復帰2日目に6勝を飾った渡辺竜也騎手。最終レース後、検量を終えて晴れやかだった 

 笠松競馬の若大将が「1日6勝」の固め勝ち。V字の勝負服姿はやっぱり「Vゴール」がよく似合っている。

 負傷療養中だった渡辺竜也騎手(21)が1月25日から復帰し、約3カ月半ぶりの勝利を飾った。笠松競馬・睦月シリーズ初日4R、6番人気のトーセンオリジン(牡5歳、後藤正義厩舎)に騎乗し、5番手から豪快に差し切った。2日目には、JRA交流競走を笠松所属馬フレンドショコラ(牝3歳、加藤幸保厩舎)で制覇するなど圧巻の騎乗で勝ちまくり、応援するファンを安心させた。

 「やっぱり渡辺騎手は笠松のエースだね」というファンの声もあり、エンジン全開ともいえる復活ぶりを印象づけた。今年は1開催出遅れたが、早くも7勝。期間限定騎乗の騎手たちからも刺激を受けながら、若手のニューリーダーとして笠松競馬を引っ張っていく。

 渡辺騎手は昨年10月、自己最高の1開催12勝を挙げるなど絶好調だったが、調教中の落馬事故で左腕を骨折。戦線を離脱していた。騎手不足の笠松競馬にとって、長江慶悟騎手に続く2人目の欠場は大きな痛手となった。特に渡辺騎手は昨年、笠松リーディングを快走していただけに、本人もファンも残念な思いが強かった。朝1時台からの攻め馬では、1人で33頭騎乗する日もあった。乗り手が少ない非常事態。笠松の騎手にとっては体力勝負であり、ハードなスケジュールでの「過密さ」との戦いが続き、落馬負傷の一因にもなった。

 復帰後初Vのレースでは、向正面から追い上げを開始。最後の直線では、痛めた腕の影響を感じさせない力強い追いっぷりでゴールイン。昨年10月8日にスーチャンで勝って以来、109日ぶりの白星となった。1Rでは1番人気馬で期待に応えられず3着だっただけに、ホッとしたことだろう。2着に4番人気馬が入り、馬単は1万6300円と高配当になった。

 人気と実力を備えた若手ジョッキーだけに、自厩舎をはじめ各厩舎からの騎乗依頼は多く、復帰初日から6頭、2日目には8頭に騎乗。負傷明けでまだ万全ではないだろうから、乗りながら徐々に完全復活へつなげていきたい。

JRA交流レースの端月賞で中央勢を圧倒。フレンドショコラで差し切りVを決めた渡辺騎手

■骨がポキポキと鳴ってました

 自己最高の1日6勝を飾った渡辺騎手。2日目の最終レース後、検量を終えると「お久しぶりです」とすがすがしい表情で声を掛けてくれた。復帰後の手応えや今年の目標などを聞いた。

 ―きょうはすごかったね。勝利の味はどうですか。
 
 「いいですよ。タイミングが良かったですね。きょうはいい馬に乗ってるなあと思っていました」
 
 ―けがの具合はどうか。

 「不安がないと言えば、うそになりますが。初日なんか、馬を追ってて骨がポキポキと鳴ってましたし、気持ち悪い感じはありますが。レースに行っちゃえば、アドレナリンが出るといいますか、支障ないです」

