パワースポットでもあるオグリキャップ像前

 ここは不祥事を一掃して「再生」に燃える笠松競馬場。本年度は開催自粛が長引き、人馬がゲートインできない異常事態が続いた(昨年4~8月)。厩舎関係者らへの補償費や競馬場維持費は10億円規模に膨張。巨額赤字を抱え込み、レース再開は「マイナスからのスタート」になった。

 競馬組合では18日、笠松競馬に所属する騎手たち(期間限定騎乗の騎手も含む)に新型コロナウイルスの感染が広がったとして、21~25日に予定されていた梅花シリーズの開催を取りやめた。1月末からの2開催の前後で、所属騎手計10人がコロナウイルス感染が判明。18日には、新たに1人の感染が明らかになった。

 前回・如月シリーズ(7~11日)最終日のレース終了以降に2人、18日にも新たに感染者が出たことから、組合では「レース開催期間中に感染したとみられる」として、クラスターが発生している状況と判断。次回開催の取りやめを決めた。

 開催期間中、騎手控室では、レースを終えたばかりの騎手たちがパトロールビデオを見ながら、マスクなしで話し合ったりすることもあるため、濃厚接触する可能性があるという。組合では感染防止策の徹底に取り組んでいるが、それぞれの対応が不十分だったことになった。

■経営状況に「逆風」が吹けば、一気に赤字転落

 インターネット投票と巣ごもり需要の恩恵を受けて、再開後の馬券販売は好調だ。競馬組合では「単年度赤字は必至だが、2021年度収支は『マイナス5億円ほど』に抑えられる」と見通しを示した(昨年12月)。公正確保を第一に生まれ変わった競馬場として「クリーン度100%」をアピール。魅力あるレースづくりに努め、馬券を購入して応援するファンの後押しを得られれば、さらに赤字額を減らすことも可能だ。
                    
 「巨大企業」のJRAに対して、「中小企業」ともいえる地方競馬。かつては30場ほどあったが、2000年代にバタバタと廃止が相次ぎ、現在では15場(13主催者)に半減。笠松のように経営状況に「逆風」が吹けば、一気に赤字転落。各場とも1年ごとの勝負で、生き残りを懸けた「サバイバルレース」が繰り広げられてきた。

 本年度、他地区の地方競馬が右肩上がりで売り上げを伸ばす一方、笠松競馬は大きく出遅れてしまった。1400メート戦なら、他馬が500メートル以上走った時点で、笠松の馬がようやくスタート。再開後は順調だったが、1月末から所属騎手計11人がコロナウイルスに感染。期間限定騎手も含まれており、コロナ禍の追い打ちは深刻。笠松だけ大きく離され、最後方から独自の戦いとなっている。

 一昨年6月、岐阜県警の家宅捜索が入り、騎手・調教師による馬券不正購入が発覚してから1年8カ月。所得税の申告漏れも明らかになり、開催自粛は約8カ月間にも及び、昨年9月にレースは再開された。開催日数を95日間から58日間へと大幅に減らしたが、前代未聞の「黒い金」に大揺れし、名馬、名手の里の信頼は失墜。「再開してもネット上で馬券を売ってもらえるのか、競馬ファンに馬券を買ってもらえるのか」という厳しい見方もあったが、ファンは笠松を見捨てずにレース再開を待ってくれていた。

 所属ジョッキーは半減し、競走馬も100頭ほどが流出。乗り役不足が深刻だったが、名古屋の騎手や、全国から駆け付けてくれた期間限定騎乗の騎手たちのサポートを受けて、レースは何とか続行。背中を押してくれるファンの存在も大きな力となっており、「新生・笠松競馬」として巻き返しを図っている。コロナ禍で1開催が取りやめとなり、本年度は残り2開催になってしまったが、競馬組合も赤字幅を少しでも減らそうと、3月末のゴールを目指している。

祝日開催でにぎわった場内。ゴール前のスタンドでは若いファンの姿も目立った

■補償費や競馬場維持費が毎月2億円規模

 競馬は競走馬がいなくては始まらない。レース再開のためには、やはり「馬たちが笠松の厩舎に存在すること」が生命線であり、笠松から流出させないことが第一。そして調教師、騎手、厩務員ら厩舎関係者の生活を守る必要があった。このため、開催自粛中もレースに参戦可能だったとして、賞金以外の出走手当相当分の補償費が支給された。このほか競馬場の維持・管理費、借地代、職員給与などの必要経費を含めて、毎月2億円規模の赤字となり、4~8月の5カ月間での赤字額は10億円ほどに膨らんだ。

