笠松競馬場内に設置されたラブミーチャンの献花台。多くのファンが訪れて、名馬との別れを惜しんだ

 待望のスターホース誕生。ラブミーチャンの全日本2歳優駿(JpnⅠ)制覇とNARグランプリ年度代表馬受賞は、経営難に苦しんでいた笠松競馬関係者を元気づけ、希望の光となった。

 有馬記念を2度制覇したオグリキャップに続く笠松出身・所属馬への「日本一」の称号。サマーセール315万円で購入され、10月にデビューしたばかりの若駒が12月には2歳日本一になるとは…。笠松発のまさに「シンデレラストーリー」。報知杯4歳牝馬特別を圧勝したライデンリーダーのように、笠松所属のままでJRA・桜花賞挑戦の夢は実現するのか。「桜の女王」となったオグリローマンの背中を追っていけるのか。

 笠松競馬場内にはラブミーチャンの献花・記帳台が設置された(13日まで)。多くのファンが訪れてお花や好物だったニンジン、リンゴなどを供えて名馬との別れを惜しみ、笠松存続につながった活躍をたたえた。11~13日にはメインレースを「ラブミーチャン追悼競走」として実施。清流ビジョンでは全日本2歳優駿Ⅴなど栄光のレース映像が流された。         

全日本2歳優駿ラブミーチャン優勝と2歳馬初の年度代表馬になったラブミーチャン

 ■最高の栄誉、柳江調教師「笠松競馬再興の光に」

 15年前、笠松競馬関係者の年末年始は「ミーチャン・フィーバー」に沸き、祝福ムードで盛り上がった。笠松競馬の90年近い歴史でも「現役所属馬が日本一」という最高の栄誉。陣営は桜花賞トライアルにも意欲を示し、大きな夢が広がった。この3カ月ほど、スターホースの誕生に現場やファンの盛り上がりは本当にすごかった。ラブミーチャンを追い掛けた岐阜新聞の記事などで当時の熱狂ぶりを振り返った。

 まず全日本2歳優駿Vは大きな朗報となり、地元をにぎわせた。クリスマスの25日、柳江仁調教師は妻さつきさんと笠松町役場を訪れ、県地方競馬組合管理者でもある広江正明町長に喜びの報告を行った。

 柳江調教師は「(訴訟など)暗い話題もあったが、ラブミーチャンの登場で笠松競馬場再興の光が差したと思う」と報告。広江町長も「多くの人に応援してもらい、競馬場に足を運んでもらえれば」とねぎらった。

笠松町役場に掲げられたラブミーチャンの全日本2歳優駿優勝を祝う懸垂幕

 迎春準備では笠松競馬場内に飾る豪華な門松を作り、関係者らが正門と東門に設置した。調教師の妻らでつくる愛馬会代表の後藤美千代さんは、ラブミーチャン優勝の朗報を受け「競馬も来場者も明るい未来になるよう、門松に願いを込めた」とほほ笑んでいた。

 ■「笠松競馬から日本一誕生、ラブミーチャン号」懸垂幕も

 笠松町役場などには、ラブミーチャンが「全日本2歳優駿」で優勝したことを祝う懸垂幕が掲げられた。県地方競馬組合は、期待の新星の活躍をアピールしようと、ビニール製の懸垂幕4本と横断幕1本を作製。「笠松競馬から日本一誕生!祝ラブミーチャン号」と書かれ、雄姿の写真もデザインされた。

 懸垂幕は笠松町、岐南町役場と恵那市の場外馬券売り場「シアター恵那」に掲げ、県庁にも配布。横断幕は笠松競馬場内のスタンド前に設置した。競馬組合では「ラブミーチャンを先頭に笠松所属の競走馬が活躍し、来場者の増加につながれば」と期待を膨らませた。

県庁で古田肇知事(左)に、ラブミーチャンの年度代表馬選出を報告した浜口楠彦騎手(右から2人目)、柳江仁調教師(同3人目)

