精神科医 塩入俊樹氏
依存症と聞いて、アルコールや覚醒剤、麻薬などの嗜好(しこう)品や、違法薬物、あるいはギャンブルやインターネットなどを思い浮かべた人も多いと思います。特に、2016年12月、カジノを中心とする「統合型リゾート(Integrated Resort=IR)整備推進法」、いわゆる「カジノ法」が制定されたことは記憶に新しいでしょう。その後政府は、18年7月に「特定複合観光施設区域整備法(IR整備法)」を成立させ、20年1月には内閣府の外局にカジノ管理委員会が創設されました。さらに、広く国民に向けてのパブリックコメント(意見公募)も実施しました。
いよいよ日本にもカジノができようとしていますが、反対派の多くはギャンブル依存症への懸念をその理由の一つに挙げています。というのも、厚労省委託研究班の全国調査では、ギャンブル依存症の推定有病率は男性9・6%、女性1・6%でした。実はこの値、諸外国の1%前後に比べてとても高率なのです。そのうち海外にはないパチンコ・パチスロが8割以上を占めていますから、さらなる詳しい実態調査が必要ですが、この問題は国民の健康上の喫緊の課題と言ってもよいでしょう。このような中、国は17年6月より、これまで遅れていた依存症対策を積極的に実施しようと支援体制整備のための事業をしています。
依存症はとても身近で、誰でもかかる可能性があります。そして適切な治療と支援によって回復可能な病気です。そこで今回から依存症について学びましょう。依存症に対する正しい知識を身に付けることで、依存症にかからない、そしてもし近くに依存症の人がいたら適切なアドバイスと支援ができるようになっていただきたいと思います。
まずは依存症の定義です。ごく簡単に言うと、「精神に作用するある特定の物質(アルコールや薬物)や、ある種の快楽や高揚感を伴う行動(ギャンブルなど)を繰り返し行った結果、それらの刺激を求める耐えがたい欲求が生じ、その刺激を追い求める行為が優勢となり、コントロールが利かなくなる病気」です。今年の新型コロナウイルスによる外出などの自粛の際にも、パチンコ店に開店前からずらっと並ぶ客をニュースで見て、「なぜ、こんな時に!?」と不思議に思われた方も多かったと思います。依存症の患者さんは実に身近にいるのです。
このような状態になると、日常生活や心身の健康、大切な人間関係などにさまざまな問題が起こり、社会生活に著しい支障が生じますが、それでもやめることができなくなります。そして、その刺激がないと不快な精神的・身体的症状が生じるのです。
最後に、全ての物質や行動が依存症の対象とはなりません。例えば、趣味で何かにはまっている人、あるいは「ワーカホリック(仕事熱心な人)」も仕事に依存はしていますが、依存症ではありません。次回は、どんなもので依存症になるのか、話をします。
(岐阜大学医学部付属病院教授)