 ―ビシビシと追えているね。
 
 「そりゃ、お客さんに見られていて、不安ぽいところがあったら失礼じゃないですか。『100%』で乗れる状態で復帰しているので」

 ―少しは痛みがありますか。
  
 「それはあります。レース中は大丈夫ですけど、次の日の攻め馬中とか、夜とかちょっと痛むんですよね。でもこのぐらいだったら問題ないです」

 ―騎乗できない間はどう過ごしていたか。
 
 「リハビリと、走れるようになってからはランニングに行ったりして体力づくりをしてました。室内で腕を伸ばしたりして」

  ―ゲームとかもしてたのかな。
 
 「何してたっけなあ。特にこれといった事はしてなくて、ただ平凡に日常安静にしてましたよ」

■期間限定騎乗の若手にも刺激を与えたい

 ―復帰まで結構長かったよね。

 「昨年10月後半からで約3カ月も休ませてもらって。復帰は2月からかなあと思ってましたが、ちょっと焦り気味でした」
 
 ―昨年はリーディングのチャンスだったが。

 「そうですね。逃しちゃったんで、今年はちょっと意識して頑張ろうかなあと」
 
 ―2日目時点で7勝。リーディングのトップに近いですね。

 「松本さんが前開催6勝で、初日に2勝されたんでね。僕は3、4日目の騎乗が少ないですが、何とかしたいです」

 ※松本剛志騎手は4日目までで今年10勝。笠松での2度の期間限定騎乗を経て完全移籍し、勝利を積み重ねている。

 ―コロナで休んでいる騎手もいるから、変更で騎乗が回ってきそうだね」

 「乗せてもらえたら、もちろん全力で頑張りたいです。負けても、けがのせいにはしたくないんで」

腕のけがから3カ月ぶりに戦列復帰。力強い手綱さばきで勝利を量産した渡辺騎手の返し馬

 ―北海道などから期間限定騎手が来てますがどうですか。

 「休んでいる間も乗ってましたから、いろんな先輩から自分に足りないものを探して盗めればなあと。高知とかは若手ですけど(妹尾将充騎手)。笠松に来て『何も学べませんでした』で帰らせてはいけないんで。(他地区の)若手にも刺激を与えて、帰ってもらわないとね」
 
 ―青柳さんは金沢のリーディングだけど。きょうは渡辺騎手の後ろで2、3着のレースが多かったですね。

 「たまには勝たせてもらわないとね。生活かかってますから。青柳さんは金沢でたくさん勝っているんでいいですね」

■お客さんを少しでも取り戻したいし、人気薄をどれだけ持ってこれるかが競馬の面白み

 ―昨年は不祥事に揺れたが、今年の笠松競馬をどうしていきたいですか。

 「いなくなったお客さんを少しでも取り戻していきたいですね。まだ『笠松は良くない』みたいな声を聞くんで。そういうのは、ちょっとずつなくしていかないとね。でも面白い競馬って、人気馬が勝つ競馬じゃないですよね。やっぱり人気薄をどれだけ持ってこれるかが面白みだと思うんで」

  ※前日には6番人気の馬で勝って、万馬券を演出した。
 
 「(競馬場では)やじってくるのを全部なくすことはできないじゃないですか。でも一生懸命乗っていれば、お客さんも自然と付いてきてもらえるし、見て楽しんでいると思うんで」

