岐阜大学皮膚科医 松山かなこ

 今回は基底細胞がんという、日本のみならず、世界的にも最も頻度の高い皮膚がんについて解説します。

 この皮膚がんは、特に高齢者の顔に好発します。原因としては紫外線の影響や遺伝子異常などがあると言われていますが、はっきりとは分かっていません。鼻やその周囲、目の近くにできることが多いです。ゆっくりと増大し、次第に皮膚表面から深く進行してえぐれてきます。

 転移はまれで、皮膚がんの中では最も命に影響が少ない疾患ですが、長期間放置し続けると、どんどん潰瘍が深くなって、骨の近くまで進むこともあります。

 基底細胞がんの見た目は、ほくろやメラノーマ、しみと間違われることもあります。色は主に黒褐色で、黒色から灰色、青みがかった色の場合もあります。よく見ると、表面はろうのように光沢があり、中央はへこんでいて、周囲が少し堤防状に盛り上がっています。大きさは3~15ミリ程度のものが多く、小さいうちに受診される方がほとんどです。

 診断には病理検査や超音波検査、ダーモスコピーという器具を使います。ダーモスコピーとは、病変の表面にゼリーを塗って、レンズを接着させて皮膚の反射を抑え、色調のパターンをみる拡大鏡です。基底細胞がんやほくろ、メラノーマなど、色素を持つ皮膚病変の鑑別に非常に有用です。ダーモスコピーを使うと、ほくろなどでは見られず、基底細胞がんに特徴的ないくつかの像がみられるので、診断の手助けになります。

 基底細胞がんの治療は外科的切除術です。ダーモスコピーで病変がどこまであるかを確認し、その境界部から数ミリの正常な皮膚も含めて切除術を行います。切除してできた皮膚の欠損は縫合したり、「植皮術」といって胸のあたりの皮膚を移植したり、皮膚全体をずらして治す「皮弁術」を行って再建します。顔にできることが多いので、整容的な問題を伴うことも多く、場合によっては大きな手術を必要とすることもあります。

 しかし、このような外科的な治療を行えば、完治ができる疾患です。転移は日本人では0.3%以下と言われていますが、局所再発や遺伝的に多発する人もいるので、定期的に診察を行うこともあります。

 ゆっくりとしか症状は進行しないので、過剰な心配は不要ですが、もし気になるような病変があれば、近くの皮膚科を受診されることをお勧めします。

(岐阜大学医学部付属病院皮膚科臨床講師)