 ■知事に受賞の喜び、浜口騎手「スピードずば抜けている」

 ラブミーチャンは2歳馬初のNAR年度代表馬にも選ばれたことから、柳江仁調教師と浜口楠彦騎手らは県庁を訪れ、古田肇知事に受賞の喜びを語った。

 柳江調教師は「ラブミーチャンのおかげ。皆さんの努力で(競馬場が)存続となったご褒美だと思う」と顔をほころばせ、浜口騎手は「スピードがずば抜けている」と愛馬を高く評価。古田知事は「(中央では)エリートでなかった馬が、笠松でエリートになった。まさに『名馬、名手の里』。今後に期待しています」とエールを送った。

NARグランプリ年度代表馬に選ばれたラブミーチャンを紹介する記念パネル

 県庁玄関ロビーには栄誉をたたえる記念パネルを設置し、全日本2歳優駿での雄姿や成績を紹介した。古田知事は「全ての笠松競馬関係者にとって大きな喜び」と祝福。「笠松競馬の経営をめぐる環境は大変厳しいが、こうしたスターホースの誕生は『名馬、名手の里笠松』の名を一層高め、笠松競馬を後押ししてくれるものと心強く感じております。オグリキャップに続く日本を代表する名馬として活躍されることを祈念します」とのコメントを出した。

 ■3連単534万7770円の笠松競馬史上最高額も

 ラブミーチャンは2月、地方馬には義務づけられている桜花賞トライアル挑戦のステップレースとして、笠松重賞「ゴールドジュニア」に参戦した。その前日には3連単534万7770円の笠松競馬史上最高額の配当が飛び出していた。570番人気で的中票数はわずか1票。競馬組合では「スターホースの登場を前に幸先良い配当が出た。多くの人に来場してもらいたい」と期待を込めた。

 ■地元でも重賞V、スターホースに熱狂

 翌日、JRA挑戦の壮行レースにもなったゴールドジュニアで、ラブミーチャンは逃げ切りVを決めて無傷の6連勝。スタンド一帯はスターホースの姿を見ようとファンが埋め尽くし、場内は熱狂の渦となった。この日の入場者数は前年の2倍超の2731人。馬券発売額も1.5倍以上の約2億1000万円となった。最近では5億円超えも珍しくないが、当時の厳しい経営状況を物語る数字でもあった。

笠松重賞・ゴールドジュニアに出走。1着でゴールするラブミーチャンに歓喜するファンら

 場内の飲食店スタッフは「5年前のオグリキャップの里帰り以来の盛り上がり」と歓迎。愛馬会によるラブミーチャングッズ販売にも長い行列ができ、Dr.コパさんのトークショーも開かれ、愛馬への熱い思いを伝えた。

 「日本一」となったスターホースの1着ゴールをライブ観戦したファンからは「おめでとう」「桜花賞へ頑張れ」などと歓声が湧き起こった。「いつもこの盛り上がりがあれば、経営不振なんて吹き飛ばせる」と競馬組合も勇気づけられた。手作りの横断幕で応援した飲食店経営の馬場文親さんは「笠松からこんな素晴らしい馬が出たなんて感激。馬券は払い戻さず、お守りにします」と興奮冷めやらぬ表情だった。

 ■アンカツさん「笠松のためにも活躍を」

 当時、中央競馬で活躍していた安藤勝己騎手も「久々の期待馬。走りを見たが(中央の)芝コースもこなせそう。笠松のためにも活躍を」とエールを送った。

 競馬組合管理者の広江正明笠松町長は「暗い話題が続いた競馬場にとって、ラブミーチャンは天の恵み。人間も頑張らないと」と喜び、快進撃を起爆剤に集客や笠松競馬の知名度アップを狙う。

