地方競馬通算5000勝達成の喜びに浸る岡部誠騎手(名古屋競馬提供)

 スタンドの若いファンの間で「誠ちゃん」と呼ばれ、ここ一番で勝負強さを発揮してくれる頼りになる男。笠松競馬場での騎乗も多く、勝利数は5000の大台を突破した。「東海の帝王」へと駆け上がった名手が「大井の帝王」超えもぼんやりと視野に入れて、さらなる挑戦へと歩み始めた。

 名古屋の岡部誠騎手(藤ケ崎一人厩舎)が3月21日、笠松3Rで「地方競馬通算5000勝」を達成した。1番人気のキタノランディ(牝4歳、田口輝彦厩舎)で鮮やかに抜け出し、2万6307回目の騎乗で東海公営初の記録に到達した。

 ■全国リーディングトップを快走中

 今年は既に97勝(4月11日現在)を挙げており、全国リーディングトップを快走中。名古屋で65勝(1位)、笠松で32勝(2位)と白星を量産し、通算5021勝とした。昨年は270勝で、このまま毎年250勝以上積み重ねていけば、1月に7424勝目を飾った「大井の帝王」の愛称で親しまれる的場文男騎手(67)の日本記録を、早ければ10年後にも超える可能性がある。

笠松でキタノランディ(田口輝彦厩舎)に騎乗し、5000勝を達成した岡部騎手(名古屋競馬提供)

 5000勝達成は地方競馬では史上7人目の快挙。現役では的場文男騎手、川原正一騎手(65、笠松→兵庫)=5822勝=、山口勲騎手(54、佐賀)=5326勝=に続いて4人目。的場騎手が5000勝を達成したのが49歳時。山口勲騎手は51歳で、川原騎手は56歳で到達。岡部騎手は現役では最年少の47歳でのクリアとなった。

 同期の赤岡修次騎手(47、高知)は4539勝。森泰斗騎手(43、船橋)は4241勝、吉村智洋騎手(39、兵庫)は3381勝。岡部騎手に続く存在で、最多勝記録更新の可能性がある。

 ■岡部騎手、笠松だけでも軽く1000勝超え

 岡部騎手は愛知県刈谷市出身。1994年10月16日、デビュー2戦目でセルリアンフェリアに騎乗し初勝利を飾った。重賞は名古屋グランプリ(JpnⅡ)4勝、オグリキャップ記念5勝など計124勝。中央で19勝、海外(韓国、マカオ)では26勝。2022年には「ジョッキーズチャンピオンシップ」で総合Ⅴを飾り、全国地方騎手の王者にも輝いた(藤原幹生騎手が準優勝)。

オグリキャップ記念は5勝。2018年、エンパイアペガサスで圧勝した岡部騎手と喜びの関係者

 ジョッキー不足の笠松にも多く参戦し、レギュラークラスの活躍を見せ続けてきた。1998年以降の記録では99年に1勝を挙げると2010年に92勝。21年には笠松リーディングも奪取した。5000勝のうち笠松では何と1071勝も挙げており(4月11日現在1078勝に)、向山牧騎手、藤原幹生騎手に続く勝利数である。

 笠松の重賞戦線では存在感抜群。「ミスターオグリキャップ記念」と呼べる活躍ぶりで、ヒシウォーシイで連覇。競馬界レジェンドのアンカツさんから花束を贈られるシーンも目立ち、印象深い。笠松グランプリと東海ゴールドカップも2勝ずつ。最近では名古屋の馬が力上位で、笠松のウイナーズサークルでは岡部騎手の登場が多く、南関東などの厩舎からの信頼も厚い。

5000勝達成で笠松のジョッキー仲間らに祝福される岡部騎手(名古屋競馬提供)

 ■「馬という主人公を大切にし、フェアに安全に」

 笠松のレースで大台達成後、「祝5000勝!岡部誠騎手」の口取り記念撮影が行われ、笠松・名古屋のジョッキー仲間らが祝福した。名古屋勢の節目の勝利が笠松で達成されることが増えており、調教師の先生たちも岡部騎手の快挙をたたえた。