 心配された再開後の馬券販売。競馬組合では昨年12月、赤字額は「年度末に5億2300万円」という数字をはじき出した。これは、前年度の実績などから1日の馬券売り上げを約4億円と見込んでのもの。本年度に開催される58日間で、馬券収入を231億8700万円(75億8500万円減額)に補正した。

■「売り上げが伸びれば、赤字は4億、3億円にも減らせる」


 赤字分を充当するため、ネット販売による黒字化でため込んだ環境整備基金のうち10億円を限度として、財政調整基金とみなして使用。懸案の厩舎移転をはじめ競馬場の改修工事は先送り。環境整備基金を取り崩し、一般財源に繰り入れるなどして調整した。
  
 競馬組合では、5億円超と見込んだ赤字額について「馬券の売り上げによって変わってくる数字。3月末になってみて、どれだけマイナスになるのか。売り上げが伸びれば赤字は4億、3億円にも減らせる。できるだけ基金は取り崩したくないです」という。95日間のレースが通年で実施されていれば、年間売り上げは、過去最高に迫る400億円の大台も期待できたことにもなる。

 今年1月以降の馬券販売をみてみると、目安となる売得金(発売額から返還金を差し引いた数字)は、新春シリーズが1日平均5億2000万円(前年4億7000万円)、睦月シリーズが5億6100万円(一昨年3億500万円)と大幅アップ。如月シリーズは1日平均3億9500万円(一昨年3億1900万円)。販売額は競合する他場の開催状況(昼間かナイターか)にも大きく左右される。例年、門別をはじめ岩手、金沢が冬季休業となる2月前後は笠松の馬券販売が伸びる傾向にもあったが。3月に予定されている2開催ではどんな数字になるか。

場内の飲食店で販売されて、人気を集めている「チョコバナナ」

■かわいい「チョコバナナ」の販売、場内で開始

このところの降雪やコロナ禍、さらには一宮に場外馬券発売所が開設されたこともあって、客足は1日600人前後にダウンしている。それでも2月11日の祝日開催日には1252人が入場。若者や親子連れの姿も目立った。競馬ファンにとっては、馬券を買ってお気に入りのグルメを味わいながら、のんびりとレースを観戦するひとときは、最高のぜいたくといえそうだ。正門ではオグリキャップ像が出迎えてくれるし、昭和レトロ感が漂う「ホッとできる空間」は昔のままである。場内の飲食店「丸金食堂」では、前開催からユニークな手作り商品「チョコバナナ」(1本200円)の販売を開始した。アイデアを生かした造形美で「かわいい」と来場者の注目を集めており、「SNSで見たと言って買ってくださる方が続出した」とか。笠松競馬場ならではのヒット商品となるか。撮影時にも親子連れらが買い求めていた。

■ネット投票「SPAT4」36.7%、「オッズパーク」29.3%

 好調な馬券のインターネット投票は、前開催も90%を占めた。構成比はSPAT4が最も売れて36.7%、オッズパークが29.3%、楽天競馬が20.3%。笠松再開時に対応が遅れたJRAネット投票は13.7%止まりだ。本場での馬券販売と違って、ネット投票の場合、笠松では4業者平均で10.6%ほどの業務委託料が掛かる。2004年にライブドアが笠松に参入しようとした時には「手数料5%程度」の提案があったが、その後も低迷が続いた地方競馬に対して、ネット業者の立場は随分と強くなったものだ。スマホによるライブ映像、出馬表の充実は「ネット革命」にもなった。

 県調騎会の後藤正義会長は「もっとダメージを受けると覚悟していたが、思っていたよりファンから応援していただき、ほっとしている。今は競馬ができる喜びを味わっている」と、笠松競馬ファンの応援を歓迎している。

 不祥事はあったが、レースが実施され、「よし、買ってみるか」と思える魅力ある番組があれば、馬券は売れる。昔は中央競馬ファン、地方競馬ファンと分かれていたような気がするが、近年ではネット投票の充実で「土日は中央、平日は地方」といった傾向も定着してきている。中央競馬は10分刻みで発走する3場開催も多く、ネットを駆使して馬券購入を楽しむファンも多いことだろう。地方競馬の場合もネットやスカパーでライブ中継を見ることができ、各地のレースにも手を出したくもなる。笠松競馬の馬券販売額は「勝ち組」となった高知や兵庫など他地区に比べれば少ない方だが、よくぞここまで持ち直したものだ。

近走不振の馬たちを集めたレース「C級サバイバル」。高配当が見込め、1月のレースでは40万円馬券も飛び出した

■「C級サバイバル」競走が面白い

 万馬券ゲットを夢見るファンに、魅力あるレースを提供しているのが笠松競馬の「C級サバイバル」だ。高知競馬の「一発逆転ファイナルレース」にも似ており、近走が凡走続きの馬ばかりを集めて、実力伯仲ともいえるメンバー構成で、高配当も期待できる一戦だ。

