昨年の12月2日の夕方、憂鬱(ゆううつ)な気分でX(旧ツイッター)をスクロールしていたら「石坂浩二さんトークショー」というポストが流れてきた。驚きのあまり二度見する。以前書いたが私は石坂浩二さんの大ファンであり、もうファンになって四半世紀経(た)つ。それを熱く語る私に「野口さんのそれ、もはや業だね」とツッコミを入れる友人まで現れたが、未(いま)だ、一度も生の石坂さんを見たことはない。見ると、トークショーは12月2日午後2時、3日午後2時に横浜市のたまプラーザで石坂さん主催の「ろうがんず展」というプラモデル愛好家の展示の中の催し物の一つだという。
つい母に連絡。「へえ、そんなのあるんだ」「どうしよう」「どうしようって?」「行こうかなって」「明日いきなり?」「横浜なら日帰りできるし」「うーん、自由にするといいよ」。気持ちはもう、行く方にしっかり傾いている。また別の友人に相談。「ガンガンに背中押して欲(ほ)しいんですけど、明日石坂浩二のトークショーがあるんですけど」「おお! 行きんしゃい! 今日はカフェインもアルコールもとっちゃダメだよ!」。また別の友人。「もうパックして早く寝な」
そんなわけで自主的に背中を“ガン詰め”してもらい、もしサインがもらえたらと「石坂浩二自伝」「石坂浩二作品集」をカバンに詰め、翌日朝、私は当たり前のように新幹線に乗っていた。たまプラーザまではあっという間で、着いた途端、会場からマイクを通じた石坂さんの声がする。ドキドキしながらいくと「動く車の模型」体験が行われており、その中継をしている。もう、10メートル先に石坂さんがいるのだ。えいやっと親子連れに紛れながら模型を走らせる。無事完走。景品のうまい棒と完全お子様用の玩具を貰(もら)い、その後は「ろうがんず展」を拝見し、ミニフィギュアの色付けをしているうちに「ろうがんず」のメンバーに繋(つな)いでもらい、本にサインとお話もさせていただくことができた。大快挙である。
しかし、少し後悔していることがある。11月は食欲が増進し、やや太ってしまっていたのだ。もし、これが2週間前に知っていたら、ダイエットもバッチリ決めたのに。そう、夢はいつ叶(かな)うかわからない。推しとの邂逅(かいこう)のために常に最高のコンディションで生きていかねば。もちろん今年のろうがんず展も行く予定だ。それまでにダイエットはもちろん、内面の自分磨きもしっかりしておきたい。
岐阜市出身の歌人野口あや子さんによる、エッセー「身にあまるものたちへ」の連載。短歌の領域にとどまらず、音楽と融合した朗読ライブ、身体表現を試みた写真歌集の出版など多角的な活動に取り組む野口さんが、独自の感性で身辺をとらえて言葉を紡ぐ。写真家三品鐘さんの写真で、その作品世界を広げる。
のぐち・あやこ 1987年、岐阜市生まれ。「幻桃」「未来」短歌会会員。2006年、「カシスドロップ」で第49回短歌研究新人賞。08年、岐阜市芸術文化奨励賞。10年、第1歌集「くびすじの欠片」で第54回現代歌人協会賞。作歌のほか、音楽などの他ジャンルと朗読活動もする。名古屋市在住。