊娠中・授乳中は月経が止まりますが、女性は月経で失う量以上の鉄を胎児・乳児の成長に費やしているのです。また、無理なダイエットや朝食抜きといった栄養バランスの偏りも加わって、女性は人生を通して貧血になりやすい条件がそろっています。

 人間は体内で鉄を作れないので、失った鉄は食べ物から補うしかありません。しかし、鉄は吸収されにくい栄養素で、食物中の鉄分の10%しか吸収されないと言われています。従って、1日に失う量の10倍を食べ物として摂取しなければなりません。厚生労働省の食事摂取指針では女性の場合1日約12ミリグラムの摂取が勧められています。

 しかし、階段を上ると息切れがする、立ち仕事ができないといった貧血の症状が重い時には、鉄剤を用います。鉄剤を服用し始めると、2~3カ月くらいで貧血の症状は治まります。しかし、すぐに服用をやめてはいけません。財布の中が潤っても定期預金として鉄を体内に貯蔵して、将来や万が一に備えることが大切です。鉄の蓄えができて、治療が終了します。貯蔵鉄は「フェリチン」という検査項目で調べられます。

 男性や閉経後の女性が貧血の場合は、体のどこかで出血している警告サインかもしれません。特に男性は貧血を軽視しがちですが、背後に大腸がんや胃がんなど重大な病気が隠れていることもあるので注意が必要です。

(松波総合病院腫瘍内分泌センター長、羽島郡笠松町田代)