整形外科医 今泉佳宣氏

 前回は骨・関節の感染症のお話をしました。今回はもう少し具体的に、関節の感染症のお話をします。

 関節というのは腸などと異なり、もともと細菌の存在しない器官です。そのような器官に細菌がすみついてしまうと、化膿(かのう)性関節炎と呼ばれる病気を生じます。症状としては関節が痛み、腫れて熱を持ちます。そして関節内に膿(うみ)がたまります。

 罹患(りかん)部位として多いのは、成人では膝関節です。今では少なくなりましたが、以前は膝関節内への注射をした後に、膝関節が化膿することをよく経験しました。これはかつて、ガラス製の注射器を医療機関で繰り返し滅菌して複数の患者さんに使い回し、注射器そのものの滅菌が不十分だった可能性が考えられています。現在では使用する注射器は、使い回しをしない使い捨てタイプのものとなり、注射後に膝関節が化膿することは非常に少なくなりました。

 現在問題となるのは、膝の手術後に膝関節が化膿することです。いわゆる術後感染です。テレビの医療ドラマの手術シーンで、医師や看護師は帽子をかぶり、マスクをして入念に手洗いをした後、滅菌済みのガウンを身に付けて手袋をはめていますよね。これは無菌操作の一つで、外から細菌を持ち込まない目的があります。もちろん手術を行う場所は事前に消毒し、器械は滅菌済みのものを使用します。そうした無菌操作にもかかわらず、残念ながら手術後の感染は完全になくなることはありません。

 膝関節が化膿した場合、膿を採取して細菌検査を行った後、膝関節を切開して大量の滅菌した水で関節内を洗います。その後は膝関節内にチューブを留置し、1~2週間ほど持続的に関節を洗います。また、抗生物質を含んだ医療用のセメントビーズを関節内に留置し、細菌を死滅させる処置を行います。これらの治療と並行し、点滴による抗生物質の全身投与も行います。

 血液検査や細菌検査により感染が治まったことを確認した後は、リハビリテーションを行います。感染を生じた後の膝関節は拘縮(こうしゅく)と言って、曲げ伸ばしに制限が生じます。そのためリハビリテーションによって、関節の可動域を広げる訓練を行います。さらに膝関節周囲の筋力増強訓練や歩行訓練も行います。

 感染を生じないことが理想ですが、万が一感染を生じた場合でも、迅速かつ適切な治療により、ほとんど後遺症を残さずに治癒することが可能です。

(朝日大学村上記念病院教授)