 名古屋競馬場でのセレモニーは3月27日に開かれた。岡部騎手は「自分でもびっくりしています。レースでは悔しいことや悩むこととかも多いですが、馬に携わってくださっている方々が喜んでくれることで、励みになって騎乗しています」と笑顔で話した。

 さらに「馬という主人公がいてお世話になっており、馬を大切にして競馬ではフェアに安全に勝つということを一番にしています。自分のできることで毎日の騎乗を全うするだけです。ここにいる名古屋のジョッキーとともに、名古屋、東海競馬を盛り上げていけるよう頑張ります」と5000勝を達成した喜びとともに、競馬を愛し感謝の気持ちをファンや関係者に伝えた。

 これからの目標については「どうなるんでしょうかね。僕もこの先どうなるか知りたいですけど」とのことで、落馬事故によるけがなどなく、調教やレースでの日々の騎乗に全力を尽くす構えだ。

「NARグランプリ2023」特別賞を受賞した的場文男騎手(NAR提供)

 ■まだ47歳の岡部騎手、何勝まで到達するのか

 5000勝以上で引退したジョッキーは3人で、「鉄人」佐々木竹見騎手(川崎)7151勝、石崎隆之騎手(船橋)6269勝、鮫島克也騎手(佐賀)5054勝と続く。アンカツさんは地方で3353勝、中央で1111勝。笠松現役では向山牧騎手(新潟・三条→笠松)が地方3750勝、中央11勝と素晴らしい記録を残してきた。

 67歳で通算7424勝の的場騎手は、地方最多勝記録を更新中。もし47歳の岡部騎手が的場騎手の年まであと20年騎乗したら、何勝まで到達することやら。応援するファンにとっても果てしない夢は続く。4000勝から5000勝まではわずか3年5カ月でクリア。ジョッキーは40~50代でも第一線で輝き続けることができる。的場騎手も46歳の363勝をピークに53歳まで200勝以上、62歳まで100勝以上を続けた。

 ■的場文男騎手「辞めたら暇になるからね」

 ジョッキーライフ半世紀を超える的場文男騎手はここ3年は49勝、29勝、28勝。7400勝達成時には「引退もそろそろ考えているが、辞めたら暇になるからね」と健在ぶりを示していた。昨年10月16日、初騎乗から半世紀の節目には「いつまで騎乗できるか分かりませんが、やれるところまで乗っていこうと思っています」と闘志。今年は騎乗数が減って、1月の1勝のみとさすがにスローダウン。ほぼ大井限定となり、ここ2カ月間は騎乗がない。

 今年2月には「NARグランプリ2023」特別賞(4回目)を受賞した的場騎手。「一つ勝つのもこんなに難しいんだから、7400勝以上勝てたのは競馬関係者の方々、ファンの皆さんに感謝の気持ちでいっぱいです」と喜びを語った。最年長勝利記録と最多勝利数記録を塗り替え、ファンの声援に応え続けている。

2022年にはタニノタビトで岐阜金賞も制覇し、東海3冠ジョッキーの座に輝いた岡部騎手

 ■追いっぷりも若々しくてエネルギッシュ

 岡部騎手は見た目も追いっぷりも若々しくてエネルギッシュ。4場ある南関東の騎手並みに、東海公営(名古屋、笠松)で精力的に騎乗し、NARの「ベストフェアプレイ賞」を2年連続で受賞。騎乗スタイルでは模範を示し、若手のラフプレーに対しては厳しく指導する熱い男だ。笠松では一昨年、タニノタビトで岐阜金賞を制覇して「東海3冠馬」に導き、最高のスマイルを見せてくれた。

 年間騎乗数は1200回以上の岡部騎手。ここ3年は298、299、270勝と全国トップ5をキープ。今年は課題としていた初の年間300勝突破も十分狙えるハイペース。全国リーディングについてはかつて「そりゃ取れるもんなら取りたいですよ」と意欲を見せていた岡部騎手。吉村智洋騎手、森泰斗騎手や笹川翼騎手(大井)とのリーディング争いはモチベーションにつながり、今年は「全国制覇」の大きなチャンスでもある。