 概要は、C級馬を賞金上位と下位に分け、1開催ごとに上位、下位を交互に実施。前5走が4着以下(前3走は東海地区所属で出走)の馬のうち、番組賞金順に選出される。同一馬主または同じ厩舎は2頭までとなっている。

 一昨年からスタート。当初は第4レースで実施されていたが、木曜か金曜日の最終レースに行われるようになった。今年は1月に5→6→1番人気で3連単5万6620円。9→6→7番人気の大荒れ決着では40万3160円の高配当を呼んだ。前回開催では人気馬の1頭が除外となり、7頭立ての少頭数になったが、万馬券は確保した。メイン並みに売れたが、このレースで2500万円分が返還。最終レースだっただけに売り上げを減らしてしまい、ちょっぴり残念だった。

 これからも注目を集めそうなC級サバイバル。メンバーは限られてきそうだが、競馬で再戦続きはよくあること。C級でくすぶる馬は多いことだし、できれば1開催に2回ほど組めれば、もっと定着。大荒れが期待できるレースとして、人気を集めそうだ。地方競馬では3連単の売れ行きが特にいいように、ファンはガチガチのレースよりも高配当の「夢馬券」を追い求めている。かつては人気薄の逃げ馬がよく馬券に絡んで「荒れる競馬場」のイメージも強かった笠松。枠単があった頃には厚め1点で万馬券をゲットできたこともあった。番組編成で、波乱含みのレースをもっと増やせば、馬券はもっと売れることだろう。

 C級サバイバルというレース名は、存廃問題が浮上した各地方競馬のサバイバルレースで勝ち残った笠松競馬だけに重みがある。負け続けて、後がないようなC級馬たちの行く先も案じられるが、そこのところは競走馬の預託料が安い笠松競馬ならではか。なかなか勝利を挙げられなくても、月2回きっちりと走ってくれれば、競走馬生活は続けられそうだ。

コロナウイルス感染者が続出している笠松競馬。マスクを着用してレースに臨む騎手の姿も

■コロナ禍、問われるリスク管理

 騎手たちの新型コロナウイルス感染では、騎乗変更が相次いだ。睦月シリーズで2人感染、2人が濃厚接触の疑い。如月シリーズでは4人に続いて2人の感染が発表され、その後も1人、また1人と感染者は計11人に増えた。

 この競馬場の「リスク管理はどうなってるの」と言いたいところだが、相手が新型コロナウイルスでは…。調整ルームなどがある装鞍所エリアは、監視カメラで不正防止が徹底されているが、ウイルスという「見えない敵」が相手では、感染源がどこに潜んでいるか分からない。

 騎手たちは、レースではバチバチと闘志をぶつけ合うが、開催が終われば「仲良しサークル」の雰囲気もある。調教もない全休日の前日などは気が緩むだろうし、みんなで飲食に出掛けたくなるだろうが、しばらくはお互いに自制心をマックスにして、ウイルス感染を阻止していきたい。

 調整ルームや騎手控室は、密になりやすい限られた空間。期間限定騎乗で遠征してきた騎手たちもダウンしており、申し訳ない思いでいっぱいだ。幸い感染者は重症化することなく、1開催の療養でレースに復帰できた。競馬組合、厩舎関係者も一丸となって、これ以上の感染者を出さないように防止策を徹底したい。パドックに向かう騎手バスは2台になり、名古屋と笠松の騎手が分かれて乗車したり、マスクを着用してレースに臨む騎手の姿も見られるように、「個人事業主」としての自衛策は必要だ。

桜花賞馬オグリローマンの孫娘マーゴットロマンス。岡部誠騎手が騎乗した

■オグリローマン孫娘4着

 トラブル続きの笠松競馬だが、前開催からオグリキャップ孫娘のレディアイコが登場し、盛り上がってきた。最終日には、桜花賞馬・オグリローマンの孫娘で、同じく芦毛馬のマーゴットロマンス(牝3歳、藤田正治厩舎)のレースも観戦できた。父ベーカバド、母オグリロマンス、母父はノーザンテーストという血統。岡部誠騎手の騎乗で3番人気だったが、伸び切れずに4着。馬体重376キロと小柄なだけに、今の重い馬場は不向きか。12戦して未勝利(2着2回)だが、脚抜きの良い馬場になれば、勝利のチャンスも巡ってきそうだ。

  昨春は「冬眠続き」だった笠松競馬だが、今年の春はしっかりと目を覚まして、C級サバイバル出走馬のようにたくましく生き残っていきたい。