優勝を飾った田口貫太騎手(左)と3着の長江慶悟騎手(中央)、5着の松本一心騎手

 JRAルーキーの田口貫太騎手(栗東)が1着、2着でファイナルラウンド進出を決めた。地元勢の長江慶悟騎手と松本一心騎手は、最終戦を勝てば「ファイナル切符」をゲットできたが、届かなかった。深沢杏花騎手も上位に食い込めずに笠松若手トリオは撃沈した。

 「ヤングジョッキーズシリーズ(YJS)」西日本地区トライアルの最終ラウンドが11日、秋晴れに恵まれた笠松競馬場で開催された。18~24歳の若手ジョッキー11人が参戦したが、騎手紹介式直前の5Rでアクシデントが発生。1コーナーで3頭の落馬事故があり、塚本征吾騎手が負傷した。装鞍所一帯は緊迫感に包まれ、時間を要したことと人馬の命に関わる状況から、ゴール前での騎手紹介式は中止になった。6R後、装鞍所前に騎手が並んで記念撮影だけ行われた。

8R、田口騎手騎乗のシューラヴァーグが1着でゴール

 レースは2戦で、ファイナルラウンド進出を目指して若いエネルギーが爆発。第1戦の8R、中団で脚をためていた田口騎手騎乗の2番人気・シューラヴァーグ(加藤幸保厩舎)が7番手から鮮やかに差し切り勝ち。抜け出した瞬間、スタンドから大きな拍手が湧き起こり、最後は後続を4馬身引き離した。2着争いは横一線となったが、兵庫の長尾翼玖騎手が先着。ハナ差で笠松勢の長江騎手が3着、松本一騎手は5着で続いた。 

8R優勝馬のシューラヴァーグと田口騎手(右)

 ■「笠松でデビュー初勝利、YJSでも勝たせてもらった」

 田口騎手は装鞍所に戻ってくると厩舎関係者から「おめでとう」の祝福を受け、貫太スマイルがはじけた。「ファイナル」をグイッと引き寄せ、次のレースで5着以内が進出条件となった。

 取材エリアで田口騎手は「前走で乗っていた松本一心君から馬の特徴を聞いていました。(出遅れるなど)ちょっとずぶい馬のようでしたが、ゲートをそこそこ出てくれて、道中も手応え良く走ってくれた。最後は突き放したんで、馬の調子がすごく良かったし、強かったです」と喜びを語った。

1戦で勝利を飾り、満面の笑みの田口騎手

 岐阜県岐南町出身で、両親は笠松競馬の元ジョッキーでもあり、笠松競馬場は小さい頃から慣れ親しんできた場所。「地元でデビュー初勝利を決めさせてもらい、YJSでも勝たせてもらって良かったです。笠松ではいい思い出があり、次も頑張りたい。ファイナルに行きたいです」と第2戦へ闘志を燃やした。

 東西を通じてトライアルラウンド最終戦となった10R。アンタノムスメ(伊藤強一厩舎)に騎乗した田口騎手は積極果敢に逃げて2着に粘り込んだ。最後は佐賀・山田義貴騎手騎乗のタイセイグリード(後藤佑耶厩舎)にかわされたが、ファイナリストの座をしっかりと手中にした。

YJS笠松ラウンドで勝利を飾ったJRAの田口貫太騎手(左)と佐賀の山田義貴騎手(笠松競馬提供)

 ■父の田口輝彦調教師から「良かったやん」

 ファンの前で表彰式が行われ、ポイント争いでは「JRA勢の9位だったので、あまり気負うことなく乗れました」と振り返った。1戦目、乗り慣れた笠松で勝利(通算7勝目)を飾ってファイナル圏内に迫った。騎乗ぶりを見守った父の田口輝彦調教師からはレース後「良かったやん」と言われたそうで、気合を込めた最終戦2着で逆転につなげた。

 詰め掛けたファンに対しては「デビューしてまだ半年ですが、よく笠松にも来させていただいています。たくさんの応援が届いているのでとてもうれしく思っています」と温かい声援に感謝。装鞍所前に戻ってくると「ファイナルに行けることになり、中山競馬場でも初めて乗れるので良かったです」と喜んだ。翌日も笠松で3鞍の騎乗があったが、翌朝の攻め馬のため栗東へ戻った。

