産婦人科医 今井篤志氏

 高齢化が進み、「ロコモティブシンドローム(ロコモ)」「サルコペニア」という言葉を耳にする機会が増えてきました。ロコモは移動機能の低下、つまり動けなくなる状態を指しますが、その原因の代表的なものに筋肉量の減少(サルコペニア)があります。筋肉の維持にはタンパク質の摂取がとても重要です。

 私たちが生きていくためにはタンパク質、糖質、脂質の三大栄養素が不可欠です。食物に含まれるタンパク質は消化酵素でアミノ酸に分解され小腸で吸収されます。取り込まれたアミノ酸は体内の各部位に運ばれ、体を構成する筋肉や内臓のみならず、ホルモンや酵素など生理作用を持つタンパク質に再合成されます。

 食物のタンパク質は、植物性タンパク質と動物性タンパク質に分けられますが、タンパク質の種類によって、アミノ酸の組成や消化吸収にかかる時間などが異なります。アミノ酸は、食事からしか取れない必須アミノ酸(9種類)と、体内で合成できる非必須アミノ酸(11種類)に大別されます。

 アミノ酸はタンパク質の材料になる成分です。しかし、体内で作られない必須アミノ酸のうち一つでも不足すると、それを材料に含むタンパク質が十分に合成されません。おけの水に例えるとよく分かります=図=。おけの水はおけ板の最も低い高さまでしかたまりません。つまり、他のアミノ酸が豊富にあっても、必須アミノ酸の量が一番少ない1種類の量(図の場合、アミノ酸6)に合わせた分しか、タンパク質が作られません。

 タンパク質の再合成に使われなかったアミノ酸は貯蔵できません。余ったアミノ酸はエネルギー源として使われるほか、脂質や糖質の合成、他のアミノ酸の合成など、本来の役割とは異なる用いられ方をします。

 理想的な食物タンパク源の目安として、必須アミノ酸のバランスが重要です。動物性タンパク質はこのバランスが優れていますが、肉類は脂質やコレステロールも多く、動物性だけを取っていればよいというものでもありません。一部を大豆などの植物性タンパク質に置き換えれば理想的なタンパク源となります。

 アミノ酸は最終的に老廃物である尿素になります。この尿素をろ過して体外に出しているのが腎臓です。腎機能が低下している場合には、必須アミノ酸をバランス良く含む良質なタンパク質を必要な量だけ摂取し、腎臓の負担を軽くします。

 筋肉は使わなければ、痩せ細りタンパク質が失われます。菓子パンとコーヒーで昼食を済ませ、階段を上らずエレベーターを使う人は筋肉がどんどん減ります。筋肉の原料となるタンパク質に富んだ乳製品や豆料理を昼食に選び、移動には階段の上り下りと早歩きを習慣とすれば、しっかりと筋肉を作れます。自分の年齢や生活習慣を見直して、意識的に「筋肉貯金」を増やすようにしましょう。

(松波総合病院腫瘍内分泌センター長・羽島郡笠松町田代)