柳江調教師らに千羽鶴と色紙の寄せ書きを手渡し、激励する笠松競馬ファン

 ■「明るい話題、中央競馬に乗り込んで旋風を」

 岐阜市のファンは「笠松競馬から久しぶりに大物が登場した。桜花賞に出走するには『トライアルで3着まで』とハードルはかなり高いし、芝コースへの適性も未知数。中央の強豪馬を相手にどこまで渡り合えるのか。それでも存続問題で大きく揺れた笠松競馬場には、久しぶりの明るい話題。中央に乗り込んで、旋風をぜひ巻き起こしてもらいたい」と期待を寄せた。

 オグリキャップのような地方馬が中央のエリート馬を打ち負かす雄姿に感動したというファンは「一度は中央で挫折(未出走)を味わったラブミーチャンも、重賞を勝って再現してほしい」と願った。

 ■調教師と騎手に千羽鶴を贈り応援

 協賛レースを開くほどの大の笠松競馬ファンで飲食店経営の馬場文親さんら有志は、柳江仁調教師とラブミーチャンに騎乗する浜口楠彦騎手に千羽鶴などを贈った。従業員やお客さん、競馬組合関係者に協力してもらい、二つの千羽鶴を作り上げた。

 馬場さんは「ラブミーチャンに夢と希望をもらった。勝って笠松競馬の名前を広めて」と柳江調教師らに千羽鶴と色紙の寄せ書きを手渡し激励。柳江調教師も「皆さんの気持ちが伝わるように、馬房に飾ります」と感謝の言葉を述べた。

 また岐阜バス観光は、阪神競馬場での報知杯フィリーズレビューに出走するラブミーチャンの応援バスツアー参加者を募った。

主戦の浜口騎手が騎乗し、笠松競馬場で行われたラブミーチャンの追い切り(JBCスプリント前)

 ■追い切りに全国から報道陣50人、順調な仕上がり

 デビューから無敗の6連勝。レース5日前には、笠松で追い切りを行った。柳江仁調教師は「調教は順調でタイムもいい。本番に期待してほしい」と自信をのぞかせ、桜花賞(4月11日、阪神競馬場)の優先出走権を得るために3着以内を狙う。

 この日午前7時ごろ、笠松競馬場のコースに姿を見せたラブミーチャンは、1周目を軽めに調整。3周目4コーナーから本番に近い勢いでスタンド前を駆け抜けた。小雨の中、報道陣は全国のスポーツ紙、専門紙関係者ら約50人が詰め掛け、笠松のスターホースへの注目度は高まった。やはり中央のGⅠトライアルの有力馬となると、各社の取材合戦も過熱した。

 追い切り後、柳江調教師と浜口騎手が会見。「走り方もスムーズ。これまでも結果を出してきた馬なので、強豪が集まるレースでも未知の可能性に期待したい。経営が厳しい地方競馬でも中央で通用する馬がいることを示し、地方競馬関係者の励みになれば」と柳江調教師。主戦の浜口騎手も「馬が一戦一戦力を付けており、気合も入っている。本番に向けワクワクしている」と意気込んだ。

 ■ラブミーチャン逃げ切れず12着、桜花賞への夢届かず

 報知杯フィリーズレビュー(GⅡ)は3月14日、阪神競馬場で行われ、ラブミーチャンが桜花賞出走の権利取りに挑んだ。浜口騎手はこの日の阪神で絶好調、3度も馬券に絡んでいた。6~8Rに騎乗し7、5、7番人気で3着、2着、1着と中央でも笠松仕込みの剛腕ぶりを発揮。フィリーズレビューへの期待感が充満した。

 サウスヴィグラス産駒でダート短距離血統のラブミーチャンにとって初めての芝コース(内回り)で、1400メートル16頭立て。いつものようにスタートダッシュを決めて先手を奪うとマイペースの逃げ。4コーナーを回ってもまだ先頭だ。