 3月にデビューした田口騎手。JRAの同期では最多の23勝を挙げており、目標の30勝達成とともに「最多勝利新人騎手」も十分に狙える勢いだ。上位人気馬での安定感は抜群で、騎乗技術の向上に向けて「一つ一つ変えていけるところがあったらと日々精進しています」と力を込めた。今月1日の阪神最終レースでは、11歳馬マイネルプロンプトでJRA平地最高齢勝利記録を11年ぶりに更新する快挙も達成した。

8Rは2着争いが大接戦。長江騎手(2)は3着に突っ込んだ

 ■長江騎手3着でラストチャンスに全力

 一方、笠松勢の3人はYJS総合ポイントで15~17位と厳しい戦いが続き、地元でのラストチャンスに全力を尽くした。

 長江騎手は8Rで3着に突っ込んで、わずかにファイナル進出の可能性が残った。前走で出遅れたアナベル(笹野博司厩舎)に騎乗。「ゲートの中で落ち着きがない感じだったんで、出たなりで最後は大外を回せば」と後方待機。4コーナーではまだ7番手だったが「直線を向いたら伸びてくれて、2着に上がれるかも」と必死に追った。2~4着がハナ、ハナ差の大接戦。「もうちょっと前で運べればと思いましたが、しょうがないですね」と3着の結果には満足。「馬が頑張ってくれました。次も展開次第でチャンスがあるかも。持っている自分の力を出し切って頑張ります」と意欲を示した。

 ■2戦目6着「僕の腕がないからです。また来年ですね」

 サバイバル戦となった10R。長江騎手はファイナル進出には勝つしかなかったが、中団につけたまま、最後の直線で脚を伸ばすことができず6着に終わった。レース後は言葉を絞り出し「僕の腕がないからです。また来年ですね」と悔しさをにじませた。「負けるにしても見せ場がなかったのが残念で、反省が残るレースでした」。技術面やメンタル面については「馬のことを知るとか、レースを覚えることなど全てにおいて、騎手として勝負かなと思います」とさらなる成長を誓った。(3着、6着で総合13位)

1戦目で健闘した長江騎手(右)と松本一心騎手

 長江騎手はデビュー以来、2度の落馬事故で長期療養を経験してきた。今年は大きなけがなどなく無事に騎乗できている。3頭の落馬事故があった5Rではヒヤリ。長江騎手も騎乗していたが「最初に落馬した森島さんの馬の後ろでしたし、ちょっと接触もありましたが、僕は大丈夫でした。怖かったですし、2コーナーを回って(手綱を)引っ張っていて恥ずかしかったです」と落馬回避のシーンを振り返った。森島貴之騎手と東川慎騎手はその後のレースでも騎乗した。塚本征吾騎手は病院に搬送されたが「骨折などなく次開催の名古屋から騎乗予定」とのことで良かった。

 「競馬は気が抜けないなあ」との思いを強くした長江騎手。現在、地方通算57勝で、来年3月までに「101勝」を達成できなければ、次回もYJS出場となる。「(勝ち星を重ねて)出ないことが一番ですが、恐らく来年も出ると思いますし、また頑張りたいです」。ルーキーの松本一心騎手と「また来年もあるからなあ」と2人で慰め合って苦笑いを浮かべていた。

 YJS出場騎手のポスターでは「センター」を務めたが、残念ながらファイナルには進めず予選敗退となった。それでも、5月にはテレビのものまね番組にも出演し、人気上昇。14日の「笠松けいば秋まつり」では、ものまねショー(佐々木朗希&大谷翔平選手)やチャリティーオークションなど「妙に僕だけ出演が多いですね」と注目を浴びる存在に。サイン会や記念写真などでも笠松、名古屋の騎手たちが盛り上げてくれる。

クレールアドレに騎乗し、パドックから返し馬に向かう松本一心騎手

 ■松本一心騎手、思い切ったレースで健闘

 松本一心騎手は8R、差し馬で後方待機策から思い切ったレースで健闘した。「ペースが遅くて頭数も多いので、なかなか難しかったです。騎乗馬の癖は東川慎先輩に聞いていて展開も向いたんですが、最後に外から来た3頭に一気にかわされました」。2着もあるかというゴール前だったが「俺の外にいるのかという感じでした」と横一線の2着争いを振り返った。