 ジョッキー不足の笠松で騎乗依頼が多いことも追い風になって、3年前には名古屋、笠松の両リーディングを獲得する快挙も達成。17年以降は7年連続で200勝以上を挙げており、いつか的場騎手の最多勝記録を更新できるのでは。

 もし今後10年間、250勝ペースを積み重ねたとしたら、的場騎手の大記録に近づき、追い越すことも可能だろう。「東海の帝王」が「大井の帝王」超えを成し遂げる大記録のゴールは、5000勝のように笠松競馬場で達成されるかもしれない。

和気あいあいと東川慎騎手の地方競馬通算200勝達成を祝ったセレモニー

 ■東川慎騎手200勝「ここでリーディングを」

 笠松競馬の新年度初日には、ルーキー明星晴大騎手の紹介式をはじめ、セレモニー3連発となった。

 東川慎騎手は3月18日に地方競馬通算200勝を達成した。デビューから2377戦目、デイライト(牡4歳、加藤幸保厩舎)に騎乗し、1番人気で逃げ切った。

 200勝達成セレモニーでは「必死でした。とてもうれしかったです。地元なので、ここでリーディンを取れるように頑張りたい」と意欲。年々勝ち星も増えており、 ファンには「下手な競馬をしたり、接戦で負けてしまいますが、温かい目で見守ってください。これからも応援をお願いします」と呼び掛け。色紙やグッズへのサインなどで交流を楽しんでいた。

セレモニーでファンと交流し、笑顔の東川騎手

 レース自粛明けのここ2年は57勝、59勝と白星を増やしており、今年は3ヵ月余りで24勝と好ペース。6年目の若手として100勝以上を狙える立ち位置にあり、笠松競馬関係者の期待は大きい。単勝回収率135%、複勝回収率は104%と高率でファンも注目し、名古屋での騎乗依頼も増えている。人気薄で騎乗することも多いが、8枠から大外一気の競馬で穴馬を勝たせている印象が強い。名古屋では今年3勝。9番人気で最後方から差し切った豪快なレースもあった。

 明るいキャラと時々見せてくれる「変顔」のパフォーマンスでも目立っており、「笠松の太陽」とも呼ばれるユニークな存在。まだ24歳で大きく飛躍する潜在能力を持ち合わせており、さらに腕を磨いて渡辺竜也騎手を追撃していきたい。

渡辺竜也騎手の地方競馬通算800勝達成を祝ったセレモニー

 ■渡辺竜也騎手800勝「9個全部勝てる日が来たらいいな」

 その渡辺竜也騎手は3月21日、自厩舎のコンバットトーラス(牡3歳、笹野博司厩舎)に騎乗し、4番人気で逃げ切り、地方競馬通算800勝を達成した。4703戦目での到達。岡部騎手5000勝と同日の達成となった。

 800勝達成セレモニー。「地元ファンの前で達成でき、すごく良かったです」。この日6勝を挙げ「3頭負かせてしまったので、9個全部勝てる日が来たらいいなと」。8年目のシーズンに入り、今後の目標は「いつまでも若手の気分だったんですけど、後輩も入ってきて、うかうかしてられないので、気を引き締めて先輩として頑張っていきたいです。僕だけじゃなくて騎手みんなが、より一層頑張ってるので応援よろしくお願いします」と呼び掛け。ファンと握手をしたり、サインをするなどして交流を深めていた。

セレモニーでファンと握手を交わす渡辺騎手

 昨秋の落馬負傷で今年は1月後半から騎乗。3月末までに41勝。騎乗機会8連勝の快記録を達成。4月初日にも6勝をマークするなど4日間で計16勝と笠松のエースとして抜群の成績。けがなく順調に騎乗できれば今年は初の「200勝突破」も十分に狙えそうだ。