 ※ファンからは厳しい声もあるだろうが、笠松競馬のことを気にかけてくれて、馬券を買ってくれる大切な存在である。このところ売り上げも伸びている。

■中央馬に乗せてもらえなかったが、笠松所属馬で意地の勝利

 ―実況では「渡辺騎手、絶好調」とアナウンスが流れてたよ。

 「馬が絶好調なだけで。勝てるときに勝っておかないとね」

 ―でも追い込みが結構決まったね。JRA交流では後方からすごかった。渡辺騎手の騎乗馬も中央からの移籍だけど、相手はバリバリの中央馬だったから」
 
 「勝てたのは馬の力です。僕も中央の馬に乗せてもらいたかったですけど、乗れなかったんで(地元の)意地を見せていかないとね」

 ―内心やってやろうという感じだったのか。

 「もちろんそうですけど、どのレースでもそうですよ」

 ―5頭参戦した中央馬には名古屋の騎手4人が乗っていた(金沢が1人)。でも笠松の騎手は声を掛けてもらえなかった。

 「ああいうのは駄目です。笠松の騎手がどんどん乗っていかないといけないですよ。こっちの競馬場なんで、恥ずかしいことです。(僕も)まだまだですよ」

早朝の攻め馬では、後輩騎手へのアドバイスなども行う渡辺騎手

■リーディングよりも、けがなく競馬場も無事な1年に

 ―騎手として今年の目標は。
 
 「どうですかねえ。(今の自分の気持ちとしては)『リーディング』っていうのはちょっと違うと思うんですよね。それは開催リーディングの積み重ねで取れるじゃないですか。昨年、散々な競馬場のトラブルとかあったんでね。1月は初っぱなに休んじゃったんですが、無事にこの1年を終えられればいいかなあと思いますね。(不祥事など)競馬場も何事もなくね。昨年は攻め馬中に2回骨折したりしてるんで(足と腕)、けがとかに気を付けていきたいですね」

■「楽しい競馬場」をアピールしていきたい

 ―もう完全に笠松のエース的存在だね。まだ21歳だけど、若手とベテランとの中継役のようだね。
 
 「若手にはどんどん付いてきてほしいですよ。僕が真ん中ぐらいですよね」

 ―先は長いから、けがとかに十分気を付けて末永くやってほしい。みんな期待しているから。

 「そうですね。お客さんに『楽しい競馬場』ってことをアピールしていきたいです。

■深沢騎手らも好ダッシュ、渡辺騎手は笠松競馬「盛り上げ隊の隊長」

 渡辺騎手に続いて笠松でデビューした若手は東川慎騎手(21)、深沢杏花騎手(20)、長江慶悟手(22)の3人。長江騎手は今年の笠松勢最初の勝利を飾ったし、深沢騎手は今月4勝、東川騎手は3勝を挙げて好ダッシュ。ともに馬場傾向やコース取りを見極め、騎乗技術も徐々に向上しており、勝利につながる成長を見せている。白星量産かと思われた渡辺騎手だが3、4日目は2着どまりで勝利なし。他の騎手たちの頑張りが目立ち、そんなに甘くはなかった。
          

高知から期間限定騎乗の妹尾将充騎手も笠松初Vを飾って、笑顔がはじけた(笠松競馬提供)

 渡辺騎手の復帰を、長江騎手ら若手たちも歓迎。「渡辺騎手はいつも通りの調子で変わっていなくて、笠松競馬の『盛り上げ隊の隊長』ですよ。あの人がいるだけで、ここで(騎手控室)みんなめちゃ盛り上がってますよ。よくしゃべってリードしてくれますからね」。期間限定騎乗の騎手が多く加わり、「これくらい騎手がいた方が盛り上がりますよ」と喜んでいた。

 渡辺騎手からの騎乗のアドバイスについては「いまは自厩舎に弟子(期間限定騎乗の岩本怜騎手と田中洸多騎手)がいるんで、教えているようです。聞けば、馬に乗って『ここはこうした方がいいよ』などと教えてくれますよ」と。期間限定では岩本騎手や妹尾将充騎手も笠松初Vを飾って、笑顔がはじけた。レース後は、多くの厩舎関係者らから「おめでとう」と祝福を受けていたそうだ。

■コロナ禍が騎手を直撃、所属4人騎乗変更

 笠松競馬では1月24日、所属騎手(期間限定騎乗を含む)2人の新型コロナウイルス感染(PCR検査で陽性)が確認された。25~28日の睦月シリーズは、感染防止策に万全を期した上で予定通り開催された。コロナ関連で感染者のほか、濃厚接触者の疑いがある2人の騎手変更があった。他の所属騎手は抗原検査で陰性が確認された。
 
 岐阜県内での新型コロナウイルス感染者は、1月28日に過去最多の886人を確認するなど、連日高い水準で推移。飲食店の利用や飲食に関するクラスター(感染者集団)が多発した。21日から県内全域で適用が始まったまん延防止等重点措置は、営業時間の短縮や酒類の提供停止の要請に99%超の飲食店が応じている。