阪神・報知杯フィリーズレビューに挑んだラブミーチャン(左)。浜口騎手の騎乗で12着に終わり、桜花賞挑戦はならなかった

 当日はゴール前で観戦していた。3~4コーナーでは「これはいけるかも」と期待が膨らんだが、最後の直線ラスト200メートルから高低差1.9メートルの急坂が待ち構えていた。一本調子のスピードだけでは押し切れないコース。逃げ馬の馬券絡みは少なく、差し馬優勢のレースだった。

 ラブミーチャンはインで懸命に踏ん張っていたが、外から押し寄せた各馬にのみ込まれた。勝ったサウンドバリアーから1秒3差の12着。桜花賞への優先出走権は獲得できなかった。

 ■きつかった初の芝コースでの坂越え

 デビュー以来の連勝は「6」で止まった。走法は前脚のかき込みが強いタイプ。ダートのスプリンターにとって、初挑戦の芝コースで、ゴール前の坂越えはやはりきつかった。これが1200メートルなら際どく勝っていたようなレース内容で、持てる力は出し切った。

 9番人気のサウンドバリアー(渡辺薫彦騎手)が1分22秒8で優勝。ハナ差で1番人気のラナンキュラスを破った。さらにクビ差でレディアルバローザが3着。この3頭が桜花賞への優先出走権を得た。

 「ラブミーチャンが勝つときは圧勝、負けるときは惨敗も」とみられ、逃げ粘りが期待されたが、やはり最後の200メートルは長かった。経営難や土地明け渡し訴訟で笠松競馬場が存廃に揺れる中、デビュー6連勝の活躍は関係者の希望の光と期待されたが、無念の結果に終わった。ファンは「良いところまで粘っていたけどね」と健闘をたたえた。

 このレース、笠松出身の川原正一騎手(兵庫)も参戦していた。安藤勝己騎手の手綱で函館2歳S3着だったソムニアに騎乗し、11着だった。また馬名の語尾に「○○チャン」と付く馬が3頭出走しており、3頭の3連複は人気を集めた。ラブミーチャンのほか、カレンチャン(鮫島良太騎手)が8着、ハニーメロンチャン(武豊騎手)は14着だった。カレンチャンは11年にスプリンターズS(GⅠ)を制覇している。

ラブミーチャンの応援で阪神競馬場駆け付けた笠松競馬ファンたち

 ■地元ファン50人声援、中央挑戦「応援続ける」

 この日は、中央馬に挑戦するラブミーチャンを応援しようと、地元からバスツアーを組むなどしてファンら約50人が阪神競馬場に集結した。応援団は笠松競馬場オリジナルの白いタオルを掲げ「頑張れ!」「行け!」などと声を張り上げたが、ゴール前で歓声はため息に変わった。応援団の20代女性は「最後まで諦めない気持ちをありがとう。中央に挑戦したことに意味があるし、スタートはこれから。応援し続けたい」と温かい拍手を送った。

 馬主のコパさんは「今後もタイミングを見て、笠松から中央へ挑戦したい」と意欲。柳江調教師は「(芝コースや坂など)いろいろな条件がマイナスに働いた。これからは彼女の長所を伸ばして巻き返し、またファンに雄姿を見せたい」と前を向いた。(次回「最速女王、スーパースプリント3連覇」に続く)


※「オグリの里2新風編」も好評発売中

 「1聖地編」に続く「2新風編」ではウマ娘ファンの熱狂ぶり、渡辺竜也騎手のヤングジョッキーズ・ファイナル進出、吹き荒れたライデン旋風など各時代の「新しい風」を追って、笠松競馬の歴史と魅力に迫った。オグリキャップの天皇賞・秋観戦記(1989年)などオグリ関連も満載。

 林秀行(ハヤヒデ)著、A5判カラー、206ページ、1500円。岐阜新聞社発行。笠松競馬場内・丸金食堂、ふらっと笠松(名鉄笠松駅)、ホース・ファクトリー、酒の浪漫亭、小栗孝一商店、愛馬会軽トラ市、岐阜市内・近郊の書店、岐阜新聞社出版室などで発売。

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