 今年も爆発的に勝ち星を伸ばす「笠松の若大将」。重賞はこれまでストーミーワンダーでの3勝など計9勝。ファンの心をワクワクさせてくれる頼もしい存在で、将来どんな記録を達成していくのか。これまで、けがや病欠はあったが、毎年フルシーズン騎乗できるよう体力強化に努めて乗り切ってもらいたい。

 ■ワラシベチョウジャ8着、キャッシュブリッツは駿蹄賞トライアル制覇

プリンシパルカップをキャッシュブリッツで制覇した渡辺騎手(笠松競馬提供)

 名古屋での「ネクストスター中日本」では、笠松のワラシベチョウジャに騎乗した渡辺騎手。4番手で3コーナーを回ったが、最後の直線では息切れし、まさかの8着。初馬場で1500メートル戦への対応力に欠けたレースとなった。2歳時にはネクストスター笠松を圧勝するなど「地元の星」だっただけに、復活を期待したい。

 4日の3歳準重賞「第1回プリンシパルカップ」では渡辺騎手はキャッシュブリッツに騎乗。3コーナー3番手から追撃を開始する「王道」を駆け抜け。ハヤイモノガチを突き放して圧勝。笠松所属馬限定戦ではあったが、JRAから移籍3戦目で駿蹄賞トライアルを制した。名古屋・スプリングカップ5着で大器の片りんをのぞかせた逸材。新たな「笠松の星」に成長するのか。名古屋優駿、岐阜金賞へと続く東海地区クラシック3冠レースへ名乗りを上げた。

 通算800勝を達成した渡辺竜也騎手もまだ24歳。今年の勝率34.6%は全国トップ。固め打ちが得意でその勢いはすさまじい。今後毎年200勝前後を量産していければ、将来的な通算記録も楽しみになってくる。まずは赤岡修次騎手(30.7%)や吉原寛人騎手(29.8%)と争っている「NAR最優秀勝率騎手賞」を今年は獲得したい。

東海ダービーのパドックで、岡部騎手(タニノタビト)の背中を追うように周回する渡辺騎手(イイネイイネイイネ)

 ■岡部騎手の背中を追ってリーディング対決、ファンもワクワク

 800勝達成と同じ日に5000勝を達成した岡部騎手は、渡辺騎手にとっては、いつも立ちはだかる厚い壁であり、大きな目標でもある。同じレースで騎乗することも多く、コーナーでの攻防や最後の直線でのたたき合いはファンも力が入り、「どっちが勝つかな」とワクワクさせて見応えがある。

 かつてのアンカツさんと名古屋の坂本敏美騎手や吉田稔騎手のようなライバル関係を続け、熱いレースを繰り広げて東海競馬をさらに盛り上げてくれそうだ。本人は平場でも重賞でも特に意識せずに騎乗しているようだが、やはり重賞Vの重みはズシリと大きい。

 今年は笠松57勝、名古屋4勝、姫路1勝で計62勝。全国リーディングは7位。他の上位の騎手に比べて騎乗数は少ないが、勝率全国トップは素晴らしい数字。今後名古屋での騎乗も増えれば、全国トップ3にランクイン可能。前開催は29戦16勝2着5回。勝率55%、連対率72%という驚異的なハイアベレージ。笠松だけの枠には収まらない全国の重賞戦線で活躍できる名手へと成長していきたい。


※「オグリの里2新風編」も好評発売中

 「1聖地編」に続く「2新風編」ではウマ娘ファンの熱狂ぶり、渡辺竜也騎手のヤングジョッキーズ・ファイナル進出、吹き荒れたライデン旋風など各時代の「新しい風」を追って、笠松競馬の歴史と魅力に迫った。オグリキャップの天皇賞・秋観戦記(1989年)などオグリ関連も満載。

 林秀行(ハヤヒデ)著、A5判カラー、206ページ、1500円。岐阜新聞社発行。笠松競馬場内・丸金食堂、ふらっと笠松(名鉄笠松駅)、ホース・ファクトリー、酒の浪漫亭、小栗孝一商店、愛馬会軽トラ市、岐阜市内・近郊の書店、岐阜新聞社出版室などで発売。

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