 10Rではクレールアドレ(伊藤勝好厩舎)に騎乗。お父さんの松本剛志騎手がいつも乗っていて、一心騎手も1回勝ったことがある馬。5番手から4コーナーでは3番手に上がって、いいポジションを取った。「これは一発あるかな」と期待を抱かせた。「『勝つしかない』と3コーナーから早めに行きました。見せ場はつくったんですけどね」。最後の直線で伸びなかったが「悪いレースじゃなかったし、自分らしいレースはできた」と振り返った。(5着、9着で総合15位)

笠松ラウンドでYJS参戦は最後になった深沢杏花騎手

 ■深沢騎手は1番人気で8着、苦笑い

 深沢騎手はこれまで参戦したYJSでは、くじ運に恵まれず下位人気馬ばかりだったが、今回はまずまずだった。

 8Rではシュガーエンジェル(伊藤勝好厩舎)に騎乗し、1番人気に推された。「印は付いているけど、普段乗っている松本剛志さんには『ないだろうな』と言われていて『息が持たないかな』と思ったそうだ。楽な感じで3コーナーで先頭に並びかけたが、4コーナーでは脚が上がった。「ペースが速かったこともあるんですが」と最後は失速し、苦笑いだった。深沢騎手はこれでYJSでの戦いを終えた。(8着、10着で総合17位)

 深沢騎手が今後の目標とするのは、地方競馬で活躍する女性騎手による「レディスジョッキーズシリーズ2023」だ。盛岡ラウンド(11月21日)に続いて笠松ラウンド(来年3月8日)が実施され、地元開催ということで深沢騎手も好結果を残したい。

シルバーリングに騎乗し7着。2年連続のファイナル進出はならなかった浅野皓大騎手

 ■浅野騎手も最後の挑戦、「次は全国交流で」

 羽島市出身の愛知・浅野皓大騎手は8Rのみの騎乗で8着に終わった。昨年は大逆転でファイナルに進出し総合5位と活躍したが、今回で最後の挑戦となった。ここまでYJSを戦ってきた感想は「楽しかったです。来年は大きいところを取れたらなあと思います。ペップセ(笠松重賞2勝)で、全国交流でも頑張りたいです」と意欲を示した。

YJS笠松ラウンド出場で闘志を燃やす若手ジョッキー11人

 ■ 西日本は浜尚美騎手(高知)と松本大輝騎手(JRA)トップ通過

 西日本地区は笠松ラウンドでファイナリストに次の8人が決まった(総合P=ポイント=で上位4人ずつ)。

 地方勢①浜尚美(高知)85P②長尾翼玖(兵庫)59P③大畑慧悟(愛知)53P④岡遼太郎(高知)50P

 JRA勢(栗東)①松本大輝100P②小沢大仁90P③角田大和80P④田口貫太68P

 浜騎手は地方競馬の女性ジョッキーでは初めてのファイナリスト。JRAの河原田菜々騎手(栗東)は追い抜かれて総合5位。今村聖奈騎手は笠松2戦目で3着に入ったが、総合6位でファイナル進出を逃した。

 笠松ラウンドがトライアル最終決戦となり、明暗が分かれた。第1戦の2着でファイナル進出を決めた長尾翼玖騎手(兵庫)は「ファイナルでも頑張ります。落ち着いて乗りたいですね。同期でもある岡騎手と行けるんで良い思い出づくりにもなります。笠松競馬場の印象は初騎乗でしたが、高知よりも乗りやすかったですし、砂がきれいでした」と語った。佐賀勢の青海大樹騎手は第1戦4着でファイナル進出の可能性を残していたが「毎年、佐賀の騎手がファイナルに進出していたので、1人ぐらいは」と話していたが、第2戦7着で敗退となり、残念そうだった。

10Rは山田義貴騎手騎乗のタイセイグリードが制覇。2着に田口騎手、3着に今村聖奈騎手が続いた

 佐賀勢では10Rで完勝した山田義貴騎手が「最後に勝てて良かったです。笠松初騎乗での勝利で、笠松競馬場が好きになりました」と喜びを語った。1着で30ポイントを加算したが、総合5位でファイナルには惜しくも届かなかった。

 YJSファイナルラウンドは、12月14日に川崎競馬場、16日に中山競馬場で開催される。笠松勢のファイナル進出は2017、18年に渡辺竜也騎手が出場して以来、遠ざかっている。来年は新たに新人2人がデビューするので、笠松からは4人でのチャレンジとなりそうだ。


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