 笠松競馬のレース開催期間中、所属騎手は全員が調整ルーム内で寝泊まりしている。このため、感染拡大防止策を徹底。2人部屋は1人部屋に、風呂の利用人数制限、食事は食堂でなく各自の部屋に運んで食べる―などの対策が取られたようだ。

12頭立てとなった2日目最終レース、パドック前で整列する騎手たち。コロナ禍で騎手変更もあったが、1着ゴールを目指して熱い戦いを繰り広げた

■あれから1年、同じタイミングで激震

 ちょうど1年前、騎手や調教師らによる馬券の不正購入、所得税隠しが発覚。睦月シリーズから開催自粛になったが、今年はコロナ禍による激震が走った。「またこのタイミングでトラブル発生か」。対応に追われた競馬場関係者もファンも情けない思いでいっぱいになった。

 JRAでも20日にコロナ感染者が出たが、予定通りレースを開催した。笠松の騎手からは「南関東(川崎)や金沢では、騎手らのコロナ感染で開催取りやめになったことがありましたが、笠松では何とか開催できて良かったです」という声もあった。不祥事による開催自粛で、大幅な赤字となっており、これ以上の補償費などの膨張は避けたいところでもある。その後は感染者は増えずに4日間開催。馬券売り上げは連日の6億円超えで4日間トータル22億4500万円と好調だった。何とか感染は広がらず、まずは「開催を決断して良かった」といえよう。

■遅過ぎる騎手変更の発表、統合的なシステムづくりを

 コロナ禍による4人の騎手変更は初日から22人もあり、混乱は3日目まで続いた。発走1時間ほど前になって、ようやく騎手変更が発表されたが、「馬券を買いたい馬には、いったい誰が乗るんだろう」とファンも戸惑ったことだろう。場内で配布される出走一覧表や、ネット上での出馬表の事前発表(3日前)の都合もあるだろうが、この時代、大半はネット投票なのだから、もっと迅速な対応が求められるところだ。騎手変更や出走取り消しでは、今後はNAR(地方競馬全国協会)などと連携して、統合的なシステムづくりを進める必要がありそうだ。24日夜に騎手変更が判明して、3日後のレースの騎手変更が当日まで明らかにされないのは遅過ぎるし、時代遅れのように感じる。

■東川騎手、岩本騎手は無念「全日本新人王争覇戦」騎乗できず

 東川慎騎手と岩本怜騎手は1月25日、「全日本新人王争覇戦」(高知)に出場する予定だったが、出場を辞退した。前日夜に笠松所属騎手2人の新型コロナウイルス感染が発表されたためだ。地方、中央競馬の若手騎手と腕を競うチャンスだったが、非常に残念だった。2人は当日、笠松のレースに騎乗した。東川騎手は昨年のヤングジョッキーズにも騎乗できなかったし、この悔しさをバネにいつか「表彰台」につなげてほしい。

■感染者をこれ以上出さないよう、騎手ら一人一人が高い意識を持って

 通信社のニュース速報では、スポーツ選手や芸能人らの新型コロナウイルス感染が続々と流れてくる。今回の笠松競馬の騎手たちのコロナ感染は、開催初日の数日前とみられる。これがもしレース開催中に感染が判明し、「調整ルームや騎手控室内などで騎手全員が濃厚接触者となっていたら」と思うとゾッとする。まん延防止等重点措置は適用されたが、騎手ら厩舎関係者一人一人が高い意識を持って、感染防止に努めていきたい。

 今回騎乗できなかった騎手たち。期間限定騎乗の人も含まれているが、次回2月7日からの連続5日間開催では元気な姿を見せてほしい。厳しい寒さが続く季節だが、ガッツあふれるプレーで応援するファンに勝利を届けて、身も心も財布も温めてほしいものだ。